働き者のナマケモノ |
||
2019年3月10日 皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 当クリニックのシンボルマークは枝からぶら下がるナマケモノのイラストです。これは何も院長自身を諧謔の精神でシンボライズした訳では無く、院長が現在、動物のぶら下がり動作について研究を続けている事に関係しています・・・。因みにこのイラストは米国のイラストレーターに特注して作製して貰い、院長が全ての権利を買い取ったものです。 ぶら下がるとは言っても、ナマケモノは大きくカーブした強大な爪をフックの様に引っかけてぶら下がりを行いますので、テナガザルなどが指を曲げて枝にぶら下がる (親指は利用せず、残りの4指をフック状に曲げそれでぶら下がる、筋収縮に拠る)のとは大きく異なり、エネルギー消費は大変少ない筈です。ぶら下がりながらも時々水平方向に移動しますが、その際に前後肢(ぜんこうし、手足のこと)をどの様に動かし、また体幹 (たいかん、手足を除いた胴体のこと)の揺れはどうなるのか記録すべく、数カ所の動物園でビデオ撮影を行いましたが、数時間掛けても動いている姿を全く撮影できませんでした。樹上の、枝が三つ叉になった様な場所に挟まって丸まり、微動だにしません。動物園に協力を頼んでビデオ機材を設置し、夜間等に高感度撮影すれば録れるとは思いますが、そこまで行く前に気持が萎えてしまったのです。これもナマケモノの影響かもしれませんけれど。 以下本コラム作成の参考サイト:https://en.wikipedia.org/wiki/Slothhttps://ja.wikipedia.org/wiki/ナマケモノhttps://en.wikipedia.org/wiki/Three-toed_slothhttps://en.wikipedia.org/wiki/Megatheriumhttps://ja.wikipedia.org/wiki/メガテリウム |
||
ナマケモノは以前は貧歯目に分類されていましたが、実はナマケモノには立派な歯があります。近縁のアリクイには一本も無いのは確かですが。現在は背骨の関節構造が他の哺乳類と異なっていることから アルマジロ 被甲目 Cingulata とともに異節上目 Xenarthra にまとめられ、ナマケモノとアリクイはその下の 有毛目 Pilosa に分類されます。異節上目 Xenarthra は中南米で独特に発達した哺乳類の一群のようですね。 ナマケモノは系統(=血の濃さの近縁関係)的にはアリクイなどに近いとされる訳ですが、オオアリクイを観察すると、手の爪が巨大なフック状を呈し、地上を歩く際には、ゲンコを握るようにして歩きますので (ナックルウォーキングの一種ですが類人猿のものとは異なります)、それを木に引っかければぶら下がり動物の誕生と相成ります。実際 コアリクイは爪のサイズは小振りですが盛んに木登りをします。数千年前まではオオナマケモノ (メガテリウム)と言う巨大な地上性の仲間が居て、復元された化石 から考えると、手の方は オオアリクイ型のゲンコ型、一方足は開いたペタンコ型に見えます。いずれも近縁の動物は手の形が同じ様に変わり、ガリガリと物を削るに適した道具になっています。その形質を保ったまま、地上を歩き回るご先祖様 (但し手が道具化しているゆえ四足歩行はヨタヨタの傾向) から分かれ、今度は究極のぶら下がり省エネ動物と化して現在に生き延びて来たのがナマケモノでしょう (上記内容は5年ほど前に学会発表しています)。 海外の動物園ではナマケモノに働いて貰い、観客の目の前でぶら下がり移動をさせたりするところもあります。動物虐待と非難される可能性もなきにしもあらずですが、完全なる平和主義者のナマケモノ君は愛嬌ある、にこやかな顔付きのまま、のそりと動きます。国内の動物園でも、少しぐらいなら寝ているだけのナマケモノに働いて貰い、動物園の経営安定の為に協力して貰うのも悪くはないのではと院長は思いますが如何でしょうか?人気も出そうに思います。まぁ、研究面でもヒントが得やすくなり大変有り難いのですが。但し、ナマケモノが慣れない運動でヘタってしまったら、楽屋で専用にあつらえたドリンク剤でも飲ませた方がいいかもしれません。ここら辺は獣医の腕の見せ所ですね。 |
||
一度、研究費からナマケモノを購入し、動物業者に依頼して個人輸入しようかと考えたことがありました。環境省 (当時はまだ環境庁でした) に電話して相談したところ、ミユビナマケモノは輸入できそうだとの返答を貰ったのですが、結局輸入は断念してしまいました。指導教官だったM先生は、ある動物を一生懸命研究していると次第に顔がその動物に似てくる、との持論でしたが、お前、近頃顔がサルに似てきたぞ、と褒められた事がありました。ナマケモノを輸入して飼育していたら顔が似てきたかもしれませんが、動きものろくなっていたのかも?! 尚、英名 sloth (スロース)は、中世英語 slowth に由来しますが、見ての通りで slow だからです。 他の四足獣とは重力方向に関して正反対の過ごし方をしますので、筋骨格系の形態&機能について興味を抱いています (研究をお考えの方は院長宛ご連絡ください)。ちなみにナマケモノが地上に降りると四肢で体幹をまともに支えることが出来ず、潰れたような姿になって這い進みます。水の中では浮力に助けられ、院長には巧みには見えませんが、泳ぐ事は可能です。泳法は<犬かき>ですね。 ナマケモノに近縁とされるオオアリクイとコアリクイについては別項で触れたいと思います。 |
||