キツネの話O 俗信と精神医学V |
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2019年11月10日 皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 引き続き、俗信即ち狐憑きと精神医学との関連についてお話を進めますが、今回でキツネに関するコラム含めて最終回となります。。どうぞ楽しみつつ、また精神医学にも興味をお持ち戴けたらと思います。 以下、本コラム作成の為の参考サイト:都立松沢病院 統合失調症http://www.byouin.metro.tokyo.jp/matsuzawa/dictionary/tougousittyousyou.htmlhttps://ja.wikipedia.org/wiki/統合失調症但しwikipedia のこの項目は抗NMDA受容体抗体脳炎への言及も無く、中身が古く教科書レベルに留まる記述が見られ、真の意味でinformative ではありません。https://bsd.neuroinf.jp/wiki/ドーパミン仮説(統合失調症)2014年に最終更新の記事であり、やや内容的には古くなりつつありますね。https://ja.wikipedia.org/wiki/自閉症スペクトラム障害 |
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出たばかりでまだ湯気の立っている 統合失調症に関する Science の記事をご紹介しましょう。英語力のある方は原文にアクセスして下さい。 https://www.sciencemag.org/news/2019/10/intensive-dna-search-yields-10-genes-tied-directly-schizophreniaIntensive DNA search yields 10 genes tied directly toschizophreniaBy Jocelyn KaiserOct. 25, 2019 , 10:00 AMdoi:10.1126/science.aaz9883 24000人の統合失調症患者と 97000人の非患者の遺伝子を解析し、タンパク質の合成に関与する DNAの領域(exome エクソーム、DNAの中の 1%程度の部分だが遺伝子変異による病気の原因の 85%を占めていると考えられている領域)を比較したところ、本疾患に直接関与していると考えられる 10個の遺伝子変異を見つけることが出来た。この10個の遺伝子 (それぞれ父母から 1個ずつ受け継いだ DNAでペアとなっている) のペアの片方が変異しているだけで本疾患に罹患する確率が 50倍に達する。遺伝的背景が存在することが遺伝子レベルで確定されたことになる。10個の内の GRIN2A 遺伝子と GRIA3 遺伝子は脳の神経伝達物質であるグルタミン酸に対する脳の受容体を作る遺伝子であり、これは従来からのグルタミン酸受容体仮説が今回遺伝子レベルで確たるものとされたことになる。10個の内の残りの遺伝子は シナプス及や ニューロンの信号伝達過程に関与するものであり、本疾患のより詳細な病態解明に繋がる可能性がある。本疾患に関与すると暫定的な結果が出ている 30数個の遺伝子は、その内の幾つかが自閉症スペクトラム障害に関与する遺伝子とオーバーラップしていることが分かり、これは 2つの疾患が関連性を持つ事を示唆している。 (院長抄訳) 責任遺伝子が変異することで受容体や神経の伝達路に変化が生じ、神経伝達物質の遣り取りが異常を来たし統合失調症が発症するとのシナリオが描けます。抗体が受容体を攻撃せずとも受容体や伝達路自体に脆弱性或いは異常を抱えている事になりますね。本疾患に関しての遺伝的背景を抱える者が、自己免疫疾患の発生をも含めた様々なストレスにより、本症を発症する可能性が考えられます。現在に於いて統合失調症と診断される患者には、この様な機序で発症する以外のもの、即ち真の統合失調症ではない疾患、が含まれていることも考えられますが、遺伝子が特定された事により病態の解明が一気に深まり、治療薬の開発に結びつくと良いですね。患者に対してこれら遺伝子の異常がないかを調べ、検出された場合にはそれに応じた治療を行えば、向精神薬の副作用を抱え込まずにピンポイントでの治療が進みそうです。 まだ一部のことが分かりつつある程度に留まりますが、統合失調症の本態を解き明かし本質的な治療、治癒に繋がる知見を得れば、ノーベル賞程度は軽く貰えそうに見えます。生物学徒としての方法論に立つ精神医学研究者−実際には遺伝学者、生化学者、脳神経生理学者、薬理学者らが担当するのでしょう−の活躍に更に期待したいところです。 |
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ヒトの自己免疫性疾患を見ても分かりますが、免疫担当細胞が自分の細胞と別のものを区別出来ずに攻撃するかと思えば、自分の細胞もどきの癌細胞をやっつけることが出来なかったりと、完璧な機能を完成させている訳ではありません。我々ヒトの身体とは、取り敢えずは子孫を残し幾らかその成長を見守れる命と健康を担保する程度の完成度には達しているのかな、とは言えそうですが。自己免疫性疾患に関しては後日別項で詳しく採り上げたいと思います。 さて、これまで全 16回に亘り、キツネについてその動物学的側面に触れ、また最後にはヒトの精神医学面にまで話を expand 拡張しましたが、キツネに関しては一部の種を除き、人間側のイヌ科動物に対する恐怖心、不信感或いは蔑視の念と言ったほの暗い意識が投影される対象となっている様に院長は感じています。コヨーテなどもそうなのですが、<劣ったイヌ科動物>扱いですね。しかしながら、好き嫌いは相手のことをじっくり知ってからでも遅くはありません。相手を知った上で、やっはりワタシダメだわ、なら仕方ありませんし、意外な面を知った、大好き!なら大いに結構です。 ヒト側の思惑は兎も角、キツネの側は1つの野生哺乳動物として命を連綿と繋げるべく、日々採食し、眠り、生殖しているに過ぎませんし、そこには当然ながら野生動物としての生命の輝きがあります。それを理解する手助けとなったならばコラム執筆者として嬉しく思います。 長らくのお付き合い、ありがとうございました。 |
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次回からは再び飼いイヌの話題に戻り、整形外科的なお話をこの先暫く続ける予定です。 |
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