逆立ちする動物 B 飼いイヌの例 |
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2019年7月1日 皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 前回のマダラスカンクに続き、今回は衆目の集まる飼いイヌの逆立ち及び(逆立ち)二足歩行を採り上げ、その意義を考察します。まぁ、番外編と言ったところです。 イヌ科動物に於いては、飼いイヌを含め、種として定型的に逆立ちを行う動物は、ヤブイヌの雌が逆立ちマーキングを行う以外には知られていません。イヌ及びオオカミでは何かに手を添えて後ろ足で正立で立ち上がりはしますが (これは海棲種を除くほぼ全ての哺乳類で見られる)、種としては逆立ち動作は観察されません。 種として定型的に観察されず、それがイヌでは個体により観察される行動であれば、それは当該個体が自ずと学習した行動か、或いは飼い主である人間が調教して仕込んだ行動かのいずれかになります。 以下参考サイト:神奈川県立こども医療センター整形外科http://kcmc.jp/SeikeiHP/case/11.html |
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壁などに後肢を添えて逆立ちする、非自立型の逆立ちの場合、小型〜中型犬種の場合は前肢の筋骨格系に掛かる負担はそれほど大きなものには見えず、調教を通じて体得させる事は困難では無さそうです。完全に手のみで立つ自立型の逆立ち、はたまた逆立ち歩行は、前肢への負担が大変に大きく、小型犬がせいぜいだろうと思います。 ポメラニアンのJiff 君は、二足歩行並びに逆立ち歩行のギネス記録保持犬であり、あちこちのマスコミに採り上げられましたのでご存知の方も多いでしょう。画像を見ると、昔からサーカスで見られたいわゆる曲芸犬に等しく、二足(二手)で歩行はするものの、体長軸周りの反復回転性が無く、前後肢を犬かき型で繰り出すことが見て取れます。この反復回転性はヒトや類人猿などの二足歩行時に観察され(マラソン中継の画像などで明瞭に分かりますが、腰から下と腰から上が逆方向に捻れながら進みます)、安定的且つ効率的な歩行を継続するのに寄与するものであり、ヒト型歩行並びにその進化を特徴付けるものと院長は考えていますが、Jiff 君にはこれが発生せず、ちょこまかしたロコモーション(=歩行様式)を示します。まぁ、本来行わない動作、そして身体の造りがそれに適合していない動作を行う訳ですから、苦しい二足(二手)歩行であるのは確実でしょう。画像を見ていて気になったのですが、逆立ち歩行時に肘が外に張りだしています。体重を支えると同時に左右側方へのブレを軽減する為に、人間が匍匐前進する時の様に肘が外に張り出すようになったのではと考えますが、ひょっとすると、代償性の腕の関節或いは骨自体の変形が起きている可能性もありそうです。因みに、低栄養或いは遺伝的な骨代謝異常により発症するくる病では、骨へのカルシウム沈着が阻害され、機械的強度の弱い骨が形成されますが、下肢が体重に掛かる重力に抗しきれずに重度のO脚を示します。これと同様に、Jiff 君の場合は、二手歩行時に体重を支えるべく代償性の骨変形が起きていると考える事も出来ます。 |
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youtube の動画では、<我が家の愛犬が、何も調教もしていないのにも拘わらず、散歩の途中で逆立ちして排尿する様になった、面白いから見て呉れ>の類いが多数投稿されています。イヌの野生種であるオオカミには全くこの様な動作は観察されませんので、人間との生活の中で、遊びとしてイヌがこの様な動作を覚えたとしか考えられません。本来、イヌは体幹を水平位に保ったまま排尿してマーキングを行うのであり、高い位置にマーキングする習性はありません。 特に雄イヌの場合、排尿時の尿線方向は身体の前方に向かいますので、逆立ちしても尿が地面に向かって落ち、意味がありません。雌イヌの場合も、高い位置に確実に尿でマーキングし得ている保証は無く、また立ち上がってマーキングの匂いを確認しているのかも不明です。詰まりは、逆立ちしての排尿はマーキングとしての意味が無いと判断して良さそうに思います。まぁ、遊びの1つとして学習した動作でしょう。逆に言えば、頭の良い動物ゆえに、自発的に面白い行動を示す様になった訳でもあるでしょうし、調教しての芸も仕込むことが出来た訳ですね。 次回は、同じイヌ科動物のヤブイヌが、雌のみ逆立ち排尿を示す意義について考察を進めたいと思います。 |
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