イヌの退行性脊髄症B 診断と治療 |
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2020年1月25日 皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 退行性脊髄症 Degenerative Myelopathy について3回に分けて採り上げますがその第3回目、最終回です。 以下、本コラム作成の為の参考サイト:https://canna-pet.com/dog-paralysis-common-causes-treatment/American College of Veterinary Internal Medicinehttps://www.acvim.org/岐阜大学動物病院神経科https://www.animalhospital.gifu-u.ac.jp/neurology/medical/spine_dm.htmlhttps://www.colliehealth.org/degenerative-myelopathy/http://www.caninegeneticdiseases.net/dm/basicdm.htmhttps://ja.wikipedia.org/wiki/ミエロパチーhttps://en.wikipedia.org/wiki/Myelopathyhttps://ja.wikipedia.org/wiki/ミオパチーhttps://ja.wikipedia.org/wiki/ニューロパチーhttps://ja.wikipedia.org/wiki/対麻痺難病情報センター 筋萎縮性側索硬化症http://www.nanbyou.or.jp/entry/52一般社団法人 日本ALS協会http://alsjapan.org/how_to_cure-summary/https://ja.wikipedia.org/wiki/多発性骨髄腫 |
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診断 DMはどうやって臨床診断を得るのでしょうか? DMは消去法に拠り診断を確定します。無疼痛性の後肢の麻痺の診断に加え、ミエログラフや MRI と言った診断テストを用い後肢の脆弱性を来す他の原因を探ります。脊椎骨の異常や椎間板ヘルニア等の神経圧迫要因や脊髄内外の炎症や出血、悪性新生物(例えば多発性骨髄腫)等の他の原因を除外してのち、最後に DMの予測診断に辿り着くのです。これに SOD1タンパクを作る遺伝子の検査を併せ行うことで精度が高められるでしょう。診断を確定させる唯一の方法は、死後に剖検し取り出した脊髄を顕微鏡下で調べる以外に有りません。組織像では DMには特徴的な脊髄の退行性変化が観察され、それらは他の脊髄疾患に典型的な像とは画像が違っています。 |
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鑑別診断 DM によく似た疾患には他にどのようなものが有るのでしょうか? 脊髄に影響するどの病気であれ、DM に非常によく似た運動協調性の消失や筋の衰弱を惹き起こし得ます。これらの疾患の多くは効率的に治療も可能な疾患です。DM と診断する為には、イヌがこれらの疾患ではないと確かめるべく必要なテストを行い、真実を追い求めて行くことが大切です。 後肢衰弱の最も一般的な原因は椎間板ヘルニア (ヘルニアとは臓器や組織の一部が本来あるべき場所ではない場所にはみ出している状態)です。椎間板は背骨の椎骨同士の衝撃吸収体ですが、ヘルニアになると飛び出た部分が脊髄に圧力を掛け後肢衰弱や麻痺を引き起こします。コーギーなどの脚が短く背中の長いイヌは椎間板の脊髄腔内への横滑りを起こし易いのです。歩幅を稼ぐために背骨を屈伸して胴体の振れで距離を補う策ですね。前回にも述べましたが、ひょっとするとこの様なコーギーの運動特性が、椎間板ヘルニア以外に DM自体の発症の原因になっている可能性もあります。ヘルニアを来した椎間板は椎骨のX線撮影並びに脊髄造影で、或いは CTや MRIと言った更に高精度の撮像で検出されます。 我々が考慮に入れるべき他の疾患は、腫瘍、嚢包、感染症、外傷や出血です。似た様な診断方法を通じてこれら殆どの疾患の診断が可能となります。もし必要で有れば、獣医師を通じて DM診断の助けとなる認定専門神経医に紹介して貰う事も出来るでしょう。お住まいのところの近くの神経医は、例えば米国の例であれば American College of Veterinary Internal Medicine 米国獣医内科学大学のウェブサイトの「あなたの近くの専門医を見つけよう」にリンクされる氏名録で見つけることが出来ます。本邦ではこの様なお助けサイトが成立しているのか院長は情報を持って居ません。岐阜大学動物病院神経科に一度相談するのも手です。但し、当然ながら近隣にお住まいの方以外はイヌを連れてのアプローチが難しそうですね。 |
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治療法 DM をどの様にして治療するのでしょうか? DM の進行を食い止めたりその速度を低下させることが明確に示された治療法は一つもありません。インターネット上には、数多くの試みや方法が掲載され推薦されていますが、効くと言う科学的なエビデンス(根拠)は皆無です。DM を抱えたイヌの見通しは残念ながらまだ迫り来る死以外にないのです。 DM を発症するリスクを持つイヌの遺伝子が発見され、本疾患の発症を予防する療法への道に繋がる可能性が出て来ましたが、まだまだ研究は道半ばです。SOD1の異常を持つイヌの子孫を残さないのも不幸なイヌを生み出す問題の解決にはなります。その一方、患畜の QOL(quality of life 生活の質)は、質の良い看護、理学療法 (適度な歩行、水中歩行など)、圧痛の軽減 (マット等を利用)、尿路感染の監視 (手技的圧迫法にての残尿の排尿を行い並びに膀胱炎発症への注意を払う)、ハーネスと車輪附きカートを利用しての可動性の増大(筋肉量の維持と精神的ストレスの軽減)を図る方法などで改善することが可能です。呼吸低下並びに嚥下障害の域に達すると一般家庭でのケアは相当程度困難になると思われますが、専門病院とタイアップしながら終末期医療に取り組むことは飼い主にとって大きな経験になると同時に、命に対する哲学を深めても呉れる筈です。得られたことをホームページに掲載して世に広めることも社会にとっては大変有益でしょう。 |
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ヒトの場合もそうですが、おそらくはその多くが遺伝子異常に起因するであろう神経変性疾患に対する根本的な治療法は確立されておらず、対象療法的にケアを進めていくに留まる疾患が多いでしょう。しかしながら医学は最近富に日進月歩の速度を高めていますので、積極的なケアに当たりながら患畜の QOLを維持していくことが大切だと院長は考えます。ご自分が行ったケアが良好な結果をもたらしたと感じた場合は、それを youtube などに公開するのも良いと思います。 次回からは神経筋疾患の1つでヒトに於いて重い臨床症状を示し、また遺伝子或いは分子治療の面からも重要な研究対象である筋ジストロフィーについて、7回シリーズで執筆していきます。 |
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