イヌの股関節形成不全C 治療T 医薬品の利用 |
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2019年12月1日 皆様、こんにちわ。KVC Tokyo 院長藤野 健です。 イヌの股関節形成不全の治療に関して、今回のコラムを含めて全6回で順を追って詳細な解説を進めて行きます。 英語版のWikipedia のイヌの股関節形成不全の項https://en.wikipedia.org/wiki/Hip_dysplasia_(canine) が文献の引用も豊富で比較的に充実していますので、他の文献並びに web からの情報も補いながら、これを話の軸として話を進めたいと思います。初回は投薬での治療についてざっと触れましょう。 以下、本コラム作成の為の参考サイト:https://en.wikipedia.org/wiki/Hip_dysplasia_(canine)https://flexpet.com/hip-dysplasia-in-dogs/https://ja.wikipedia.org/wiki/非ステロイド性抗炎症薬 |
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治療法の全般 まず最初に股関節形成不全に対して取り得る治療法について概観し、その後で、非観血的或いは観血的対応について詳述していきます。 起きてしまった股関節形成不全については、完全な回復はあり得ません。尤も、臨床症状を軽減する為の選択枝は多数あります。治療の目的は患畜の QOL を高める事にあります。大切な点は、本疾患は遺伝的背景を抱え (即ち根本的解決は出来ない) 且つ退行性変化 (劣化) を伴う疾患であると言う事ことです。動物の一生の間に症状が変化もするでしょうし、もし症状が悪化した様に見えたり、或いは何か重要な変化が起きたときには、いずれの治療法を試みているにせよ、その時点での (定期的な) 見直しと再評価を行う事になります。 もし問題が比較的軽度であるならば、症状をコントロール下に持ってくる為に必要なことは、適合する医薬品を投与することがその全てとなる場合があります。身体が炎症や痛みや関節の摩耗と上手く付き合っていくのを助ける訳ですが、実際、多くのケースに於いて獣医療面では医薬品投与だけで終生対応できるでしょう。 医薬品でコントロールが不可能な場合、その時は、しばしば手術が考慮されます。伝統的には2つの手術法があります。1つは関節の形を正しく整え痛みを軽減したり或いは運動を改善するもの、それともう1つは破壊された股関節を人工関節で完全に置き換える股関節置換術ですが、後者はヒトのものと非常によく似た手術になります。 まぁ、ヒトの関節炎への対応と同様に、軽度〜中程度の場合は痛み止めや関節組織の再生を促す薬剤、運動指導、理学療法等で日常生活の維持を図り、歩行や動作がままならないまでに悪化すると、では遣りましょうか (手術しましょうか)、の段取りです。 |
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非観血的治療法 非観血的とは、要するに手術療法以外の治療のこととなります。非観血的治療は3つの要素から成ります:体重のコントロール、運動のコントロール、そして医薬品です。イヌのマッサージはその施術を通じて不快さを軽減し、リンパ液と栄養分の流れを改善する手助けをします。この様な理学療法も有効です。体重コントロールは、しばしば「関節炎を抱えるイヌを助ける為に我々が出来る最も重要な1つの事」となり、結果として「イヌを減量することは多くのイヌに於いて全ての関節炎症状をコントロールするに等しい」のです。適度な運動は軟骨の成長を刺激し、退行変化 (劣化) を減少させ (尤も、過度の運動は害にもなりますが)、初期〜軽度の形成不全での規則正しい長い時間の歩行は、股関節周りの筋量の減少を防止するのに役立ちます。医薬は痛みと不快感並びに有害な炎症を軽減し得ます。 |
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医薬品の利用 医薬品を利用する場合は、通常は適合する非ステロイド抗炎症薬(NSAID、複数形 NSAIDs エヌセッズ、エヌセイズ)に拠りますが、これは抗炎症と痛み止めの二重に作用します。皆さんよくご存じのアスピリンも NSAID の仲間です。NSAIDs は、身体の障害により産生されるプロスタグランジン(炎症と疼痛を惹き起こす)の合成を阻害することで効果を発揮します。股関節形成不全に対するおきまりの NSAID は、カルプロフェン carprofen と メロクシカム meloxicam (しばしば各々商品名 Rimadyl リマディルと Metacam メタカムとして販売される) を含みますが、共に股関節形成不全由来の関節炎を治療する為に用いられます。尤も、テポザリン tepoxalin (Zubrin) や prednoleucotropin プレドノロイコトロピン (PLT、 これは cinchophen シンコフェン と prednisolone プレドニゾロンとの組み合わせ、プレドニゾロンはステロイド剤となります) と言った他の NSAID も時には試されます。NSAID は種によりどれが効果的かが劇的に変化します。即ち、1つの種に安全な NSAID が他の種には安全では無い場合がありますので獣医の助言に従うことが大切です。 必要に応じ、抗炎症薬を更に 4〜6週間以上の間、多剤投与する事も一般的です。と言うのは、しばしば動物により、ある薬剤には反応したり反応しなかったりすることがあるからです。もし1つの抗炎症薬が無効な場合、その患畜は医薬投与が無効と結論付ける前に、獣医師は、継続中のグルコサミン (栄養サプリメント、次回コラムにて説明します) と抱き合わせにしつつ、1つまたは2つの他の銘柄を各々 2〜3週間ずつ、トライする事が通常行われます。 カルプロフェン及び他の一般的な NSAIDs は、殆どの動物に対して大変安全ですが、時に動物によっては問題を起し得ます。稀なケースですが肝毒性由来の突然死を惹き起こします。この問題はカルプロフェンについては最も広く議論されていますが、他の抗炎症薬についても等しく発生する可能性があります。結果として、使用中の医薬品が患畜に副作用を起こしていないか確認する為に、月ごとに一度 (或いは少なくとも年に2度) 血液検査 (肝機能、腎機能等のチェックの為)を行うことが通常勧められます。この様な副作用は稀ですが、特に薬剤の長期使用が想定される場合には注意を払う価値があります。尤も、薬剤の処方は、股関節形成不全の症状を抑制する効果がある範囲内に於いて、たいていは副作用の発生無く長期間継続することが可能です。 副作用の無い薬剤は無く、NSAIDs に於いても、肝障害以外にも腎障害を起こしたり重篤な消化管潰瘍を惹き起こしたりすることが報告されています。獣医師の指示の元、必ず用量、用法を守り、個人的な使用は避けて下さい。 |
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医薬品の利用に当たっては、副作用を軽減或いは抑制すると共に、身体全体の生体調整機構を高める為に、適当なサプリメントを併せて摂らせる事も効果的です。本コラム、イヌの股関節形成不全Eでは補助栄養食品としてのサプリメントについても若干触れる予定です。 |
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