はしか と ジステンパー |
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2019年4月20日 皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 院長が子供の頃はジステンパーで死んでしまうイヌが数多く見られました。当時のクラスメートの女の子が読んでいた少女漫画誌にも、愛犬をジステンパーで失い悲しむ少女のエピソードが描かれていたことを思い出します。 幸いにして現在の日本ではジステンパーのワクチン接種が普及し、ワクチンさえきちんと接種しておけばこの感染症で亡くなることはありませんが、未接種ですとかなりの割合で感染し、重篤な結果へとつながります。皆さんも開業獣医のもとで混合ワクチンの接種を(定期的に)受けられているはずですが、その中にはジステンパーのワクチンも含まれています。 以下、イヌ対象ののワクチンについての記述がありますが、ジステンパーのワクチンがコアワクチンの中に確かに含まれています。 日本獣医学会 イヌのワクチン接種についてhttps://www.jsvetsci.jp/10_Q&A/v20160527.html「接種方法については議論もありますが,世界小動物獣医師会のワクチネーションガイドラインの推奨する以下のような方法が現在最も安全で効果的だと考えられます。犬のコアワクチン (犬ジステンパー,犬パルボウイルス感染症,犬伝染性肝炎と狂犬病)子犬では6週齢から8週齢で接種を開始し,2から4週間間隔で16週齢以降まで接種します。6カ月または1年後に再接種(これをブースターと言います)した後は3年以上の間隔で追加接種を行います。(狂犬病はコアワクチンですが日本の法律で毎年の追加接種が義務付けられています)」 ジステンパー並びにこのウイルスに近いウイルスで発症するはしかについてざっと見て行きましょう。 以下参考サイト:https://en.wikipedia.org/wiki/Canine_distemperhttps://ja.wikipedia.org/wiki/犬ジステンパー亜急性硬化性全脳炎https://ja.wikipedia.org/wiki/亜急性硬化性全脳炎人間の子供さんが麻疹に感染後、年単位のオーダーを経て、ごく稀に亜急性硬化性全脳炎を発症する例が見られます。麻疹ウイルスが神経系に持続的感染を続ける内にウイルスが変異し、この疾患を発症します。遅発性ウイルス感染症の一種ですが、イヌのジステンパーの続発性の中枢神経系の異常病変と類似するところがあります。同じ仲間のウイルスですので似た様な疾患像を示すのでしょう。人間の麻疹(はしか)、イヌのジステンパー共にけして蔑ろにしてはなりません。支障が無い限りはワクチン接種が必須と院長は考えます。IDWR 2019年第7号 <注目すべき感染症>麻しん 2019年第1?7週国立感染症研究所「また、麻しん患者の報告がある地域においては、特に、医療機関における院内感染対策の徹底が重要である。そのためには事務職員等を含む病院関係者全員へのワクチン接種歴調査や必要に応じたワクチン接種が求められる。また、発熱・発疹などの麻しん様患者との接触がある方が、麻しんを疑われる体調不良を自覚した場合には、二次感染防止のため、麻しんの疑いがあることを事前に医療機関に電話で伝えた上で受診することが重要である。麻しんは空気感染によって伝播し、重症度も高い。現在の、国内における例年を上回る麻しん患者数の増加は、麻しんによる重症者発生のリスクを増大させるとともに、我が国が達成した麻しん排除への深刻な脅威となることが懸念される。今後、時期的にさらに人の移動が活発となることも含め、国内で発生が継続する可能性が高いと考えられる。麻しんはワクチンにより予防可能な疾患であることを踏まえて、感染が拡大しつつあることへの厳重な警戒と対応をお願いしたい。」https://www.niid.go.jp/niid/ja/measles-m/measles-idwrc/8650-idwrc-1907.html引き続きはしかの感染が拡大している模様です。RSウイルスによる気道感染症 横浜市衛生研究所http://www.city.yokohama.lg.jp/kenko/eiken/idsc/disease/rsv1.html乳児の細気管支炎・肺炎の原因ウイルスですね。pandemic パンデミック以下Wikipedia からの引用Wikipedia contributors. "パンデミック." Wikipedia. Wikipedia, 1 Mar. 2019. Web. 1 Mar. 2019.定義ヒト(あるいは他の生物)の感染症は、その原因となる病原体を含むもの(感染源)と接触し、感染することによって発生する。多くのヒトが集団で生活する社会では、同じ地域や同じ時期に多くの人が同時にその感染源(水源や飲食物など)と接触することで、同じ感染症が集団発生することがある。それまでその地域で発生が見られなかった、あるいは低い頻度で発生していた感染症があるとき急に集団で発生した場合、これを特にアウトブレイクと呼ぶ。ヒトからヒトにうつる伝染病の場合、最初に感染した患者が感染源となって別のヒトに伝染するため、しばしば規模が大きく、長期にわたる集団発生が起きる場合がある。このようなものを特に流行と呼ぶ。流行は、その規模に応じて(1)エンデミック、(2)エピデミック、(3)パンデミックに分類される[7][8]。このうち最も規模が大きいものがパンデミックである。エンデミック(地域流行)地域的に狭い範囲に限定され、患者数も比較的少なく、拡大のスピードも比較的遅い状態。この段階ではまだ、いわゆる「流行」とは見なされないこともあり、風土病もエンデミックの一種に当たる。エピデミック(流行)感染範囲や患者数の規模が拡大(アウトブレイク)したもの。比較的広い(国内から数か国を含む)一定の範囲で、多くの患者が発生する。パンデミック(汎発流行)さらに流行の規模が大きくなり、複数の国や地域にわたって(=世界的、汎発的に)、さらに多くの患者が発生するもの。 |
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ジステンパーは強力な感染力を持ち、また感染すると致死率が 最大で 9割にも達する恐ろしい感染症 です (感染したイヌの年齢、免疫状態、またウイルス株の毒性の違いで致死率は変動します) が、実は人間の世界で強力な感染力を持つはしかとは同じグループ (パラミクソウイルス科) のウイルスです。昔は子供は誰でもはしかに罹患しましたが、ワクチンが普及してからは鎮圧されました。只、過去数ヶ月に亘りニュースに採り上げられていますが、ワクチンを受けていない、或いは免疫が十分に出来ていない世代が、海外から持ち込まれた、或いは海外に出かけて得たはしかに感染すると、その患者を出発点として周辺地域にて感染が急速に拡大し始めます。臨床症状は はしかとは違いますが、感染拡大の様相はジステンパーもはしかも似ていますね。このグループには更に おたふく風邪、RSウイルス性気管支炎などを含みますがいずれも感染力は非常に強力です。 ジステンパーワクチンが未接種状態の地域 (世界ではまだまだ沢山あります) に、他地域から持ち込まれたイヌなどを介して本感染症が流行を始めると、もはや燎原の火の手を止めることはほぼ不可能になります。病、猖獗を極めると表現しても良いかも知れません。飼い犬と接触したイヌ科の動物は全て感染し、多くは死亡すると考えてよいと思います。ジステンパーは18世紀に南米からもたらされたとされていますが、もはや全世界に拡大してしまい、文字通りのパンデミック pandemic 状態と言って良いかと思います。 |
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以下 Wikipedia 英語版 https://en.wikipedia.org/wiki/Canine_distemper の臨床症状の部分の和訳 (院長による): Wikipedia contributors, "Canine distemper," Wikipedia, The Free Encyclopedia, https://en.wikipedia.org/w/index.php?title=Canine_distemper&oldid=1016329145 (accessed July 12, 2021). 臨床症状 無症状、ケンネルコフと区別出来ない軽度の呼吸器症状から、嘔吐、血性下痢、そして死亡に至る重症の肺炎までの広範囲な臨床像を示す。 鼻水、嘔吐と下痢、脱水、流涎、咳と努力呼吸、食欲並びに体重減少が一般的に見られる症状である。神経学的な問題が進み失禁を示すことがある。中枢神経系が冒されると、筋或いは筋群の局所的な不随意性の痙攣、流涎を伴うてんかんや、チューインガム動作(より正しくはジステンパーミオクローヌス)と記述される顎の運動が観察される。 この状態が進行すると、てんかん症状が更に悪化し欠神てんかん、次いで死の転帰を遂げる。光過敏、協調運動失調、旋回、痛覚や触覚の過敏、運動能力低下を来す個体もある。一般的では無いが、失明、麻痺を来す個体もある。これらの症状は最低でも 10日は続き、神経学的な症状は感染後数週或いは数ヶ月後に発現することもある。生き残り得た僅かな個体は、様々な程度のチックつまりはぴくぴく動きを通常遺す。このチックは時間の経過とともに軽くなる。 後遺症 ジステンパーに罹患して生き残ったイヌは生命に危険の無い症状と危険性を持つ症状の両者を抱え込む。最も普通に見られる命に無関係な症状は、硬蹠症であるが、肉球や鼻先の皮膚が肥厚して起こる。他の一般的な後遺症状は歯のエナメル質の形成不全だが、エナメル質の形成がまだ十分ではない、即ち歯牙が歯肉からまだ萌出していない子犬では特にダメージを受ける。これはウイルスがエナメル質を産生する細胞を殺すが為に起こる。これら影響を受けた歯牙はすぐに駄目になる。 命に関わる後遺症は、たいていは神経系の脱落に由来するものである。ジステンパーに感染したイヌは進行性の精神能力並びに運動能力の劣化を来しがちで、時間の経過と共に、より重篤なてんかん、麻痺、視力低下、運動失調を来し得る。これらのイヌはそれらが面する計り知れない痛みと苦しみ故に人の手により安楽死させられる。 (以上) |
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ジステンパーは胃腸、気管支、脊髄と脳を冒しますが、感染すると多くが死に絶え、生き残っても色々と後遺症に悩まされることもある訳ですね。神経系をウイルスが徐々に冒し、消化器や呼吸器症状が治ったと見えても、遅延して神経学的症状が現れる場合もあると言う事です。ジステンパーに限らず、人間の感染症でも ウイルスが免疫が作動しにくい神経系に潜み、じわじわと持続感染を続け、時間を経過してから神経学的な臨床症状を発現するものが少なくは無いと思います。 ジステンパーは食肉目の多くの動物、鰭脚目(アザラシやアシカ、変異したウイルスに拠る)、霊長類の一部(カニクイザルの集団感染例あり)、有袋類 (真偽不明ですがフクロオオカミはこれで絶滅に追いやられたとの説有り) などに感染しますが、人間は感染しません。イヌ科以外では死亡率は様々で、例えばワクチン未接種のフェレットでは致死率 100%です。 感染イヌの人為的な導入で、未感染地区の野生動物が絶滅の危機に追いやられる脅威は現在も存在し、例えば上記の様にフクロオオカミ、或いはニホンオオカミが絶滅し (ニホンオオカミについては別の原因も併せ考えられます)、アフリカのリカオンなども脅威を受けています。 人間の活動に伴い世界を移動するイヌは同時に感染症の運び屋 vector にもなっている訳で、自然破壊、環境破壊の伏兵ですが、これは人間の責任でもあります。厳しい見解になりますが、人間が他国に移動する際には哺乳動物は連れて行かない、持ち込まないのが自然界を守る為のルールになります。自然保護に関心があるとのボーズを示したがる者達がペットのイヌを現地に平然と連れ込む例は多々見られますが、自分たちが自然破壊をしている当事者であることに気が付かない愚か者と言う話です。 生き物が本来棲息していない地域に或る生き物が人為的に−経済的、産業的な価値から、或いはペットなどとして−持ち込まれ、現地の元々の動物相 fauna に悪影響を及ぼす例が多々あります。まぁ、有害鳥獣と呼ばれる生き物ですが、これについては本邦での事例並びに法律施策面を含め、また後日詳しく採り上げたいと思います。 |
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