Ken's Veterinary Clinic Tokyo

相談専門 動物クリニック

                               








































































































































































院長のコラム 2020年2月5日 


『イヌと筋ジストロフィーA デュシェンヌ型筋ジストロフィー』






 

イヌと筋ジストロフィーA デュシェンヌ型筋ジストロフィー




2020年2月5日

 皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。

 筋ジストロフィーのお話の第2回目です。



以下本コラム作成の為の参考サイト:


https://www.colliehealth.org/degenerative-myelopathy/


American College of Veterinary Internal Medicine

https://www.acvim.org/


Muscular Dystrophy in Dogs

https://wagwalking.com/condition/muscular-dystrophy


https://geneticliteracyproject.org/2018/10/25/promising-treatment-for-duchenne-muscular-dystrophy-developed-with-crispr-gene-editing/


https://en.wikipedia.org/wiki/Muscular_dystrophy

https://ja.wikipedia.org/wiki/筋ジストロフィー


一般社団法人 日本筋ジストロフィー協会

https://www.jmda.or.jp/


デュシェンヌ型筋ジストロフィー(Duchenne muscular dystrophy:DMD)

https://www.jmda.or.jp/mddictsm/mddictsm2/mddictsm2-1/mddictsm2-1-1/


https://www.mda.org/disease/duchenne-muscular-dystrophy


https://ja.wikipedia.org/wiki/福山型先天性筋ジストロフィー


神戸大、筋ジストロフィー「福山型」治療に道

2011/10/6付 日本経済新聞

https://www.nikkei.com/article/DGXNASDG0502M_V01C11A0CR8000/?at=DGXZZO0195591008122009000000


https://ja.wikipedia.org/wiki/ジストロフィン


https://ja.wikipedia.org/wiki/フクチン


https://science.sciencemag.org/content/362/6410/86


https://geneticliteracyproject.org/2018/10/25/promising-treatment-for-duchenne-muscular-dystrophy-developed-with-crispr-gene-editing/


https://www.actionduchenne.org/what-is-duchenne/duchenne-explained/glossary-of-research-terms/stop-codon-readthrough/



国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 遺伝子疾患治療研究部

https://www.ncnp.go.jp/nin/guide/r_dna2/en/research_dystrophy.html


GENEReviews Japan 拡張型心筋症概説

(Dilated Cardiomyopathy Overview)  http://grj.umin.jp/grj/dcm-ov.htm


筋収縮を調整する分子機構

https://www.jst.go.jp/pr/announce/20030703/01.html


京都大学循環器内科 カルシウム拮抗薬

http://kyoto-u-cardio.jp/shinryo/chiryo/00607/0060706/


iPS細胞を使った遺伝子修復に成功 −デュシェンヌ型筋ジストロフィーの変異遺伝子を修復−

2014年11月27日

http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2014/141127_1.html









分類



 ヒトに於いて知られる筋ジストロフィーですが、同じ哺乳類で同じ様な筋の構造を持つ他の動物でも起こり得ます。ヒトで知られているのと同じ発症機序なのですが、遺伝子の異常に拠り筋を形作るタンパク質が異常なものとなり、筋線維が変性、脱落するパターンです。イヌの本疾患に入る前に、研究が進んでいるヒトの例を元にして病態を概略しましょう。


 一般社団法人 日本筋ジストロフィー協会のサイトに筋ジストロフィーが簡潔に分類されています。是非参照下さい。

https://www.jmda.or.jp/mddictsm/mddictsm2/mddictsm2-1/


「筋ジストロフィーとは「筋線維の変性・壊死を主病変とし、進行性の筋力低下をみる遺伝子の疾患である」と定義されています。その遺伝形式により、分類が行われてきました。しかし、近年分子遺伝学の進歩により、遺伝子座が次々と明らかにされ、またクローニングされ、それに基づいた疾患分類が試みられるようになっています。主な病気の分類を下記の表に示しました。」


X連鎖劣性遺伝 (母親が遺伝子を伝えるが母親当人は大方無症状)のものとして

Duchenne型  遺伝子座 Xp21 遺伝子産物 dystrophin

Becker型                  Xp21                dystrophin

Emery-Dreifuss型       Xq28                emerin

 (以上、抜粋引用)


 他に、上記、性染色体上に異常を持つタイプの他、常染色体劣性遺伝(2個で一組の遺伝子の両方が異常な時に発症、本邦では福山型が多く見られます)、常染色体優性遺伝(2個で一組の遺伝子の片方が異常な時でも発症)のタイプがあり、単に筋疾患に留まらず精神薄弱を伴う型も存在します。また冒される筋の部位にも違いが出ます。


 同じ名前の筋ジストロフィーであっても、変異している遺伝子が異なると筋構造中の異なる<部品>が異常を来し、筋線維の破壊へとつながること分かります。いわゆる筋ジストロフィ−の名で一般に知られている疾患は、この分類の中のデュシェンヌ型と呼ばれるものです。本コラムではこの先、このデュシェンヌ型について主に扱います。






Duchenne Timeline - Updated 2014

2016/08/08 Deb Robins

The original Duchenne Timeline, viewed over 500,000 on this channel alone,

was created by Helen Posselt PT for PPMD and followed the natural progression

of Duchenne muscular dystrophy. However, this "Updated" Duchenne Timeline

considers the effects of consensus treatments over the last decade or more,

which have delayed degenerative milestones for many in order to extend both

quality and quantity of life.

https://youtu.be/OG23yakedNM

Helen Posselt さんが作ったオリジナルに幾つかの情報を加えた動画になります。


デュシェンヌ型筋ジストロフィーの時間経過が示されます。最後にステロイド剤投与例

が紹介されます。個人差はあると言う事ですが一定の効果は確かに得られているよう

に見えます。心筋障害に由来する心不全に対してのアンジオテンシン変換酵素阻害

剤 (ACE阻害剤)、ベータブロッカーの投与にも触れられています。






デュシェンヌ型筋ジストロフィー




米国筋ジストロフィー協会

https://www.mda.org/disease/duchenne-muscular-dystrophy

以下ここに掲載の記事を紹介します。


デュシェンヌ型筋ジストロフィー Duchenne muscular dystrophy(DMD)とはなんですか?


 初期にはDMDは肩と上肢筋並びに臀部と腿の筋が冒されます。これら筋の衰えは床から立ち上がったり、階段を上ったり、バランスを取ったり腕を上げるのを困難にします。

 DMDは遺伝性の異常に起因し、進行性の筋変性を示しますが、ジストロフィンと呼ばれる筋肉を正常に保つ機能のタンパク質が変化し、筋が衰弱することが特徴です。

 DMDはジストロフィン症 (ジストロフィノパチー) として知られる4つの状態の内の1つです。このグループに属する他の3つの疾患は、ベッカー型筋ジストロフィー(BMD、これはDMDのマイルドな型)、臨床的にDMDとBMDの中間の像を示すもの、それと臨床的に随意筋疾患をほとんど或いは完全に伴わないDMD関連性の拡張型心筋症(心臓病)です。

 DMDの発症は子供時代の初期に、普通は2歳と3歳の間に起こります。この疾患は原則として男児にのみ影響しますがまれに女児にも起こり得ます。欧州と米国に於いてはDMDの有病率は10万人当たりおよそ6人です。



DMDの症状はどのようなものですか?


 筋の脆弱化がDMDの症状の根幹に在ります。2,3歳と言った早期に始まり得、最初は四肢の近位筋(体幹に近い側の筋)が冒され、後には遠位(体幹から遠い側)の四肢筋が冒されます。通常は、上肢筋が冒される前に下肢筋が冒されます。罹患した子供はジャンプしたり走ったり歩くのが困難になることがあります。

 他の症状はふくらはぎが肥大したり、あひる歩行をしたり腰椎前弯(腰の部分の脊椎骨が腹側に凸レンズの様に曲がる)が見られます。のちには、心臓と呼吸筋もまた冒されます。進行性の筋の衰弱と側弯は肺機能の障害をもたらしますが、これはやがては急性の呼吸不全を惹き起こし得ます。

 ベッカー型の筋ジストロフィー (BMD) はDMDに非常によく似ていますが、発症はたいていは十代か成人期です。BMDの進行経過はゆっくりでDMDに比べると進行に関する予測可能性は低いです。



何がDMDを起こすのですか?


 DMDは1860年代にフランスの神経学者ギヨーム・ベンジャミン・アマン・デュシェンヌにより最初に記載されました。しかし1980年代に至るまで筋ジストロフィーのいずれの種類についてもその原因については殆ど知られていませんでした。

 1986年にMDAからの資金援助を受けた研究者達がX染色体上の特定の遺伝子を同定し、それが変異するとDMDに繋がることを発見しました。1987年に、この遺伝子に関連するタンパク質が同定されジストロフィンと名付けられました。

 筋細胞内でのジストロフィンタンパク質の欠如は筋細胞を脆弱にし簡単に損傷される様になります。DMDはX染色体連鎖型劣勢遺伝のパターンを示し、母親により受け継がれますがこの母親を保因者と呼びます。



DMD保因者とは何ですか?


 DMD保因者とは正常なジストロフィン遺伝子を一つのX染色体上に持ち、もう一方には異常なジストロフィン遺伝子を持つ女性のことです。MDMの保因者の殆どは自身ではこの疾患の徴候や症状を示しませんが、わずかの者は示します。この場合、症状は軽微な骨格筋の脆弱や或いは心臓への影響から重度の脆弱や心臓への悪影響に及び、その開始は子供時代から成人期までに起こり得ます。



DMDの平均余命はどれくらいですか?


 比較的最近まで、DMDの男児は十代を大きく超えて生き延びることはありませんでした。心臓並びに呼吸ケアの進歩のお蔭で、平均余命は延びつつあり、DMDを抱えた多くの若者が大学に通い仕事を持ち結婚し子供を持っています。30代初期にまで生き延びる事は以前に比べてより普通の事となっています。



DMD研究の現況はどうなっていますか?


 MDAの支援を受けた研究者達は研究アイデアを精力的に追い求めていますが、幾つかは期待でわくわくさせる様なものを含んでいます。例えば遺伝子療法、エクソンスキッピング法、終始コドン通読療法、また遺伝子修復療法などです。ヒトの臨床試験ではこれらの戦略の幾つかが実際進行中です。

(以上院長訳)




 1986年になって Monaco A. らに拠り漸く DMD の原因遺伝子が特定されましたが、つい最近の話で驚かされます。

Monaco A, Neve R, Colletti-Feener C et al. (1986). “Isolation of candidate cDNAs for portions  of the Duchenne muscular dystrophy gene”. Nature323 (6089): 646-50. doi:10.1038/323646a0.  PMID 3773991


 それ以前には対象療法的な手当をする以外に出来ることはありませんでした。原因の特定以後30年以上に亘り治療法の模索が鋭意続けられてきていますが、遺伝子関連の研究技法が過去 5年程の間に著しい進展を見せ、本疾患の治療にも光が差し始めています。詳細は本コラムの治療の項で扱います。

 DMD 関連性の拡張型心筋症が存在するとのことですが、本邦でも拡張型心筋症の幼児や学童が米国に渡り心臓移植手術を受けたとの報道を時に耳にしますが、この中の一部には DMDとしての拡張型心筋症が含まれている筈です。心筋が特異的に変性、脱落し心臓壁の厚みが薄くなり心臓全体が拡張する経過は、確かに心筋に限定された筋ジストロフィーの病態、病型を示唆するものです。また同時に、DMDを含めた筋ジストロフィーに対する治療法が確立されれば、それが(一部の)拡張型心筋症の進行を抑える治療にも当然生かせるものと院長は考えます。ちなみに、福山型筋ジストロフィーを起こすフクチン遺伝子の異常は、拡張型心筋症 1X型等の原因となることが判明しています。