ネズミの話E 日本の野生ネズミU |
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2020年4月5日 皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 本邦に棲息する野生のネズミの第二弾です。ネズミ科に属する カヤネズミ、を紹介します。 本コラム作成の為の参考サイト:https://ja.wikipedia.org/wiki/ネズミhttps://en.wikipedia.org/wiki/Dipodidaeネズミ科https://ja.wikipedia.org/wiki/カヤネズミhttps://en.wikipedia.org/wiki/Eurasian_harvest_mouse |
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カヤネズミ Eurasian harvest mouse Micromys minutus カヤネズミは日本国内では最小、ヨーロッパでも最も小さなネズミです。アジアとヨーロッパに棲息します。麦畑、河川敷などの芦原、その他背の高い草の茂る平地などに見られます。人家には全く侵入しません。2色カラーの毛で覆われ先端に毛の無い尻尾は、巻き付けることで高度な把握力を有し、登攀時に役立ちます。後ろ足は幅が広くこれも登攀に役に立ちます。尻尾と後ろ足で草の葉や茎を掴み、空いた両手で種子や昆虫などの餌を保持して食べることが出来ます。ほぼ一生を草の上で過ごします。サイズは頭胴長約 55〜75mm、尾長約 50〜70mm、体重約 4〜11g ほど(ハツカネズミの半分程度)ですが、成体でも僅か 4g程度の場合もある訳です。背中は赤茶色、腹部は白色〜クリーム色を呈します。学名Micromys minutus は、minutus 小さな、micromys 極小ネズミ属の意味ですので、命名は<小さな極小ネズミ>ですがカヤネズミそのものですね。 東北地方や南西諸島での発見例はまだありませんが、それ以外では探せばそこそこ各地に棲息はしていそうに思います。JR総武線で江戸川を渡るときに河原の広大なススキヶ原が目に入りますがそこにも棲息しているかもしれません。近年は草地や芦が茂る湿地帯が農業や宅地などに利用されたり、護岸工事と称してコンクリートで固められたりもする様になり、日本では生息域が減少、分断化されていると考えて良かろうと思います。分断化された生息域 (そのままだと遺伝的に煮詰まってしまいます)を互いにどうやって関係させるかが重要な課題となって来ています。 |
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地面から距離を置き、背の高い草の茎の中程の高さに、巧みに草を織り込んで繁殖の為の径 7cm程度の球形の巣を作ります。産仔数は 8頭です。授乳期間は 15〜16日と短く、乳仔は生後 数日〜10日ほどで物を掴んだり立ち上がったり垂直に登攀出来る様になりますが、草の中を水平移動して進むのは離乳後となります。 カヤネズミ属 Micromys はほぼ確実にアジアで進化したと考えられ、オナガキノボリマウス (Vandeleuria 属)とフデオマウス (Chiropodomys 属)に近縁です。カヤネズミ属は化石記録では古くは後期鮮新世 (3.600万年前〜588万年前)に出現し、カヤネズミはドイツの初期更新世 ( 258万年前〜77万3千年前)に化石記録があります。氷河期時代に棲息範囲の縮小を経験し、氷の無かったヨーロッパ地域に閉じ込められました。その後アジアにも再び棲息するに至りましたが、氷河が後退した為、或いは新石器時代に農業が開始されると共に偶発的に導入されたからとも考えられています。 霊長類の運動性進化を専門とする院長は、樹上生活性 vs. 地上性の概念は、常に頭の中をぐるぐる回っているぐらいの基幹的な考察のネタなのですが、カヤネズミが草上生活性に特化し、ほぼ一生をそこで過ごすことが特に興味深く感じられます。尤も、ボディサイズが小さく絶対的な体重も低いことは、同じプロポーションの動物としては登攀、ぶら下がりなどの抗重力方向の動作をいとも容易くしますので、機能形態面での特殊化は殆ど期待は出来ない動物と考えます。まぁ、習性−脳に由来する運動制御性−が草上生活を指向して進化したと言うことになるでしょう。筋骨格系の改変への要求度は極く小さいものでしょう。 明らかなことですが、一定サイズ且つ一定の枝振り形態を持つ植物の進化があって、それが提供する樹上 or 草上空間を利用する動物が進化し得た事になります。院長はぶら下がり移動(腕渡り、ブラキエーション)するサルの運動進化の解明を現在の研究のメインテーマの1つとしていますが、仮に地球上の樹木がシダ (ヘゴ、巨大なトクサなど)の様な形或いは針葉樹の枝振りであれば、それに腕渡りして進むべき枝振りがありません。霊長類が進化し得たのは被子植物の枝振りの樹木が進化した前提に立つことが良く判ります。 |
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