イヌの股関節形成不全A 原因と症状 |
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2019年11月20日 英語版のWikipedia のイヌの股関節形成不全の項https://en.wikipedia.org/wiki/Hip_dysplasia_(canine)が文献の引用も豊富で比較的に充実していますので、他からの情報も補いながら、これを軸として話を進めたいと思います。 第2回目となる今回は、原因並びに症状ついて扱います。 以下、本コラム作成の為の参考サイト:https://en.wikipedia.org/wiki/Hip_dysplasia_(canine)https://flexpet.com/hip-dysplasia-in-dogs/https://en.wikipedia.org/wiki/Newfoundland_doghttps://en.wikipedia.org/wiki/German_Shepherdhttps://en.wikipedia.org/wiki/Retrieverhttps://en.wikipedia.org/wiki/Golden_Retrieverhttps://en.wikipedia.org/wiki/Nova_Scotia_Duck_Tolling_Retrieverhttps://en.wikipedia.org/wiki/Rottweilerhttps://en.wikipedia.org/wiki/Mastiff動物の為の整形外科基金OFAhttps://www.ofa.org/OFA - THE CANINE HEALTH INFORMATION CENTER |
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原因 股関節の形成不全は第一義的に骨盤のソケットに大腿骨が正しく填まっていないことに起因する場合もあれば、骨盤周りの筋の発達が貧弱な場合に起因することもあります。大型並びに超大型犬種は本疾患に対する感受性が最も高い(これは個々の動物の BMI 肥満度指数に拠る可能性がある)のですが、他の多くの犬種も罹患します。動物の為の整形外科基金 OFAは、罹患しやすいトップ100犬種をリストアップしています。 飼いイヌに広く本疾患が見られることは、「イヌの家畜化に際し、この疾患の原因遺伝子を飼いイヌの祖先のところに紛れ込ませてしまい、股関節形状が浅く造られる(或いは靱帯等の構造が弱いなどの)脆弱性をイヌ全体としてバッググラウンドとして抱えるところに、体重が絶対的に大きな犬種では、関節の亜脱臼(横滑り)が起こり、症状を特に悪化させ易い」、と考えることも出来そうです。或いは特定の犬種をブリーディングして作出する際に、突然変異として起きた遺伝子の脆弱性を途中で紛れ込ませて仕舞った可能性も考えられます。、サイズの大きさに拘わらず発症する事実から、本疾患に関しては遺伝的な背景を確かに強く保持する犬種が存在すると考えて不都合はありません。脆弱性を抱えている動物が、絶対的な体重が大きくなれば、股関節への負荷が高まり、より疾患としての発生を見ると考えて妥当と思います。責任遺伝子が明確になれば良いのですが、形態に関わる遺伝子ゆえ、ピンポイント的に1つ或いは数少ない遺伝子の関与に拠るものではなく、多遺伝子(ポリジーン)の関与が考えられますので、責任遺伝子を絞り込み疾患の成因を解明するまでに時間が掛かりそうです。 股関節が形成不全を起こす原因は、基本はこの様に遺伝性と考えて良いですが、発症には当然、環境要因の影響を受けます。特にイヌが完全に成熟に達する年齢の前での去勢は、成熟後に去勢されたイヌに比較してほぼ2倍本疾患に罹患する事が判明しています。骨の組織がしっかりと形成されなくなり、力学的に脆弱になり変形を受け易くなるわけですね。他には、体重超過、若齢時の外傷や靱帯損傷、若齢時の股関節への無理な運動負荷、成長途中の関節への反復的運動 (例えば1歳以下の子犬へのジョギング) などが挙げられます。今後、遺伝的背景を含め、本疾患に関する研究が進むにつれ、股関節形成不全並びにそれ由来の二次性関節炎の発症を効果的に減少させる方法がより明確に分かって来るでしょう。 |
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症状 本疾患はほぼ常に、イヌが18ヶ月齢に達する前に現れます。障害は軽度から重度の障害までのいずれにも亘りますが、将来的に重度の骨関節炎につながりもします。中〜大型の純血犬種、例えばニューフウンドランド、ジャーマンシェパード、レトリーバー(ラブラドール、トーラー、或いはゴールデン)、ロットワイラー、そしてマスチフに最も普通に見られますが、スパニエルやパグと言ったそれよりも小さな犬種にも起こります。 痛みを避けるべく、罹患した動物はいずれの個体も問題のある側の股関節の動きを決まり切った様にセーブします。両方の後肢を揃えウサギの様な走りを示したり、ジャンプなどの大きな動作をしたがらなくなり、或いは歩くこと自体を嫌がるようになります。股関節が十分に動かないので、背骨を動かして動作を補おう(例えば歩幅を稼ぐために左右に腰を振る、モンローウォーク)としますが、これはしばしば二次的に脊椎骨や膝関節の、或いは軟部組織の問題を惹き起こします。院長は若い頃に転石を踏んで山で捻挫してしまい、そのまま無理遣り下山して麓の整形外科に見て貰ったことがありますが、膝から下が葡萄酒色に染まり、靴が靴擦れからの出血で貼り付いてしまい脱ぐのに苦労する様で医師が驚くぐらいでした。その後暫くは新しく買い求めた靴底の片側がすり減るようになると共に反対側の膝が痛み始めました。正しい歩行が出来なくなり健常部位に負担が掛かったと言う次第です。この様に体重の掛かる脚に故障が生じると他の箇所に波及が進行することはよくあると思います。 股関節形成不全の症状は極端な臨床像を示すことは稀で、通常、極く軽度から中程度の跛行が認められる程度ですが、それが突然悪化することもあります。 イヌが休息姿勢から起き上がろうとしたあとに不動や痛みの症状を示し、運動を嫌がったり、ウサギ跳躍や他の異常歩行(脚を交互に振り出すのではなく、一緒に動かそうとします)、跛行、痛み、後肢で立ち上がったりジャンプすることや階段を登るのを嫌がる、股関節が亜脱臼したり脱臼している、或いは股関節周辺の筋肉が衰えてきた、なども起こり得ます。 |
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レントゲン像で股関節形成不全を大方のケースで確証出来ますが、イヌに拠っては2歳を超えないとレントゲン像に異常が現れない場合もあります。更に、臨床的な症状を示さないイヌも多いのです。7ヶ月齢以前に明確な問題を示すイヌもいますが、十分に成熟したのちも問題を示さないイヌもいます。 1つには、これは潜在する股関節の問題が軽度であるか重症であるか、悪化しつつあるのか保存的なのか、そして身体が関節を十分好もしい位置に保てているのかいないのかに拠るからです。また、動物が異なれば痛みに対する耐性、体重が異なり、異なる身体の使い方をしますので、例えば只歩くだけの体重の軽いイヌは、重い、或いは活動性の高いイヌに比較して関節への負担が軽くなるでしょう。この様な訳で早い内から問題を抱えるイヌもいれば、実際のところ問題を何ら見ないイヌも出て来る訳です。 イヌやネコの関節炎のサインは、不動、動作困難、不活発であり、痛みを持つ関節部位を舐めたり噛んだりすることがあるとの報告があります。 股関節形成不全の動物はおそらくその疾患としての状態を僅か生後 2,3ヶ月齢の内から共に過ごしています。それ故、慢性的な痛みには慣れてしまい、それに上手く対処しながら生活する様になっています。その様な痛みを受けているイヌは通常は急性の痛みのサインは示しません。時に、いつもは何とも無いが、歩行中に突然座り込んだり、歩いたり、物に登るのを拒否したりもします。但し、これは、足の平にトゲが刺さったり、一時的な筋肉痛と言った他の原因の場合もありますので、イヌが痛みを抱えていることを飼い主が確かに認識しても、明らかな歩行異常を示すケースは別として、それだけでは本疾患の発見の手だてとはなりにくいのです。 |
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次回は、上記の様なサインや症状が出た個体、或いは臨床症状の出ていない個体に対し、どの様にして股関節形成不全の診断を下すのかについてお話しします。 |
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