逆立ちする動物 D ヒトの逆立ち |
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2019年7月10日 皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 これまで、逆立ちする動物の例として、コビトマングース、マダラスカンク、飼いイヌ、ヤブイヌを採り上げ、おのおのの特徴について触れて来ました。今回は、飼いイヌの回に続く番外編として、人間の逆立ち動作と逆立ち歩きを採り上げましょう。<ヒト>とカタカナで表記しましたが、これは人間を1つの生物種として扱うときの慣用的な表記法です。 以下、参考サイト:https://www.instagram.com/sakiko_okabe516/?hl=ja逆立ち女子 岡部紗季子さんのinstagram2018 CrossFit Games Handstand walk obstacle coursehttps://games.crossfit.com/workouts/games/2018#events-details*競技の場であると同時に興業としての側面もある模様です。単なる筋肉ムキムキ自慢ではなく運動能力を見る競技ですね。 |
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人間の静的な逆立ち 人間が静的に逆立ちを行うときは、鉛直線に沿うように身体をまっすぐに立てるのが一般的です。一度この態勢を取ると、我々が正立で立つ時と同様に、微妙なバランスさえ取れば(実はこれが難しい!)、省エネモードで姿勢の維持が可能です。尤も、筋肉量の圧倒的に多い下肢ではなく、細い前肢で体重を支えるゆえに、筋或いは関節への負担が大きく、長時間維持出来るものではありません。 人間の身体は背腹にペタンコな造りであって背腹方向にブレ易いが故に、逆立ち時に下肢を前後に開脚してやじろべぇの腕の様に利用して安定度を高める方法もあります。これは、手を置く場所の面積が狭く、より安定度を高めたいときは寧ろ必須とも言え、細いロープを綱渡りする時に、横方向への安定度を高めるべく、長いバーを持ちながら渡るのと同じ類いの対応ですね。 contortion (軽業、曲芸)の場合にも、狭い台の上で両手を着いてのポーズを示す場合が多いですが、バランスを強く保つべく身体を背中側に極度に折り曲げた上で、両手を鉛直に立てるポーズが基本である様に見えます。横から見ると、ハテナマーク ? を上下方向に押しつぶした態勢です。やじろべぇの腕の重さを高める工夫ですね。 一本立ちの倒立にせよ、前後開脚式或いは曲芸式ではあっても、静的にバランスを維持するのに精一杯の態勢であるがゆえに、その姿勢を維持したまま、前肢で目的の方向に歩行するのは大変困難でしょう。その態勢を維持するために筋肉を動員して固めますが、それが腕の繰り出しを困難にする可能性に加え、特に開脚や曲芸の場合、バランスを取る方向と進行方向が一致し、歩行は下肢や体幹の(前後方向への或いは鉛直軸周りの回転性の)ブレを寧ろ強めてバランスの維持を困難にさせる可能性があります。 |
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人間の逆立ち歩行 では、人間が逆立ち歩行する時にはどうなるかと言うと、まず、首を背中側に反らし、背中を前にして進みます。四足獣では視野の中心が体長軸方向に位置しますが、人間では腹側に位置しますので、首を反らしたところで視界は進行方向に開かず、進行方向の確認には不利な体勢です。歩行時の前後方向のブレを身体のバネで緩衝すべく、下肢を前方、詰まりは背中側に曲げ、横から見ると軽度のCの字を呈します。contortion 時の身体を折り曲げる程度をごく軽度にした姿勢と見ることもできますね。バランスの安定性を重視して身体や下肢を強く折り曲げると、逆立ち歩行がそもそも困難となり、一方まっすぐの倒立では、筋力的には省エネではあるものの、その微妙なバランスを維持するのと歩行するのを併行するのが困難そうに見えます。逆立ちとしてのバランスを維持しつつ腕の筋パワーもある程度発揮出来てそこそこの歩行も可能にする姿勢が、軽度のCの字姿勢だと言えそうです。逆立ち歩行するとの、本来ヒトには無い動作を行わせると、大方、この様な態勢に収束しますが、ヒトとしての持ち得る身体構造を最大限に利用すると皆同じになる訳で、大変面白く感じます。 このポーズでの逆立ち歩きは苦しいながらもまだ可能ですが、人間では体重が重いゆえに前肢、特に手に対する負担が著しく、訓練を積んだアスリートでも長時間の逆立ち歩行は困難です。 特に、平行棒の上を逆立ちで歩く時には、握る動作とバランス歩行を同時に求められ、この特殊な動作に動員させられる前肢筋の負担は著しい様に見えます。 ポメラニアンのJiff 君の項で言及したことに類似しますが、人間が逆立ち歩行する際には、それがまっすぐな倒立姿勢であっても、胸郭の左右への反復回転、並びにこれに対する腰の逆回転が殆ど見られません。この為、腕の一歩一歩の歩幅が小さくなり、正立時の歩行と異なり、効率的に前進が出来ません。手をちょこまか繰り出してのたどたどしい歩行になります。Cの字型に身体を曲げてバランスを維持しながらの歩行でも、矢張りこの正立時の歩行のリズムは発現せず、胸と腰を一体化させて殆ど回転させることなく、腕を進行方向に平行に突き出してストライドの幅を稼ぐ動作になります。つまり、まっすぐな倒立歩行とCの字型歩行は身体の回転性に関する運動制御面では基本的に変わるところはないと考えて良さそうに見えます。Cの字型の姿勢の時でも、腰から上は空間的な向きを維持し(曲げた足先は針磁石のように常に前方を向く)、胸郭のみ左右に回転させてストライドの幅を稼ぐ遣り方も考えられますが、倒立姿勢を維持する為に、その様な胸郭と腰の間の回転など「遣ってるバヤイぢゃあねぇ」なのでしょうか。重い下半身を支えつつ回転まで行う事は、正立時に比べると確かに筋にとっては楽では無さそうです。只、軽度Cの字型の方が歩行時のバランス維持は幾らか楽になっているのは確実そうです。 院長は他人様の逆立ちにはあれこれ口を挟むものの、自分では逆立ちも全く出来ず、これはヒトが本来持ち合わせているポーズやロコモーションではなく、自発的な訓練により習得した学習動作である、とあらためて強調してこの項を終わりにしますね。 次回は逆立ちとボディサイズとの関係、次々回は逆立ちと二足歩行の関係について考える予定です。 |
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