Wild dog とは A リカオンとドール |
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2019年8月10日 皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 wild dog 野生犬と呼ばれるイヌ科動物の内、今回は African wild dog アフリカ野生犬 リカオン、並びに Asian or Indian wild dog アジア or インド野生犬 ドールと呼ばれるものを採り上げます。名前は野犬ですが、イヌ科系統分類の項で触れた様に、これらはディンゴとは異なって共にイヌ属の動物では無く、少し系統的に離れた動物であり、真の意味での野「犬」ではありません。外見がイヌに見えたから dog と名付けられたのは確かで、文字通り<wild dog つうても色々あんだべぇ?>と言う次第です。 以下、本コラム作成の為の参考サイト:https://ja.wikipedia.org/wiki/リカオンhttps://en.wikipedia.org/wiki/African_wild_doghttps://ja.wikipedia.org/wiki/ドールhttps://en.wikipedia.org/wiki/Dholehttps://zh.wikipedia.org/wiki/豺 |
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リカオンはその特徴的な毛色から painted dog <絵の具で塗られたイヌ>などとも呼称されます。家畜化 domestication に際して起こる特徴の1つとして、毛色に不規則な斑文が生じることが挙げられるのですが、リカオンは野生動物であるにも拘わらず、これが見られ、また<塗り>の個体変異が著しい点でも特異的な動物です。人間の保護下にある家畜では不規則な模様が遺伝的に残存出来ている事は、逆に言えば、その様な不規則な斑文・模様は野生環境下では生存に不利に働き淘汰されることを意味しますが、リカオンにはそれが寧ろ有利に作用しているのでしょう。迷彩模様の柄であれば敵から隠れる、相手に知られずに接近するなども容易になりますが、その一方、生殖に於いては、相手を明確な模様や毛色で遠方から同種の動物として判別することが不可能となり、その様な僅かな差が種としての存続には大きくモノを言う可能性もありそうです。まぁ毛色や模様のデザインは艦船に掲げる国旗の様な意味合いも持ちますが、リカオンの場合は、派手な不規則模様を持つ動物が他に存在せず、逆に互いを引きつけ合うトレードマークになっている可能性があります。 アフリカのサハラ以南、アフリカ中部とそこから間隙を於いて南部とに分布しますが、個体数が急激に減少しつつあり、保護の手を差し伸べないとこのままでは絶滅に至る危険性があります。家畜として持ち込まれた管理並びに衛生状態の悪いイヌからジステンパーに感染し、集団として全滅するなどの影響も受けているのでしょう。まぁ、有害鳥獣としてのイヌの存在ですね。勿論、責任は全てその様なイヌを持ち込んだ人間の側にあります。真の意味での有害鳥獣は人間自身かもしれません・・・。 前臼歯にギザギザが見られ、trenchant heel トレンチャントヒールと呼ばれますが、この様な歯はイヌ科の中ではドールとヤブイヌにも存在します。歯の形態は保守的とされ、それを元に系統分類もされて来た経緯がありますが(歯は化石として一番遺りやすい側面もあります)、trenchant heel に関しては、系統とは無関係の形質の様です。イヌ科が共通に抱える形質発現の為の遺伝子の<ちょっとした揺らぎ>の結果、イヌ科の中には<必要に応じて>芽を出す形質であるのかもしれません。どういう機序で trechant heel の形質が発現するのかについては、遺伝子発現の機構の解析も含め、この先の研究に俟ちたいところです。まぁ、歯牙自体が必ずしも動物の系統を正確には反映しない1例と思いますが、こうなると歯の化石でこれまでモノを言ってきた研究者の一部は焦りを隠せないかもしれません。歯牙が大まかな観点から系統を述べるには大変役立つ材料であることには間違いはありませんが。 |
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一方のドールですが、こちらは日本列島を除く、朝鮮半島を含む東アジアに嘗ては広く分布していましたが、現在は南方地域に限定されています。オオカミが北方系とすればこちらは暑さに強い種で、同じ平地疾走型の集団狩猟者ですが、オオカミとドールとで棲み分けが成立している様に見えます。嘗ての分布域はタヌキのものともほぼ重なりますが、タヌキは樹林帯の近辺に棲息するので平原に棲息するドールとは競合はしなかったのでしょう。ドールはオオカミ、ジャッカル、コヨーテから成るイヌ属に最も近い関係にあり、確かに顔付きもイヌに似ているところがあります。日本人には全く馴染みがありません。知っているとすれば余程の動物マニアでしょう。漢字で豺の字を当てますが、(昔の)中国人には狼、狐、狗、狸(全てイヌ科)などと同様、イヌの仲間の動物の1つとして普通に知られ識別される存在だったのかもしれませんね。 リカオンやオオカミ、ジャッカル、コヨーテなどと同様、集団で狩りをする動物です。元々、狙った獲物を集団の持久戦でジワジワと追い込み、弱った相手に対して<徒党を組んで>倒す猟法に対しては、何か陰険なものを感じてしまい、それゆえ、オオカミ、コヨーテ、ジャッカル等を含め、往々にしてマイナスのイメージを持たれるのが一部のイヌ科動物ですが、ドールの場合は、獲物の腹や会陰部に噛み付いて内臓を引き出して倒すことも知られ、残忍な動物として更にイメージが悪く、家畜を襲う害獣ともされ、駆除もされて来ました。ケモノ偏に才と書くのは、狡猾なまでに知恵があるとの意味を当てたのかもしれません。リカオンと同様、飼いイヌからジステンパーが感染し、駆除の影響も加わって数を減らしつつあります。 |
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まず最初に日本列島にはオオカミ、キツネ、タヌキがイヌ科動物として到達していましたが、ドールが渡る以前に日本列島が大陸から切り離されたのでしょう。ニホンオオカミは島嶼化して小型化しましたが、これは、日本列島は山がちであり、平地疾走持久走型の集団ハンティングを行うには能力が生かせず、山林内での集団狩猟を行うべく小型化した可能性もあります。仮に地続きのままで後の時代にドールが入って来たならば、当初はドールとニホンオオカミとは平地対山林で生態的な棲み分けが出来たかもしれませんが、ドールの方も小型化して山林狩猟を目指すとすれば、ニホンオオカミと競合した可能性もあります。この様な、もしもの話を考えるのも面白いのですが、今改めて思うのは、こんなに平地の少ない島国でニホンオオカミは極く近年まで良く生き延びていたなぁとの感慨であり、絶滅したことを院長は非常に哀しく感じるばかりです。 |
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以上、2回に亘り wild dog について触れましたが、飼いイヌを取り巻く動物について関心をお持ち戴けましたら嬉しく思います。イヌ科の動物もなかなか奥が深そうですね。 この先暫く、イヌ科動物の各論が続きます。どうぞお楽しみ下さい! |
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