Ken's Veterinary Clinic Tokyo

相談専門 動物クリニック

                               












































































































































院長のコラム 2019年2月14日


『子ネコの拾い方』







子ネコの拾い方




2019年2月14日

皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。

  一週間ほど前のことですが、院長の執務室でPC画面とにらめっこをしていると窓外でネコの声が聞こえてきました。こんな寒いのに早、恋の季節到来か、そう言えば暦の上では確かに春を迎えているなぁと思いました。ネコの妊娠期間は9週前後ですので東京では桜が花開く頃にはよちよちした baby を目にし始めることになる筈です。野良ネコの場合、木造家屋の縁の下などの雨露が防げる場所で出産しますが全ての子ネコが順調に育つわけではありません。不幸にして母親とはぐれてしまい、道ばたや空き地を歩いているところを拾われるケースが今春以降も多発するでしょう。

 問題なく飲食し元気そうであれば、拾い主の決心次第ですが、飼うこと自体は困難でありません。もっとも、近くの開業獣医に早めに相談し、この先の駆虫やワクチン接種の計画を立てて貰うべきでしょう。

 院長も 3,4歳の頃、子ネコを拾って持ち帰りましたが、翌日には冷たくなっていたとの哀しい経験をしました。親は動物をまともに飼育した経験が無く、加えるに家族の中で生き物が好きなのは院長のみであり、為す術がありませんでした。そのようなことを2度ほど繰り返したでしょうか。母親と一緒に庭の隅に亡骸を埋めたことを朧ろに覚えています。そこに獣医師としての自分の原点があったのか、と今思うところですね。

以下参考サイト:

経口補水液. (2019, January 16). In Wikipedia. Retrieved 01:18, January 16, 2019, from https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=経口補水液







Largest Mare Cat Pet

http://thegolfclub.info/related/largest-mare-cat-pet.html

拾った子ネコがこんなに大きくなったら愉快ですね。と言ってもどうもネコではない気が!?






 では子ネコに問題がある場合、つまりは弱っている場合ですが、これは単刀直入に言うとなかなか厳しいかな、となります。よしっ、保護しようと決めた拾い主が取るべき手立てですが、真っ先に保温と補液を行って下さい (夏場には体温管理は適宜調整してください)。獣医クリニックではオペ後の体温管理の為に温度センサーを備えた保温マットや赤外線ランプを利用しますがこれが子ネコの保温に転用できます。しかしご家庭の場合は保温マットすらお持ちではない方が多いでしょう。1つの方法としては、適当な大きさの段ボール箱の内側に大きめのビニール袋を貼り合わせ、底にペットシーツ、お湯を入れた水枕、段ボール板の純に重ね、更に再度ビニール袋を内張します。ここにペットシーツでくるんだ子ネコを寝かす作戦です。段ボール箱の蓋を軽く閉じて中身が確認出来る様にします。一時も目を離さずに動きが出るかを確認して下さい。

 回復の兆しがあれば次に脱水症状+低血糖状態を改善すべく、ブドウ糖と食塩を極く薄く溶いた水をスポイトにて口から少しずつ呑ませます。吸啜反射(きゅうてつはんしゃ、乳首を添えると吸う反射)が見られる場合、薄手のタオル地を糸で縛り乳首状にして水分を吸わせる方法もあります。経口補水液を調整するのは家庭では各成分の調達だけでも苦労すると思います。ドラッグストアで人間用のものを入手して利用するのも手っ取り早くもあります。ブドウ糖を固めたタブレット形状の菓子類を疲れた時に口にする方もそこそこ見られますが、それを温湯に溶かして飲ませ、手っ取り早く血糖値を上昇させる作戦ですが、脱水傾向にある事に留意し、低濃度の溶液を少しずつ、出来れば薄めた経口補水液と口語に与え様子を見ます。因みに、動物病院では、輸液用の血管も確保出来ない場合には輸液を皮下に注入する等の処置を行うケースもあります。オペ後の回復用輸液等は様々な種類が用意されているのですが、ここでは詳細は省きます。

 次のハードルは自力で餌を食べる様になるかですが、残念ながらそのハードルを越えてくれる子ネコは多くはありません。一時は子ネコが動き始めて水分を摂り始めてもそれが続かないのです。助けを求めても開業獣医師によっては来院を断るところもありますので事前に電話して確認すると良いでしょう。これは一見、酷薄な行為に思えるかも知れませんが、獣医療リソースを他の命の救える動物の為に振り当てる意味があります。野生動物の世界では、親からはぐれた幼獣、何らかの疾患で弱っていた個体はそのまま死にゆくだけのところ、それを拾って助けようとしたその行為だけで、功徳を施した立派な行為と言えると院長は思います。








 子ネコが元気であれ弱っているのであれ注意すべき事があります。既に家庭内でネコを飼育している場合、拾いネコ経由で新たな感染症や寄生虫疾患に罹患するおそれがあります。その様な危険性を想定し、他のネコとは物理的に隔離できる空間に拾いネコを持ち込むことが重要です。拾い主側も自身が感染症の媒介者とならないよう、注意が必要です。ネコに限らず微生物学的制御のレベルの不明な動物はクリーンな動物には迂闊に近づけない注意が大切です。

 たかが子ネコ一匹と世の人は思うかもしれませんが、されど命の重さはわれわれと寸分違いはありません。子供さんが子ネコを拾ってきても、お母さん、どうぞ無闇に叱らないでください。人間と動物との関係性を考える大切な機会でもあるのですから。

 院長注:日本語版 wikipedia にて経口補水液の項を見ると、1つの作り方として、水1リットルに対して、ブドウ糖 20g、塩化ナトリウム(食塩)3.5g、炭酸水素ナトリウム(重曹)2.5g、塩化カリウム1.5gの割合で作るとあります。これは人間の成人用ですが、これに準じて作れば特に問題は無かろうとと思います。薬局でも各種の経口補液が売られていますので適宜希釈するなどして投与してみるのも良いでしょう。但し、子ネコが下痢を来している場合、経口からの補液は腸管に負担を掛けて症状を悪化させる危険性があります。たとい絶滅危惧種の動物の幼獣であってもこの様なケースでは治療はなかなか大変だろうと考えます。冬場に掛かる寒い時節には、産業用の飼育動物(家畜)でも幼若個体にウイルス性の下痢症 (新生仔下痢症)が見られますが、治療は楽ではない筈です。