ジャッカル と コヨーテ |
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2019年8月15日 皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 イヌ科の系統分類の項で、<小型でほっそりしたオオカミ型の動物をジャッカルの名で従来一括りにしていたが、遺伝子解析の結果、実は様々な系統関係からなる集団と判明した>と触れました。 コヨーテは西部劇にも登場しますので日本人にはまだしも知られた名前ですが、ジャッカルの方は名を聞いても姿が思い浮かばないのではと思います。院長も、ジャッカルと聞くと動物の方では無く、映画の 『ジャッカルの日』 の方がまず頭に浮かびます。フレデリック・フォーサイス原作の小説を映画化した作品ですが、ジャッカルとはドゴール大統領を暗殺せんとする正体不明の狙撃手のコードネームです。この印象もあり、ジャッカルと聞くと、邪で危険な存在を思い浮かべてしまうのです。 外形で言うならば、北米のコヨーテもジャッカルに含めても妥当ですが(一般的ではありませんが coyote を American Jackal と呼ぶ者もいます)、コヨーテは(ジャッカルの中でも)一番オオカミ、即ちイヌに近い仲間になります。 こんな按配?で、今回は日本人にはどうもよく分かりにくいコヨーテとジャッカルを採り上げましょう。 以下、本コラム執筆の参考サイトhttps://en.wikipedia.org/wiki/Jackalhttps://en.wikipedia.org/wiki/Coyotehttps://ja.wikipedia.org/wiki/コヨーテhttps://ja.wikipedia.org/wiki/キンイロジャッカルhttps://en.wikipedia.org/wiki/Golden_jackalhttps://ja.wikipedia.org/wiki/アビシニアジャッカルhttps://en.wikipedia.org/wiki/Ethiopian_wolfhttps://ja.wikipedia.org/wiki/ヨコスジジャッカルhttps://en.wikipedia.org/wiki/Side-striped_jackalhttps://ja.wikipedia.org/wiki/セグロジャッカルhttps://en.wikipedia.org/wiki/Black-backed_jackalGenome sequence, comparative analysis and haplotype structure of the domestic dogKerstin Lindblad-Toh, et al. Nature volume 438, pp. 803-819 (2005)https://www.nature.com/articles/nature04338/(だれでも無料で全文が読めます) |
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コヨーテ coyote Canis latransは、系統的にはハイイロオオカミ wolf Canis lupus、つまりはイヌの数万年前の本家筋とは姉妹群 (同一の祖先から分かれ出た兄弟関係にある動物群)であり、イヌにとっても一番近いイヌ属動物となります。実際、北米のオオカミやイヌとも簡単に雑種 Coydog コイドッグを生じてしまい(但し本コラムの一番最後に記した様に一代雑種の性格が強い)、非常に近い関係にあるのは間違いなさそうです。オオカミのサイズを縮めて痩せさせた様な外見であり、体重は平均で 14kg程度と中型のイヌ並ですね。 北米でオオカミ(=ハイイロオオカミ)が人間の手で駆逐されるに伴い、勢力を増大しています。特にイヌとの雑種が人家に接近し、家畜小屋を襲撃したりして嫌われています。オオカミをステロタイプな考えで目の敵にし駆除した結果、自然のバランスが崩れ、結局人間が損をするとの愚かな図式を見ます。もしかすると小型とされるニホンオオカミは外見がコヨーテに似ていたのかもしれません。コヨーテが人間を襲った例も知られていますが、これは飼いイヌも同じ事ですが、人間が首筋などを咬まれたら死亡事故につながります。勿論狂犬病に罹患しますので、感染個体が凶暴化して人間を襲うことも想定すべきでしょう。どうもイヌモドキどころか殆どイヌそのものに見えます。数十万年後には、身体が大型化したコヨーテが完全にオオカミに入れ替わっているかもしれませんね。 北米のネイティブ・インディアンの民話、特に南西部からメキシコでは、コヨーテを策略やユーモアを使って社会慣習に逆らういたずら者として扱い、中米では戦闘能力のシンボルとして見ます。オオカミのイメージが改善して来た一方、米国白人の間ではコヨーテは依然として臆病者、信頼できない動物とのネガティブなイメージが根強く強く遺ったままです。日本人は基本的に特定の哺乳動物がずるがしこいから滅ぼして良いだの、頭がいいから愛すべき、保護すべきなどの考え方、詰まりは子供じみた単純な善悪の塗り分け或いはレッテル貼りはしませんが、日本人と欧米人との間の、対動物観或いは対世界観の違いがこのようなところに鮮明に顔を出すように思います。 |
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Kerstin Lindblad-Toh, et al. Nature volume 438, pages 803-819 (2005) の論文の掲載図が、簡潔明瞭且つ詳細なイヌ科動物の系統関係を示してくれます。これに拠ると、コヨーテに次いで近い仲間は、インド亜大陸から中近東、南欧に掛けて棲息するゴールデンジャッカル golden jackalCanis aureusと エチオピアに棲息するエチオピアンウルフ Ethiopian wolf (和名別名 アビシニアジャッカル)Canis simensis ですが、アジアの wild dog ドールはそれよりやや離れ、アフリカのwild dog リカオンは更に少し離れます。アフリカのサハラ以南に棲息するジャッカル即ちヨコスジジャッカル side-striped jackal Lupulella adustaと アフリカ中東部と南部に棲息するセグロジャッカル black-backed jackal Lupulella mesomelasは 740〜600万年前に分岐した、ちょっと離れた仲間となります。 これらの一群 (<オオカミ+イヌ>+広義のジャッカル)と姉妹関係にある一群が中南米のイヌ科動物となります。この2つの群に対してキツネの一派が分かれ出ていますが、タヌキはそのキツネの一群の中から早期に分岐したちょっと変わった動物の位置づけです。 イヌ科の動物は大まかには、キツネ群、南米犬群、飼いイヌを含むその他の犬群 (オオカミ、ジャッカル群)の3つから成ると考えて良いと思いますが、まぁ、イヌ型の動物も沢山棲息し、ちょっと見の外見からだけでは系統関係が分かりませんね。 フクロオオカミもイヌ型ですが、イヌ型の体型は地球と呼ばれる星の地上をほっつき歩くには最適な形の1つと言えそうです。完全平地棲息性(=木登りは捨て去り平地に特化)の食肉目動物として高度に完成された1つの姿とも言えるでしょう (但し、北米棲息のイヌ科の祖先型に近いとされるハイイロギツネ、それとタヌキは木登り習性をまだ遺しています)。 |
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ジャッカルは単純な1つのグループでは無い事がお分かりになったと思います。系統的にやや離れる(イヌ属とは別属の)ヨコスジとセグロは、顔つきがオオカミやコヨーテ、ゴールデンジャッカルなどとは幾らか異なっている様に感じます。ゴールデンとアビシニア(イヌ属)はコヨーテ同様にイヌと交雑も可能ですが、交雑個体は繁殖力が弱く、人間との意思疎通が困難、また3代に亘り交雑したところ遺伝的な問題が増加したとの結果が出、これは コヨーテとの交雑種 コイドッグ Coydog の場合と非常に良く似ているとのことです。矢張り完全な同一種ではありませんので、子供は出来るものの、問題が出てくる訳ですね。単純に考えると人間との親和性をもたらすとされるウィリアム症候群責任遺伝子相当の遺伝子の数が、子供では半減し、孫では1/4になりますので、人間にも馴れなくなり、意思疎通も困難になる訳です。 |
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