Ken's Veterinary Clinic Tokyo

相談専門 動物クリニック

                               












































































































































































































 

院長のコラム 2019年2月20日 


『野良ネコは拾う勿れ』







野良ネコは拾う勿れ




2019年2月20日

皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です

 子ネコの拾い方の記事を執筆している時に、そういえば少し前に野良ネコ由来で亡くなった女性が居たなぁと頭を掠めていました。web を検索したところ、幾つかのマスコミがそれについての記事を掲載しているのが見つかりました。

 その中でも、2017年8月31日付けの読売新聞のオンライン記事 『野良猫に触るのは危険!「死に至る病」感染の恐れも』 が分かり易く、質も高い記事と思い、概略をご紹介します。著者はペットジャーナリストの阪根 美果( さかね・みか )氏です。記事は無料で読めますのて是非お目通し下さい。

https://www.yomiuri.co.jp/fukayomi/20170829-OYT8T50100/

『野良猫に触るのは危険!「死に至る病」感染の恐れも』









 *2016年夏、関西在住の50代女性が連れて帰ろうとした野良ネコに 噛 まれ 「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」 を発症し、10日後に死亡しました。マダニに直接咬まれての感染例が通常ですが、このケースではマダニに咬まれていた野良猫から間接的にウイルス感染した初のケースと見られています(厚生省発表)。

https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002u1pm-att/2r9852000002u1r3.pdf

病原微生物検出情報(IASR)速報 

国内で初めて診断された重症熱性血小板減少症候群患者


 骨髄での造血機能の一部が障碍され、かさぶたの材料となる血小板が著しく減少することから、軽微な接触刺激等により皮下出血を来したり、消化管出血由来のタール様便を排泄するようになります。白血球数も減少し、免疫能の低下、赤血球の被貪食亢進由来の貧血も来たし、発熱と相まって全身状態は急速にに悪化するものと院長は推測します。対症療法以外に治療法はありません。

 近い感染症に腎症候性出血熱と言う中国の一部の地域で蔓延している、ネズミからヒトにうつる感染症がありますが、こちらも全身の出血傾向に加え、腎臓が冒されます。院長も野生のネズミ類の捕獲の為にフィールドに出た経験がありますが、この様な感染症を未然に防ぐため、ステンレスの金網製の手袋を装着してネズミを取り扱いました。職業柄、これまでにイヌ、ネコは勿論、アライグマ、ネズミ、更にはモグラにも咬まれたことがありますが、幸いにして問題は起きませんでした。

 マダニからの致死率の高いウイルス感染症を防ぐには特に夏場に掛けては無闇に藪に入らない、肌を露出しない等の対策が必要です。ツツガムシの生息地でも同様の対策が必要ですが、汚染地区でうっかりキャンプをしないなどの注意も必要ですね。木の枝に留まったダニは下を通る動物の体熱や二酸化炭素に反応して落下しますので、帽子を被り、首元も固めた方が良いでしょう。

 この報道に対して、阪根氏は、近年 「殺処分ゼロ」 を目指して多くの団体活動するに至っており、一般人が野良猫を見つけて保護するケースも多く見られるが 「野良猫に触るのは実はとても危険ということを認識してほしい」 と警鐘を鳴らしています。 一例として、会社の敷地内に野良ネコの親子が暮らしており、子ネコが大人しそうなので捕獲しようとしたところ、子ネコが豹変して咬傷を負ってしまった、その後、指先から肩まで真っ赤に腫れ上がり、しばらく休職して治療しなければならなかったが、パスツレラ症との診断を受けた、との事例を挙げています。野良猫を保護する時は、専門家に依頼するのが一番である、との主張です。実は獣医師は、人畜共通感染症に対する知識を叩き込んでいますので、全ての動物に対して、常に<コイツは大丈夫か?>との、感染症に対する警戒感を持って接していますので、阪根氏の主張には、今更感を覚えるのですが、斯様に声を挙げて啓蒙活動をして呉れる者には感謝の気持ちしかありません。







『重症熱性血小板減少症候群(SFTS)』に注意しましょう。

岡山県庁ホームページ

http://www.pref.okayama.jp/page/343283.html

このサイトでは大変分かり易い記述で SFTS への注意が呼びかけられています。





 院長の考えとしては、野良ネコが人間に容易に捕獲されんとした段階で、当該ネコは既に病気に罹患している可能性がある事をまず指摘したいと思います。野良ネコは基本、半野生獣と心得て迂闊に手を出さないことが肝要と思います。阪根氏とはほぼ同意見ですね。

 阪根氏自身の考えは明確には示されていない様に見えますが、野良ネコを保護の名の下に捕獲する行為にはそれが手慣れた者に拠るものとしても院長は賛成出来ません。捕獲したネコを人畜共通感染からフリーにした状態に持って行くまでには多大の手間と医療費が必要とされますが、保護団体がどの程度までそれを実現出来ているかに疑問が残るからです。仮に、何らかの重篤な感染症や寄生虫症を潜在的に抱えているネコを第三者に譲渡し、その後相手側が何らかの疾病を罹患した場合、製造物責任法ではありませんが、民事上の係争を招来する虞も捨てきれません。

 一定レベル以上に<綺麗>に仕上げて譲渡する事が出来ないのであれば、捕獲者が自身らで捕獲ネコを終生飼育し続けるだけの覚悟が必要ではと院長は考えます。浮浪ネコの殺処分を減らしたいとの気持は大変立派なものですが、感染症や寄生虫まみれのネコを相手にするには公衆衛生上の問題を引き起こし、捕獲者サイド、また同様に被提供者サイドに、人間としての幸福度を低下させる危険性があると言う事です。

 将来的に厚生省が乗り出して、動物を譲渡する際の感染症レベルの規定を設けるかもしれませんね。「検疫」をパスした証明書がある個体に限り譲渡が許可されると言う仕組みです。現況ではこの辺りが曖昧にされたまま、殺処分される運命のネコを譲渡すると呼び掛ける自治体も散見するところですが、そこに勤務するする獣医師は一体何を遣っているのでしょうか?公衆衛生上の問題点に片目をつむり(危険性を周知せず)、世論に押し流されているのであれば、ちょっと情けなく思います。

 この様な事を考えると、現状では信用有るブリーダーからネコを入手する、或いは獣医師による検診をパスした室内繁殖ネコの譲渡を受けるのが矢張り最善ですね。

 以上、子ネコの拾い方で記述したものとは多少矛盾する様な内容ですが、公衆衛生面から考えても、基本、「野良ネコは拾う勿れ」、との結論です。ところで、この件に関して環境省側は何かコメントしているのでしょうか?