ザギトワ選手と秋田犬マサル |
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2019年4月10日 皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 1年と 2ヶ月前になりますが、2018年 2月に開催された平昌冬期オリンピック大会では、日本勢が大活躍をしてくれ、院長も TVの前に齧り付いて夢中で見ていました。そだねーのカーリングチームの好ゲーム展開やスピードスケートでの金銀メダル獲得、またフィギュアスケート競技にて羽生結弦選手が見事男子シングルの連勝を成し遂げたことは大きな感動として院長の記憶に強く残っています。今でもそのシーンの幾つかがふと脳内再生されるほどです。他方、女子シングルではロシアのザギトワ選手が驚異的な粘りを見せ、15歳 9ヶ月で金メダルを獲得したことにも驚かされました。秋田犬を飼いたいとの希望に対し、秋田犬保存会から同年 5月に雌の子犬が贈呈され、彼女がマサルと命名したことは有名です。 世界フィギュアスケート大会 2019 がさいたまスーパーアリーナを会場として 3月20日〜24日に開催されたばかりですが、熾烈な戦いの中、ザギトワ選手はまたもや初日から素晴らしい演技を見せてくれ、金メダルを手にしました。当初はそのマサルを連れて今回日本を訪問したいとの希望でしたが、残念ながら手続きが間に合わないとの理由で断念したと報道されました。今回はこの手続き、即ちイヌを日本に上陸させる際に取られる検疫システムについて話を展開しましょう。内容的には前回の狂犬病の話の続きになります。 以下参考サイト:公益社団法人秋田犬保存会http://akitainu.sakura.ne.jp/人畜共通感染症 zoonosis ズーノウシスhttps://www.niid.go.jp/niid/ja/route/vertebrata.html国立感染症研究所 主な人畜共通感染症のリスト読んで字の如くで、同一の病原体により、ヒトとヒト以外の脊椎動物の双方が罹患する感染症のこと。寄生虫疾患も含みます。動物検疫所 狂犬病清浄国・地域からのイヌの輸入手続きhttp://www.maff.go.jp/aqs/animal/dog/import-free.html動物検疫所は農水省の機関です。狂犬病汚染国・地域からのイヌの輸入手続きhttp://www.maff.go.jp/aqs/animal/dog/import-other.html |
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狂犬病の項で、日本は鋭意努力した結果、60 年前には清浄化を達成した旨を書きましたが、折角クリーン化されても、国外から再び狂犬病ウイルスを持ち込まれてしまうと、短期間の内に感染が拡大し蔓延してしまう虞があります。潜伏期間を経て発症した狂乱状態のイヌは次々と周囲のイヌやその他の動物に噛みつきますので、1頭が10頭、その10頭が100頭へとどんどん拡大していきます。それを防止する為には、持ち込もうとしているイヌに対して一定期間観察を行い、確実に狂犬病に罹患していないかを見極めたのち、初めて国内で自由に移動してOKですよとの許可を与えるシステムが設けられています。動物検疫システムですね。 実際のところ、仮に潜伏期間中の罹患犬が船舶からの不法な持ち込み等を通じて入ったにしても、国内では街中をうろうろする野犬はほとんどおらず、それらの間で互いに噛み付き合って狂犬病ウイルスのプール集団が形成される虞は少ないと予想しますが、ゼロではありませんので厳重な警戒を続けるに越したことはありません。そもそも動物検疫とは、家畜、産業用動物に対しての、感染を起こし、経済的損失を与える可能性のある疾患、並びに人間にも重大な結果を招く人畜共通感染症zoonosis ズーノウシスに感染していないか、汚染されていないかをスクリーニングするシステムとなりますが、知り得ている全ての病気をチェックするものではなく、人間の社会に対して重大な意味を持つ感染症に限定されたものです。 日本国内にイヌを持ち込もうとする者は以下の手続きを取る必要があります。 まず、狂犬病からの清浄化が為されている国、地域であるアイスランド、オーストラリア、ニュージーランド、フィジー諸島、ハワイ、グアムからの輸入の場合ですが、他の汚染地域からの場合と異なり、幾らか簡略化された手続きになります(それでも大変面倒ですが)。日本の指定された空港、海港に到着後、輸入検査にて特に不備が無ければ係留検査を受けること無く輸入が許可されます。 汚染地域 (清浄化されている国、地域以外の全て) からの輸入の場合は、一段と厳格となり、現地で狂犬病予防注射を 2回 以上接種し、血中の抗体価が一定以上であることを確認して後、更に 180日 を経過し 2年以内に輸入を行うことが義務づけられます。日数が不足する場合は 180日に不足する分を国内検疫所で係留されます。勿論、上陸後は輸入検査を受けます。 いずれの場合も到着する予定の空海港の動物検疫所宛てに到着40日以上前に各種の届け出でを行う必要があります。また個体識別用のマイクロチップの皮下装填は必須です。 |
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その様な次第で、思い立ってイヌを国内に持ち込む事は不可能ですね。マサルが飼育されているロシアは狂犬病汚染国ですので、各種の厳格な手続きを行って後、ロシア国内で 180日の待機が必要となり、それに不足する場合は日本に上陸後に不足日数分を係留され、そこから連れ出すことも出来ません。この様な訳で日本への同伴を諦めたのでしょう。在日外国人の方が日本国内で入手したペットを、例えば帰省時に母国に連れ出すのは容易なのですが、大半の国の場合、その動物を再び日本に連れ戻すのは大変な手続きが必要となり、諦める事例が大半だろうと思います。 イヌの輸入に関しては日本は如何に厳格な警戒態勢を敷いているかが良く分かります。数少ない狂犬病清浄国の地位と名誉を絶体に手放す訳には行かないとの強い姿勢が感じ取れます。狂犬病の恐ろしさを知る者としての院長も、その施策並びに狂犬病予防接種の義務化には全く意義を覚えません。狂犬病の実態を調べもしない、知ろうともしない素人が、狂犬病予防注射など不要だと騒ぎ立てる事例が散見されますが、院長は当人の思考の浅さに哀れみしか感じませんね。 秋田犬そのものの話については別項にて展開したいと思います。 |
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