イヌの退行性脊髄症@ 概要 |
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2020年1月15日 皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 後肢に運動障害を起こす疾患の内、股関節並びに膝関節の整形外科的疾患詰まりは主に骨に原因が存在するものについて前回まで取り扱いました。今回は、骨に原因があるのでは無く、筋肉を動かす脳からの指令を伝える神経路−信号を伝える電線部分−に問題が発生し歩行困難を来す、言わば神経内科的な疾患である退行性脊髄症 Degenerative Myelopathy について3回に分けて採り上げます。 よく似た名前の疾患に変形性脊椎症がありますが、こちらは神経そのものではなく、脊髄神経を取り巻く椎骨(=脊椎骨)に変形等が発生し、その内部を通過する脊髄神経に圧迫を加えて二次的なしびれ、麻痺等の問題を惹き起こすものです。退行性脊髄症ではその様な脊髄神経周囲を覆う椎骨等の変形無しで、即ち神経そのものが原因で発症するところが大きな違いです。変形とはカタチが歪むという意味ですが、本疾患では肉眼的な変形はほとんど観察されず、疾患の実態としては、もともと正常であった神経が組織レベル(=顕微鏡レベル)で変性し機能を脱落して発症するものです。degenerative disease は変性疾患と訳され Degenerative Myelopathy も変性性脊髄症と呼称する方が正しいのかも知れませんが、世間ではどうも、変形性脊椎症と混同されてしまい、変形性脊髄症なる誤用も非常に良く見受けられます。従って、退行性ミエロパチー(ミエロバチーとは脊髄症のこと)、或いは退行性脊髄症 Degenerative Myelopathy と呼称した方が良かろうと院長は考えます。 以下、本コラム作成の為の参考サイト:https://canna-pet.com/dog-paralysis-common-causes-treatment/American College of Veterinary Internal Medicinehttps://www.acvim.org/岐阜大学動物病院神経科https://www.animalhospital.gifu-u.ac.jp/neurology/medical/spine_dm.htmlhttps://ja.wikipedia.org/wiki/ローデシアン・リッジバック南アフリカ及びジンバブエ(旧ローデシア共和国)原産のセントハウンド犬種https://ja.wikipedia.org/wiki/チェサピーク・ベイ・レトリーバーhttps://en.wikipedia.org/wiki/Chesapeake_Bay_Retrieverhttps://ja.wikipedia.org/wiki/プードルhttps://www.akc.org/dog-breeds/poodle-standard/https://ja.wikipedia.org/wiki/ミエロパチーhttps://en.wikipedia.org/wiki/Myelopathyhttps://www.colliehealth.org/degenerative-myelopathy/http://www.caninegeneticdiseases.net/dm/basicdm.htmhttps://ja.wikipedia.org/wiki/ミオパチーhttps://ja.wikipedia.org/wiki/ニューロパチーhttps://ja.wikipedia.org/wiki/対麻痺https://ja.wikipedia.org/wiki/脊髄性筋萎縮症難病情報センター 筋萎縮性側索硬化症http://www.nanbyou.or.jp/entry/52一般社団法人 日本ALS協会http://alsjapan.org/how_to_cure-summary/すべてがわかる ALS(筋萎縮性側索硬化症)・運動ニューロン疾患(アクチュアル 脳・神経疾患の臨床)祖父江元 (編集), 辻 省次 (編集)中山書店 (2013/6/4) ISBN-10: 452173443X ISBN-13: 978-4521734439 |
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症状 退行性脊髄症 Degenerative Myelopathy (以下 DMと略称します)は高齢犬に見られる進行性の脊髄疾患であり、8〜14歳齢のイヌに潜行的にじわじわと進行して行きます。脊髄の胸椎部位がまず冒されますので、それが支配する身体の部位の感覚麻痺 (しびれ)、脚の運動麻痺が両側性に発生 (左右の後肢が共に麻痺することを対麻痺 ついまひ と呼びます)し、増悪 (ぞうあく)します。両後肢の筋肉に脳からの刺激を伝達することが出来ませんので、力が入らず脚を地面に引きずる様に歩行します。股関節や膝関節に痛みや機能障害を伴う整形外科的な関節症とは臨床像が異なり、注意すれば見分けられます。 後肢の運動失調 (正常なリズムの歩行が出来なくなる)で始まり、歩行時にぐらついたり、足先を引きずる様になります。後肢の足を背側(=足の甲側)に屈することが出来ずに足の甲で接地すること (ナックリング、拳固にぎり)も示します。当初は片側の脚に症状が現れますが、やがては反対側の脚にも進みます。進行すると脚の筋肉が落ち (筋萎縮)、四足姿勢を保てなくなり、潰れた姿勢となり、歩行困難を来します。発症後、半年から1年で対麻痺、 下半身不随となります。更に時間が経過する(1年〜3年)と、脊髄神経からは内臓を自律的に調整する神経(自律神経)も枝を出していますので、排尿排便の正常な反射も機能しなくなりコントロールが不可能となります (膀胱直腸障害)。次第に上位(頭に近い側)の脊髄も冒されますので、前肢にも麻痺が拡大し、自立歩行が完全に困難となります。本疾患は運動神経のみならず感覚神経、自律神経の神経機能が全て脱落していく疾患ですので、患畜は麻痺部位の痛みを覚えません。 この臨床像は、例えば、ヒトの背損(脊髄損傷)の患者さんに類似しますが、DMでは進行性であり、最後は呼吸筋や嚥下の為の筋に向かう枝も冒され、発症後3年程度で死の転帰を遂げる点で異なります。 |
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また同じ神経変性疾患に分類されるヒトの筋萎縮性側索硬化症 Amyotrophic lateral sclerosis (ALS)では、運動神経(=運動ニューロン)のみ傷害され、感覚神経並びに自律神経は冒されませんが、この点がDMとは大きく異なっています。この様に運動ニューロンの経路のみが冒される疾患を総称して運動ニューロン病 motor neuron disease (MND) と呼称しますが、それには他にはヒトの脊髄性筋萎縮症 spinal muscular atrophy (SMA)などが含まれます。SMAは、脊髄の前角細胞と脳幹の運動ニューロンの変性による筋萎縮と進行性の筋力低下を特徴とする常染色体劣性遺伝の疾患です。 |
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