ビタミンDの話 |
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2019年2月15日 皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です ヒルズ(日本ヒルズ・コルゲート株式会社)の公式ホームページを見ると、本年2019年2月2日付けで、「犬用缶詰の一部の製品に、ビタミンDが過剰に含まれていることが判明いたしましたため、該当製品の使用中止をお願いすると共に弊社にて自主的に回収させていただく運びとなりました」との告知が掲載されています。その後2月8日になり、「日本へ輸出された該当製品の生産日は特定されており輸入量も極めて限定されています」と追記されており、どうやら短期間の製造品であり且つ国内への輸入絶対量は少なかったようです。長期にわたり高濃度のビタミンDを摂取すると問題ですが、今回は特に実害はないと見て良いでしょう。 以下参考サイト:日本ヒルズ・コルゲート株式会社https://www.hills.co.jp/ |
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本コラム執筆に際し、Vitamin D の語で youtube 動画やweb サイトをざっと検索してみての院長の率直な感想ですが、ビタミン或いは栄養の話となると、医学的基礎知識に欠けた者が低レベルのいい加減な情報を拡散し、その背景には営利を目指す姿勢が垣間見える例、が非常に多いと感じます。ビタミンDに関しては、紫外線から完全に遮断された状態であっても経口的に摂れば問題がありませんし、栄養状態の改善された本邦に於いては寧ろビタミンD剤(肝油など)を徒に摂取すると過剰症を引き起こす危険性の方が大きいかもしれません。いい加減な健康情報を無責任にまき散らす者も居れば、それを疑うことなく信じ込んでしまう者もいて、専門家サイドは口をあんぐり開けて見ているだけとなってしまいます。 さて、ビタミンDの役割は簡単に表現すれば、食物に含まれるビタミンDが腸管で吸収されて血中に入った後、腎臓と肝臓で活性型ビタミンDに変えられ、それが腸からのカルシウムとリンの吸収を増大させ、血中のカルシウム濃度及びリン濃度を高める役割となります。この2つは骨の主成分でもあります。骨は一見静かな、動きのない器官に見えますが、実際には毎日壊したり(破骨)、作ったり(造骨)がバランス良く繰り返されています。カルシウムの血中濃度が低くなると、血中のカルシウム濃度を高め、維持しようと副甲状腺(これは血中のカルシウム濃度を一定に維持しようと増大させる側のコントローラーです)からホルモンが放出され破骨が高まる一方、造骨時の材料が不足してしまい骨がスカスカになってしまいます。成長途中であれば体重の増大に耐えられずに骨が曲がってしまったり(骨軟化症由来の変形)、また成長後では骨折し易くなります(骨粗鬆症)。・・・どうも話は簡単ではなかったようです。 血中のカルシウム、カリウム、ナトリウム、リンなどの濃度(水分電解質濃度)が一定の正常値に保たれる事は生命維持に必須ゆえ、これが第一に優先されると言うわけです。ご先祖様が海の中で育まれたことが関与していると考えて間違いは無いのですが、その様な<塩気>の環境の中で骨を含め各臓器が正しく機能するように造られて来ているわけですね。 塩分と生物 (以下wikipedia から引用)海水. (2019, January 29). In Wikipedia. Retrieved 22:00, January 29, 2019, from https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=海水塩分組成の比率はヒトの体液とほぼ同じであるとまことしやかに言われることもある(一部の天然塩の宣伝など)が、ヒト生体の塩分濃度は約0.9%であり、海水の塩分濃度は生体よりもかなり高い。大量に飲まない限り害はないが、塩分が多く浸透圧が高すぎるため水分の摂取には適さない。また、体質によりマグネシウムイオンに対して敏感な場合は下痢の原因となる。ただし海に近い場所に生息する動物は、塩分の摂取を目的として海水を飲用する場合はある(アオバトなど)。しかしヒトの場合は、そのまま海水を飲用するのではなく、水分を蒸発させて固体の食塩を採取するか、過去に海だった陸地において岩塩を採取し、摂取する。塩分組成の比率については、現在の塩分濃度よりも、その生物が生まれた当時の海水の塩分濃度・組成に近いと言える[5]。硬骨魚類を含む多くの脊椎動物は塩分濃度は0.8-0.9%前後であり、これは4億年ぐらい前の海水の塩分濃度に近いと考えられている[6]。脊椎動物の登場が5億4200万年前、脊椎動物(両生類)の上陸が3億6000万年前と言われている。一方で硬骨魚類と異なり淡水での進化を経験していない軟骨魚類、クラゲやイソギンチャクなどの刺胞動物、貝やイカ・タコなどの軟体動物、ウニやヒトデなどの棘皮動物、ホヤ類、甲殻類などの無脊椎動物については、体液は海水とほぼ同じ組成で、浸透圧も海水と等張である。 現在の海水の塩化ナトリウム濃度は3%程度と血中の塩気と比べると3倍以上高くなっています。地上にある塩が雨水に溶け込んで海に流れ、次第に濃くなっていったものと思われます。その海の中でずっと過ごしてきた軟骨魚類までは現在の塩分濃度と同じ<塩気>で問題なく生命維持が出来る様に塩分の変化に合わせて進化して行った一方、硬骨魚類は一度海から離れて淡水域に進み、昔の海水組成を抱えたまま進化して哺乳動物に至る、という訳です。なかなか面白い話ですね。 個人的な話となり恐縮ですが、院長はどうも血中のナトリウム濃度が低下しにくい遺伝的背景を抱えている模様で、降圧剤を服用したり減塩に努めたりですがなかなか低下しません・・・。ひょっとすと先祖が海から遠い山岳系で、塩が不足する環境で生き延びるためにナトリウムを抱え込む体質となったのかもしれませんね。 |
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骨の形成、維持に関しては話は単純なものではなく、カルシウム濃度調整に関与する臓器である腎臓(不要なものは排出し必要なものは再吸収して体液のバランスを保つ臓器)が持つ別の機能であるリンの排泄、再吸収能も絡んで来ます。腎臓のこの機能に問題があり低リン酸血症となると骨の材料の1つが不足してしまいますので、低カルシウム血症の時と同じ骨の問題が起きてきます。この場合ビタミンDを補給しても改善は見られません。リン剤を補う治療になります。 極めて大切なものを喩えて肝心要(かんじんかなめ)と表現しますが、肝腎要とも表記されます。体内の塩類濃度の適切な維持、それとここでは触れませんが造血機能の調整などにも腎臓が関与しており、文字通りのカナメの臓器ですね。言うなれば腎臓は母なる海の環境を整える臓器とも言えるでしょうか。この臓器を専門とする腎臓内科は或る意味、内科の中の内科とも言えるのではと思います。 上でも触れましたが、副甲状腺と言う甲状腺の脇に付いている小さな豆みたいな器官がありますが、これは血中のカルシウム濃度を一定に保つ(増大する側の)コントローラーとして働きます。血中のカルシウム濃度が低くなると、カルシトニンと言うホルモンを出して、骨の破骨細胞を活性化させ、骨からカルシウムを血中に流すと同時に、腎臓に対してもカルシウム濃度を高めるように働けとハッパを掛ける役目を果たします。まぁ骨はカルシウムのプール(貯蔵庫)としての機能も持っていることになります。支出(破骨)と収入(造骨)の絶妙なバランスで血中のカルシウムとリンの濃度を絶妙に保ちます。 動物の身体の機能はこの様な例からもお分かりと思いますが、極めて複雑な調整機能が絡み合って維持されています。逆に言えば、何かの特定の食品成分を摂取したからと言って身体が本質的な改善を見ると言う単純なものではありません。実は薬についても同じ事が言えるのですが、この話は漢方の話題と共にまた別の機会に。 |
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もうかれこれ20年ほど前の話となりますが、短期間ですが新世界ザルのマーモセットを飼育していたことがありました。これは、岩手大の獣医学科教授を務められていた大学の先輩から話があり、実験動物中央研究所のT先生がマーモセットの本を上梓するので形態学の項を分担執筆してくれないかとの依頼を受けたことに関与する話となります。 マーモセットは専用に作られたビスケットを手に持ってガリガリ食べるのですが、不思議なことにビタミンD大量依存性(依存性とはそれが無いと困ると言うこと)があり、ビスケットにビタミンD3剤を噴霧してから給餌していました。アマゾンのジャングルの中では昆虫食の比率が高いと推測しますが、これらが高濃度のビタミンDを含むがゆえに、Dの吸収を強く抑制する仕組みが備わり、その為に通常の餌を食べさせているとD不足になってしまうのかなどと考えています。マーモセットのビタミンD依存性に関する機序については院長の勉強不足でこれ以上のことは書けませんが、もしご存知の方がおられましたら連絡を戴ければと思います。 ところでビタミンDの一部は紫外線を浴びた皮下組織でも作られるのですが、裸のサルである人間と異なり動物は毛皮を纏っていますので、毛の色調や毛の密度などにより皮膚への紫外線到達量を調整している可能性があります。これに関しては経口からのビタミンD摂取量とも関係しますが研究は進んでいないのではと思います。また完全な地下生活性のモグラは紫外線とは無縁の生活ですが、これも昆虫食などを通じて必要なビタミンD量を確保しているのでしょう。 動物の種特異的なビタミン依存性については、人間のビタミンC依存性を含め、後日書きたいと思います。 |
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