ハイエナ@ 概論 |
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2019年6月1日 皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 ハイエナと聞くと、ライオンが食べ残した動物の残骸、或いは「あまり新鮮ではない」倒れた動物に群がる、ちょっと不気味でコワい動物−剥き出しになった肋骨のカゴに顔を突っ込む−とのイメージを持たれる方も多く、動物園でもじっくりと生体を観察することなく、さっと別の動物のコーナーに移動してしまう方が大半ではないかと思います。確かにパンダに比べればヒトなる動物種からは全くの不人気と言えるでしょう。ハイエナを展示しても地元の商店街がハイエナ饅頭を売り出すとはとても思えませんね。院長は静岡県の日本平動物園でブチハイエナをじっくりと観察記録したことがありますが、身体のサイズが随分と大きく、首がやや長くて「肉厚」な体型だなぁと感じました。ハイイロオオカミの様な精悍且つ敏捷そうな顔つきでは無く、目立たない、やや茫洋とした表情でもあり、地味系、裏方系の様に正直感じました。地上をすたすたと歩き回り、文字通りの残骸がメインではありますが、狩猟して他の哺乳類を食べること、また姿形もちょっとイヌに似ている点から、イヌモドキと読んでもいいのかもしれません。只、有袋類のフクロオオカミの方が、全体としてはよりイヌに類似した、完成度の高いイヌモドキの様に院長には感じられますが。 今回はイヌ科を取り巻く動物の1つとしてこの動物について採り上げましょう。 以下、本コラム執筆の参考サイトhttps://ja.wikipedia.org/wiki/ネコ亜目https://en.wikipedia.org/wiki/Hyena |
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ライオンが柔らかい筋肉や内臓を食べた後の残骸と言えば、ホネなどの歯が立たない部分がメインとなります。ハイエナのことを bone crusher ホネ砕きと呼ぶのは、ホネを強力な顎で噛み砕き、中身の栄養(骨髄)を摂る習性から来ています。ハイエナの頭蓋骨を見ると、オオカミに比して前後方向に短く、詰まりは顎の突き出しが甘いですね。歯牙は鋭さはあるものの、第一印象としてはまず肉厚で頑丈そうな歯列に見えます。吻が長ければ、奥歯に近い側に位置する咬筋群 (こうきんぐん、モノを噛む力を発現する筋群)は、テコの原理から、先端部分には力を入れにくくなります。イヌは先端に位置する切歯+犬歯でまずは獲物の皮をピンセットの様に掴んで引き倒し、のど元を締め上げる、或いは頸動脈を破断するなどして獲物を仕留めます。肉を切って食べるのは奥歯(臼歯)の役割との按配です。一方、ネコは犬歯を使い、いきなり急所を狙い仕留めます。ライオンの狩りを見ると手の爪で相手を引っかけて倒し、あとは急所をガブリと行きます。顎の関節の蝶番(ちょうつがい)と犬歯との距離が短いので、テコの力点と作用点の距離が短く、強力な力を犬歯に掛ける事が出来るのです。まぁ、オオカミがラジオペンチ型とすれば、ライオンの方はペンチ型ですね。狩りと咀嚼に於いては、ハイエナは、オオカミとネコの中間的な感じに見えます。死肉を食べるとのイメージの強い動物ですが、日常的に狩猟も行う種もあり、その集団で連携して狩猟する姿はだいぶオオカミの狩猟法に類似している様に見えます。 では以上から、<ハイエナは、「生きの良くない、噛み切りにくい」餌から、新鮮な餌を自分で捕る方向へと進化しつつあって、体型も吻の突き出しも、ネコ型から脱却してイヌ型に近づけつつある動物群>、であると考えて良いのでしょうか?検討してみましょう。 |
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英語版 Wikipedia のhyena の項が、学術論文引用の下に纏められた、大変充実し且つ信用に値すると判断される記述内容ですので、これを参考にしながら話を進めたいと思います。一般の方が、ハイエナとはなんぞや、を知るには好適でしょう。まず概論の和訳ですが、ハイエナはハイエナ科に属するネコ亜目の肉食哺乳類である。現存するのは3属の僅か4種のみであり、食肉目では5番目に小さい科であり、哺乳綱にあっても最小の科の1つである。多様性は低いものの、アフリカの生態系の中では独特且つ生命力溢れる構成員となっている。cf. ネコ亜目は、現生種では以下の6科から構成されます:キノボリジャコウネコ科 Nandiniidaeジャコウネコ科 Viverridaeネコ科 Felidaeハイエナ科 Hyaenidaeマダガスカルマングース科 Eupleridaeマングース科 Herpestidae系統発生的にはネコやジャコウネコに近く、ネコ亜目に属するのだが、行動的また形態的要素の幾つかはイヌ科に極めて類似し、これは収斂現象である。ハイエナ科、イヌ科共に、非樹上性、地上疾走性狩猟者であり、爪よりも寧ろ自分の歯牙を利用して獲物を捕獲する。どちらも、食べ物を迅速に食べ、また食べ物を蓄えることもある。大きく頑強な、引っ込まない爪を備えた硬い足は、走行したり鋭くターンしたりするのに適している。しかしながら、ハイエナの毛繕い、匂い付け、排便、繁殖、子育て行動は、他のネコ亜目の行動と一致する。ブチハイエナは、食べる動物の内の95%までも捕食に拠り得るが、一方、シマハイエナは大方は腐肉食である。ハイエナは、大衆文化的には臆病者であるとの評判を取っているにも関わらず、獲物を巡ってはライオンの様な、より大型の捕食者を撃退することが広く知られている。ハイエナは第一義的に夜行性動物だが、早朝の時間帯に巣穴から出て冒険に繰り出す時もある。高度に社会的なブチハイエナを例外として、ハイエナは一般的には群居性の動物ではない。尤も、家族集団で生活し集合して狩りを行う。ハイエナは、まず最初は、中新世のユーラシアにてジャコウネコ様の祖先から現れた動物であり、軽い造りのイヌ型のハイエナと、がっちりした体型の砕骨型ハイエナの、2つの明白に異なるタイプに多様化した。イヌ型のハイエナは1500万年前に繁栄した(その内の1つの分類群は北米にも進出した)が、イヌ科動物がユーラシアに到達するに伴い、気候変動後に絶滅してしまった。イヌ型のハイエナの系列の中では、昆虫食のアードウルフのみが生き残り、砕骨型ハイエナ(現生のブチハイエナ、チャイロハイエナ及びシマハイエナ)はユーラシア及びアフリカの、誰もが認める腐肉食動物のトップとなった。ハイエナはそれの側で生活してきた人間の文化の民話や神話の中では傑出した特徴を持つ。ハイエナはぞっとさせられ、軽蔑に値する動物として共通に見られている。ハイエナは人間の魂に作用し、墓を荒らし、家畜や子供を盗むものと考えられている文化もある。アフリカの伝統医療でハイエナの身体の部分を用いるなど、ハイエナを妖術に関連づける文化もある。 |
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イヌの方にでは無くむしろネコに近い系統の動物ですが、木登り生活は止めて地上に進出し、基本的にcursorial (カーソリアル、平地走行性)動物化したのですね。軽量な造りのイヌ型ハイエナは現在、ほそぼそとシロアリ食のアードウルフとして生き残り、骨太タイプの砕骨型ハイエナは3種類が現生しています。その中でも、ブチハイエナが社会性と狩猟性を高め、行動面でもよりイヌに接近している様にも見えます。尤も、頭蓋骨を観察すると、矢張りネコとオオカミの中間的な特徴は濃厚に遺っています。地上に降りたときには既に優れた狩人が居て、それの食べ残しを餌とする、まぁ最初は隙間産業的な位置に填まり込んで生きる場所を見つけ、次第に平地走行型狩猟者に向けて進化の枝を伸ばし始めたのかもしれません。上記概略また web 上のハイエナの動画から判断すると、矢張りイヌになりかけているネコと考えても的外れではないようです。 |
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