イヌと筋ジストロフィーG その他の治療法 |
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2020年3月5日 皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 筋ジストロフィーのお話の第8回目です。今回でこのテーマは最後となります。 以下、本コラム作成の為の参考サイト:https://www.colliehealth.org/degenerative-myelopathy/American College of Veterinary Internal Medicinehttps://www.acvim.org/Muscular Dystrophy in Dogshttps://wagwalking.com/condition/muscular-dystrophyhttps://en.wikipedia.org/wiki/Muscular_dystrophyhttps://ja.wikipedia.org/wiki/筋ジストロフィー一般社団法人 日本筋ジストロフィー協会 https://www.jmda.or.jp/デュシェンヌ型筋ジストロフィー(Duchenne muscular dystrophy:DMD)https://www.jmda.or.jp/mddictsm/mddictsm2/mddictsm2-1/mddictsm2-1-1/https://ja.wikipedia.org/wiki/ジストロフィンhttps://www.mda.org/disease/duchenne-muscular-dystrophyhttps://geneticliteracyproject.org/2018/10/25/promising-treatment-for-duchenne-muscular-dystrophy-developed-with-crispr-gene-editing/https://www.actionduchenne.org/what-is-duchenne/duchenne-explained/glossary-of-research-terms/stop-codon-readthrough/iPS細胞を使った遺伝子修復に成功 −デュシェンヌ型筋ジストロフィーの変異遺伝子を修復−2014年11月27日http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2014/141127_1.htmlhttps://ja.wikipedia.org/wiki/福山型先天性筋ジストロフィー神戸大、筋ジストロフィー「福山型」治療に道2011/10/6付 日本経済新聞https://www.nikkei.com/article/DGXNASDG0502M_V01C11A0CR8000/?at=DGXZZO0195591008122009000000https://ja.wikipedia.org/wiki/フクチンhttps://science.sciencemag.org/content/362/6410/86国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 遺伝子疾患治療研究部https://www.ncnp.go.jp/nin/guide/r_dna2/en/research_dystrophy.htmlGENEReviews Japan拡張型心筋症概説(Dilated Cardiomyopathy Overview)http://grj.umin.jp/grj/dcm-ov.htm筋収縮を調整する分子機構https://www.jst.go.jp/pr/announce/20030703/01.html京都大学循環器内科 カルシウム拮抗薬http://kyoto-u-cardio.jp/shinryo/chiryo/00607/0060706/Lucy Lintott's web pagehttps://lucysfight.com/https://twitter.com/lucylintott |
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その他の治療法薬剤 ここでは治験薬段階の薬剤ではなく、現在一般的に臨床利用される薬剤について述べます。 ステロイドは一般的な理解としては炎症を抑制します。例えば感染や怪我などで組織がカッカと「燃えて」過剰反応するのを鎮火しクールにさせ、腫れで停滞していた物流の循環を改善して組織の修復を図るのに非常に有効です。白血球からの過剰な攻撃を抑えて組織を守るべく、自己免疫性疾患にも利用されます。DMD デュシェンヌ型筋ジストロフィー に対するステロイド剤の直接の作用機序は院長は知識を持ち合わせてはいませんが、ジストロフィン欠如に起因する、筋破壊、再生時に発生する炎症反応を低減し、全体として、筋破壊と再生の舞台を激烈にではなくマイルドにする効果があるのではと想像しています。実際、Youtube での患者さんの進行事例を見るとその様な効果がありそうに見えます。但し、児童にステロイド剤を投与すると食欲が増大し肥満化する副作用が出がちです。いわゆる満月様顔貌にもなり勝ちです。体重が増大すると逆に歩行に響きますので、慎重なさじ加減が必要とされるでしょう。 話は外れますが、獣医療の場では副腎皮質ホルモン製剤は、皮膚疾患やアレルギー疾患の治療に重宝されます。劇的な改善を見る点では良いのですが、耐性がすぐに出、同容量では効果が出なくなります。そうなると副作用の問題も出る上に、止めるにしても徐々に投与量を減らして減薬を進めないと一種の離断症状が出るとの厄介な面も存在します。この様な特性から、必要最低限のギリギリの容量を日数を限定して投与するのが最善です。院長も自分の手の傷が化膿した場合などに市販の副腎皮質ホルモン軟膏を利用しますが、ごく微量を傷の周辺域に塗り込み、塗布時に手指に付いた軟膏は徹底的に拭き取りますし、3日以上は連続利用しないと決めています。知識の無い素人が副腎皮質ホルモン軟膏の類いを頻用するのは厳に慎むべきですし、例えばニキビの治療に塗布し一度は軽快を見ても、次第に容量が増大すると共にニキビ自体が著しく悪化するおそれがあります。副腎皮質ホルモンの増量は、体内で副腎皮質ホルモンを作る副腎そのものを萎縮させますが、ストレス耐性の弱い身体となってしまいます。まぁ、ロクな事が起きませんので、やむを得ないここぞと言う場合に限り必要最小量を使用すべきですね。皮膚疾患やアレルギー治療にダラダラとステロイド剤を投与し続ける定見無き獣医師ではなく (薬の性質をわきまえて利用する獣医師は勿論除く)、それら疾病の大本を治療する視点を持つ獣医師に診て貰うことが大切です。 他には、心不全に対しては、一般的な循環器内科療法としての、アンジオテンシン変換酵素阻害剤 (ACE阻害剤)、また、βブロッカー、利尿薬を投与します。これは筋ジストロフィーそのものに対する治療薬ではありません。 |
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理学療法 一般の方の感覚では、筋が細るなら筋トレすれば良いだろうとなりますが、筋トレとは実は筋に一定以上の負荷を掛け、その刺激で筋線維を太らせる策となります。只でさえ、筋線維の異常な破壊と再生が起きているところにその様なレベルの負荷を掛けるのはマズいですね。一方で筋は利用しないと廃用萎縮しますので、正常な筋を維持すべくほどほどに運動すると良いでしょう。また運動することで関節が拘縮することも避けられます。イヌの場合でしたら、変形性股関節症のリハビリの項でも紹介しましたが、浮力スーツを纏わせ温水プールで泳がせる、水中歩行させるのも大変有益だろうと思います。 世の中は筋トレブームとなっている模様で、例えばアマゾン通販にて<筋トレ>で検索すると関連書籍がごまんとリストアップされます。しかしながら、筋変性疾患の患者さんに対する科学的な筋肉維持の為の知識提供は皆無ですね。絶対的な被検者数が確保出来ず、統計学的なデータが得られない面もありますが、様子見しながらの「だましだまし」の作戦ではなく、将来的に、筋ジストロフィーの患者さんが筋トレする為の明確な科学的規準が得られることを願っています。 具体的な採るべき理学療法については、股関節形成不全のコラムにて紹介した方法が大方そのまま適用できますのでそちらをご覧下さい。 |
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ヒトの場合もそうですが、おそらくはその多くが遺伝子異常に起因するであろう神経筋変性疾患に対する根本的な治療法の多くは確立されておらず、対象療法的にケアを進めていくに留まる疾患が多いでしょう。しかし繰り返しますが、医学は最近、富に日進月歩の速度を高めていますので、積極的なケアに当たりながら QOLを維持していくことが大切だと院長は考えます。 次回からはまた野生動物の話に戻ります。 |
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