wild dog とは @ ディンゴ |
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2019年8月5日 皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 イヌ科の系統分類の項で触れましたが、オオカミ、コヨーテ、ジャッカル(但し、アフリカのジャッカル、即ち ヨコスジジャッカルとセグロジャッカルは別属とする分類もある)は同じイヌ属です。因みに、オオカミとイヌは違う学名でも呼びますが、基本的体制に違いなく、生物学的には同じ種となります。これらの動物は体つきはイヌ型であるのは当然として、明らかに顔つき自体が飼いイヌ風であり、目つきがキツネなどとは違う趣です。これらオオカミ、コヨーテ、ジャッカルは狭義のイヌの仲間と言えます。 ところで、世の中には野犬 wild dog と呼ばれる動物が棲息していて、人間の世話になる事も無く、独立自営?で立派に生きているのですが、これの正体について今回と次回の2回に分けて話をしましょう。まぁ、人間側が、外見がイヌに見えたから dog と名付けたのは確かです。但し、これまでに触れてきた様に、ちょっと見の外見から fox,dog, wolf, jackal と呼んでいても、実は系統分類上の血縁関係が離れているものが一緒くたにされており、イヌ科の動物はどうなっているのかよく分からない、との感想をお持ちの方も多いでしょう。そんな按配で、<wild dog つうても色々あんだべぇ?>となって当然です。 今回はディンゴ並びにその近縁種のニューギニアシンギングドッグを採り上げます。 以下、本コラム執筆の参考サイト:https://ja.wikipedia.org/wiki/ディンゴhttps://en.wikipedia.org/wiki/Dingohttps://ja.wikipedia.org/wiki/ニューギニアン・シンギング・ドッグhttps://en.wikipedia.org/wiki/New_Guinea_singing_doghttps://fr.wikipedia.org/wiki/Chien_chanteurhttps://ja.wikipedia.org/wiki/オーストロネシア人https://ja.wikipedia.org/wiki/オーストラロイドhttps://ja.wikipedia.org/wiki/ハワイ語 |
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オーストラリア大陸にディンゴと呼ばれるイヌらしき動物が棲息していて、近頃は咬傷事故の報道でご存知の方も多いだろうと思います。 結論を言えば、ディンゴは系統的にはオオカミの亜種でありほぼ飼いイヌそのものと言っても間違いではありません。 中国南部に発する南方系モンゴロイドが今から6000年前に台湾に渡り、5000年前には台湾から東南アジアの島嶼に向けて拡散を開始したのですが、そこで現地の民族と混血しながら、一部は東進してニューギニアに入り、パプア人、メラネシア人などの先住民オーストラロイドと混血してポリネシア人となり(実際には混血の程度は少なく、言語が伝わった程度)、太平洋に広く拡散しました。台湾には高砂族と呼ばれる民族(女優のビビアン・スーさんはお母さんがタイヤル族の出です)が生活していますが、話す言語がフィリピンのタガログ語やマダガスカル語、ハワイ語などとは大変近いと言われていますが、これらの人々をオーストロネシア人と総称します。 オーストロネシア人にお供する形で東南アジアで既に家畜化されていたイヌがオーストラリア大陸に入り、そのまま野生化したのがディンゴであると考えられています。詰まりはイヌの古代品種の1つであって、人間の手を離れ改良も進まず、当初の姿のままに数千年留まっているイヌと言って良いでしょう。実際。現在の島嶼を含め他の東南アジアに生きている野犬はディンゴに大変近い存在です。元々、飼いイヌが野生化した動物ゆえ、人間が飼育しているイヌとは容易に交雑してしまい、昔のディンゴの血筋を保っているのはフレーザー島のディンゴぐらいではないかと言われています。 |
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ディンゴ自体はオーストラリア大陸とその近傍の島嶼に棲息するのみでニューギニア島などでは見られないとされます。New-Guinea Singing Dpg なる良く似た動物がニューギニア島の高地に棲息するのが知られているのですが、院長にはどうも只のディンゴにしか見えず、敢えて別亜種名で分けるまでの必要性があるのかとの思いです。しかしひょっとするとディンゴとは異なる(アジアの)飼いイヌの系統が野犬化して生き残っている可能性もあるかもしれません。こちらは数が減ってしまい数百頭のオーダーしか棲息しないとのことですが、基本はイヌですので保護下において環境を整えれば数はすぐに増大する筈です。尤も、性質が荒くペットにも不適ですので、動物園で展示する以上の需要は見込めないでしょうね。ディンゴ共々、オオカミが如何にしてdomesticate され飼いイヌとなったのか、を解き明かすためのヒントを抱えた学術的に貴重な存在との考えもありますが、例えば、以前触れた様に、人間にウィリアムズ症候群を発症させるのと同様の遺伝子(他者への警戒心が薄れてしまう)の反復数が、オオカミと飼いイヌとの中間にある、それでまだ性質が荒いのか、などと立証されれば面白いでしょうね。 ディンゴはオーストロネシア人のお供をして船で海を越えたのでは無く、氷河期の最後の頃、まだ陸続きだったオーストラリアに歩いて渡ったのですが、タスマニアとの間は海面上昇で既に渡れなくなっており、その為に有袋類のイヌモドキであるフクロオオカミはディンゴと競合することなく生存し得た訳です。オーストラリア大陸では、智恵者のディンゴとは生態的地位(ニッチ)が重なり、フクロオオカミは敗れて絶滅したとの話ですね。これは僅か数千年前の話ですので、フクロオオカミの骨格はそこそこの数が良好な状態で埋もれている筈です。自分で発掘出来たら最高ですね。 実はこれはフクロオオカミ好きの院長の長年の夢でもあるのですが。 |
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