ネズミの話1 ネズミもどき |
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2020年3月10日 皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 獣医療面での話が過去4ヶ月程度続きましたので、また久しぶりに獣医療とは離れた哺乳動物の話題を採り上げようと思います。今年の干支はねずみ年ですので何か適当なネズミの話をしたいところですが、ネズミの概論(分類・形態等)、本邦棲息の野生のネズミ、人家に棲息する家ネズミ(感染症と駆除)、小さなネズミと大きなネズミ、今を時めく?ハダカデバネズミ、その他のネズミのトピックスでお送りしましょうか。 以下、本コラム作成の為の参考サイト:https://ja.wikipedia.org/wiki/ネズミhttps://ja.wikipedia.org/wiki/ヒミズhttps://en.wikipedia.org/wiki/Japanese_shrew_molehttps://ja.wikipedia.org/wiki/ネズミカンガルー科https://en.wikipedia.org/wiki/Potoroidaehttps://ja.wikipedia.org/wiki/ハネジネズミhttps://en.wikipedia.org/wiki/Elephant_shrewhttps://en.wikipedia.org/wiki/Peters%27_elephantnose_fish |
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ネズミと言うと特に女性は身震いする方も多いのではと思いますが、院長にしてみればこの地球上で連綿と命を繋いできた生き物同士、しかも哺乳動物ですから、我々ヒトからも遠くない仲間である、との親近感がまず湧いてきます。食虫目のトガリネズミは我々とはちょっと距離があると言いますか、意思の疎通が難しいような感触があるのですが、ネズミとなると、例えばハムスター然りですが、一定の知能の存在を明確に感じ得ます。実は院長はトガリネズミと同じ食虫目のモグラを3年程飼育した経験が有りますが、なかなかの知恵者と感じました。トガリネズミの方も飼育を工夫すれば「理解」が進む可能性はあります。 高尾山の山道でトガリネズミの仲間のジネズミの死体が転がっているのを良く目にするのですが、一般の方は即座にネズミの死体だと考えてしまうでしょう。小さいサイズで尻尾が長く、灰色っぽいくすんだ色調の毛皮で覆われているからです。死体を持ち上げると自然界の片付け屋のシデムシ等の昆虫が巣くっていてびっくりして思わず手を放す事になるでしょうね。和名尖りネズミ、地ネズミの名の通り、ネズミ型である事は確かです。 英語ではトガリネズミ 尖り鼠、ジネズミ 地鼠の仲間を shrew シュルーと呼び、真のネズミに関しては、小さいサイズのネズミは mouse (複数形はmice)、大きいネズミを rat と呼ぶのですが、日本語では全てネズミ扱いです。尤も、トガリネズミ 、ジネズミ のことを shrewmouse とも呼称しますので英語圏でもネズミ扱いされてはいます。因みに同じく食虫目に属するハリネズミ 針鼠は英語名は hedgehog ヘッジホ−グ(hedge 垣根、hog ブタ)ですが、日本でモルモット、テンジクネズミ(=天竺インドのネズミ)と呼ぶ齧歯目の動物を英語では guinea pig ギニアのブタと呼称します。ネズミの名の付く動物には、ハネジネズミ 跳ね地鼠 elephant shrew なる<わけわからん>動物までいます。まぁ、日本はサイズが小さくてちょこちょこ動く哺乳類を広くネズミとして扱う文化圏にある様に見受けられます。これは漢字の鼠偏の動物である<イタチ 鼬>のことも含め、中国からの受け売りの側面も確実にあるでしょう。これは背骨の無い小さな生き物を日本語で<ムシ 虫>と一括して呼ぶのにも似ています。但し、モグラについてはモグリネズミ 潜り鼠とは呼fばす、古くは<ウコロモチ 鼠偏+分>と呼んでいましたが、当てられた漢字からすれば矢張りネズミ扱いですね。 これら「ネズミもどき」については後日機会があればおのおの別個に詳細に扱いたいところですが、本コラムシリーズでは真のネズミについて扱います。 |
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以前、院長がモグラの骨格の進化を調べていた折りに、掘削能力がモグラほどでは無く、手のひらの相対サイズが小さいヒミズを捕獲して調べようと思い立ちました。ヒミズ自体は普段人目に触れる機会は殆どありませんが実は河原の土手や林地の周辺部など含めてそこそこ棲息しています。一生出会うことの無い方々がほぼ100%に近い<身近な哺乳動物>との塩梅です。因みにヒミズ(日見ず、日見ずモグラ)とはモグラの出来損ないの様な生き物なのですが、他の食虫目の動物とモグラの間を繋ぐ中間的な動物かもしれないと院長は疑問を持ち、形態を観察したところ、掘削のシステムは既にモグラと同じ機構を完全に獲得してはいるが、掘削能力のパワーが劣るだけと判明しました。まぁ、完全にモグラ側の動物です。パワーの違いについては、バイオメカニカル面での具体的な数量的解析にまでは至っていませんが、どなたか若い方があとを継いで呉れればと思っています。ヒミズ並びにモグラについては後日別コラムに仕立てる予定です。 さて、シャーマントラップと言うアルミ製の折りたたみ式の罠にピーナツバターを入れ、許可を得た林地で20個以上の罠を仕掛けたのですが、暫くは一頭も捕獲出来ませんでした。因みに罠を仕掛けた林のその周辺はピーナツバターの濃厚な匂いが立ちこめてちょっと異様な雰囲気となりましたが、ピーナツバターを入れたのはヒミズが好物らしいと聞きつけてのトライアルです。数回目の試行時に、また今回も駄目かとあきらめ顔で1つの罠を確認すると、ヒミズでは無く小さな可愛らしい顔つきのネズミが掛かっていました。耳が小さめで尻尾が他のネズミに比べると短めです。シャーマントラップは動物が中に入るとバネ仕掛けでパタンと入り口が閉まる構造で、生体のまま無傷で捕獲が可能です。可愛い顔をしているからと言って野生個体を含めネズミはどんな感染症を持っているかも不明であり絶対に咬まれるわけには行きません。そこで咬傷防止用の金属メッシュ手袋を装着の上、プラ製の大型瓶(梅酒を漬ける類いの瓶)にさっと移動させて撮影記録した次第です。 院長は若い頃より大きめのサイズの動物に関心が強く、ネズミに関してはこの時点まで正直動物学的な興味も知識も欠いている有様でした。家に戻り調査を進めるとこのネズミがハタネズミなる種であることが判りました。 |
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上で触れたハタネズミですが、これはネズミ科ではなくキヌゲネズミ科に属しますので、只のネズミではなく、ハムスターと同じ科に属します。言うなれば日本に棲息する野生のハムスターと言えなくもありません。本邦に棲息するエゾヤチネズミ、スミスネズミ含め、性質が大人しければの話ですが、感染症に罹患していない綺麗な状態の系統を作出すればペット化出来るかもしれません。尤も、農業害獣を飼育するとはケシカランと叱られるかもしれませんが。 ネズミと言うと家ネズミのマイナスのイメージが圧倒的に強いと思いますが、実は日本の野山や畑などに棲息する野生のネズミの方も家ネズミに負けじと勢力を保っています。 前置きが長くなり(長すぎ?)ましたが、次回は真のネズミの仲間の分類の話に入ります。 |
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