ネズミの話H 日本の野生ネズミX キヌゲネズミ科@ |
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2020年4月20日 (hamster の名の由来についての部分を 2021年6月8日追記) 皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 日本の野生ネズミのお話の第5回目です。 以下、本コラム作成の為の参考サイト:https://ja.wikipedia.org/wiki/ネズミhttps://en.wikipedia.org/wiki/Dipodidaeキヌゲネズミ科https://ja.wikipedia.org/wiki/キヌゲネズミ科https://en.wikipedia.org/wiki/Cricetidaehttps://ja.wikipedia.org/wiki/レミングhttps://en.wikipedia.org/wiki/Lemminghttps://www.wikiwand.com/en/Norway_lemminghttps://ja.wikipedia.org/wiki/ハタネズミ属https://en.wikipedia.org/wiki/Microtushttps://ja.wikipedia.org/wiki/エゾヤチネズミhttps://ja.wikipedia.org/wiki/タイリクヤチネズミhttps://en.wikipedia.org/wiki/Grey_red-backed_volehttps://ja.wikipedia.org/wiki/スミスネズミhttps://en.wikipedia.org/wiki/Smith%27s_volehttps://en.wikipedia.org/wiki/Bank_volehttps://en.wikipedia.org/wiki/Western_red-backed_volehttps://en.wikipedia.org/wiki/Zaisan_mole_volehttps://en.wikipedia.org/wiki/Common_voleなぜハムスターをハムスターと呼ぶのか?Common names for Cricetus cricetus (Rodentia: Cricetidae)Народные названия обыкновенного хомяка, Cricetus cricetus(Rodentia: Cricetidae)177Lynx, n. s. (Praha), 49: 177-192 (2018). ISSN 0024-7774 (print), 1804-6460Boris KRYSTUFEK1 & Alexandr A. POZDNYAKOV21 Slovenian Museum of Natural History, Pre?ernova 20, SI-1000 Ljubljana, Sloveniahttps://publikace.nm.cz/file/bd5c3a8c0cdc3a816ba13eff7d5118d1/20305/177_192_Krystufek.pdf(全文無料で読めます) |
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キヌゲネズミ科 Cricetidae とは 従来はネズミ科の動物として分類されていたものですが、それが2005年 になり、キヌゲネズミ科として分離・独立させるとの学説が提出されました。但し、この分類法並びにこれが含む動物の範疇が全ての研究者に受け入れられている訳ではありませんが、院長の当コラムではこの学説に倣いキヌゲネズミ科としてお話を進めます。 およそ680種から構成され、哺乳類としては 2番目に大きな科となります。 確かに、キヌゲネズミ科のレミングやハムスターを見ると他の ネズミ科の動物とはちょっと異なり、体型も寸詰まりで丸っこい外形です。尻尾も短めですね。しかし、キヌゲネズミ科の動物は様々な環境に適応していて、バランサーとして働く長い尻尾を持つ登攀性のものもいれば、ずんぐりした体型で耳のサイズの小さな半水中性の種、或いは地上で生活し地中に穴を掘る種など多様性に富みます。必ずしもハムスター風の外見とは限りません。系統関係を見つめ直す過程で、将来的にまた分類の変わる動物も含んでいる様にも感じます。実際、wikipedia での記述が各国のもので統一が取れておらず、属名にも混乱が起きており、記述されている意味が掴み取れないものもあります。 身近な例としては、ペットとして広く飼育されるハムスター (乾燥地への適応)、或いは<集団自殺する>ので有名なレミング (寒冷地、水環境への適応、これもペットとして販売される)、日本のハタネズミ (林地、草地への適応)などからも、様々な生息環境に適応していることが窺い知れますね。自ら進んで人家に侵入する動物ではありません。人間側が勝手に取り込んで室内で飼育する方の動物です。 |
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ところで、何故 Cricetus cricetus (ヨーロッパの一般的なハムスター)を Hamster と呼ぶのかについて諸説を纏めた面白い論文がありましたのでご紹介しましょう。 Common names for Cricetus cricetus (Rodentia: Cricetidae)Народные названия обыкновенного хомяка, Cricetus cricetus(Rodentia: Cricetidae)177Lynx, n. s. (Praha), 49: 177-192 (2018). ISSN 0024-7774 (print), 1804-6460Boris KRYSTUFEK1 & Alexandr A. POZDNYAKOV21 Slovenian Museum of Natural History, Pre?ernova 20, SI-1000 Ljubljana, Sloveniahttps://publikace.nm.cz/file/bd5c3a8c0cdc3a816ba13eff7d5118d1/20305/177_192_Krystufek.pdf(全文無料で読めます)この論文に拠ると、学名の criceus 自体が an example of onomatopoeia, imitating the hamster’s vocalization “khr” and “gr 詰まりハムスターがキィキィ言う鳴き声の擬声語に由来しているとの説が紹介されています。それが正しいのであれば、キヌゲネズミ科 Cricetidae はキィキィネズミ科と和名を当てるのが正しいのかもしれません。“Hamster” and its derivatives are by far the most widespread vernacular names in German (Ger-man, Dutch, Flemish, English), Romanic (French, Romanian), and Slavic (Russian, Belarussian, Ukrainian, Bulgarian, and Polish) linguistic groups, also being used in Udmurt and Romanes. According to Trubacev (1981), the name originates from the Old Slavonic “Homestor"” which is supposedly a composite of “home-” (cheek pouches) and “-stor"”, the latter coming from the verb “sterti” with a derivative meaning of “flowing/pouring rapidly in asteady stream” or “a discharge”. Semantically, the name “Xомeсторъ” therefore translates as “discharging cheek pouches” (Trubacev 1981). ヨーロッパで広く流布している Hamster は古スラブ語の Homester に由来し、home (頬袋)+stor (吐き出す)との、Trubacev (1981) の説が紹介されており面白く感じました。確かにぱんぱんになるまで頬に餌を詰め、自分の頬を手で叩いて吐き出すハムスターの特徴的な仕草をそのまま捉えている言葉ですね。 |
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vole とは 小型でずんぐりした体型で耳が小さく尻尾の短めのネズミを英語で vole と総称するのですが、ハタネズミなどのキヌゲネズミの仲間の多くがこれに含まれると考えて宜しいと思います。和訳すればズングリネズミとでも言えそうです。以前のコラムにて ヤブイヌについて扱いましたが、彼らは水中生活への適応で耳が小さいと考えられています。vole も 地中或いは水中に潜る適応から耳が小さいと考えて大きな間違いでは無いと考えます。因みにモグラ−耳介は失っています−のことは mole と呼びますが、mole vole モグラズングリネズミ? なる地面に潜るのが大得意なキヌゲネズミ科 Ellobius 属の動物も居て混乱させられます。 この属の以下の2種はネズミ科のトゲネズミの仲間同様に Y染色体を持たず両性の性染色体セットは共に XOです: コーカサスモグラネズミ Transcaucasian mole vole Ellobius lutescensアルメニア、アゼルバイジャン、ジョージア、イラク、トルコに棲息キタモグラネズミ Northern mole vole Ellobius talpinus東ヨーロッパとアジアに棲息 更にははたまた ザイサンモグラネズミ Zaisan mole vole Ellobius tancrei 別名 ヒガシモグラネズミ eastern molevole ではY染色体が無いどころか雌雄の性染色体セットは共に XXです! まぁ、これら3種は、雄を決定づける別の種類の遺伝子が別の場所 (常染色体側) に存在し、雄の性発現に責任を持つと言うことなのでしょう。詰まりは常染色体の特定のものが事実上の性染色体化している訳です。トゲネズミでのこの辺の進化については前回コラムにて論文を紹介していますのでご覧下さい。まぁ、なんとも変わっているのは確かです。 |
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