Ken's Veterinary Clinic Tokyo

相談専門 動物クリニック

                               




























































































































































































































































































































院長のコラム 2020年5月5日 ネズミの話K  ドブネズミの分布






 

ネズミの話K  ドブネズミの分布




2020年5月5日

 皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。

 家ネズミの内の筆頭格、ドブネズミのお話の第2回目です。



以下、本コラム作成の為の参考サイト:


https://ja.wikipedia.org/wiki/ネズミ

https://en.wikipedia.org/wiki/Dipodidae


ドブネズミ

https://en.wikipedia.org/wiki/Brown_rat


https://ja.wikipedia.org/wiki/ムカシトカゲ目


Predation of native birds

https://www.sciencelearn.org.nz/resources/1159-predation-of-native-birds


https://ja.wikipedia.org/wiki/クロウタドリ








https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Chouju_1st_scroll-04.jpg

[[File:Chouju 1st scroll-04.jpg|Chouju 1st scroll-04]]

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鳥獣人物戯画・甲巻:巡礼と追い剥ぎの場面  12 - 13世紀 伝鳥羽僧正作

東京国立博物館所蔵品の写真版スキャン画像からのトリミング画像


中央下、ウサギの腰元にネズミが2匹寄り添っています。






分布拡大と棲息環境




 アジアの平原、中国北部とモンゴルに起源し、中世のとある時に世界の他の部分に広まった可能性があります。ヒトといつ片利共生になったのかの疑問は解決されていないままですが、種としては、ヒトの移動に伴い拡散し住む場所を確立し今やヒトが住む殆どの場所で生きる動物です。


 早、1553年にはドブネズミはヨーロッパに存在していた可能性がありますが、これはスイスの博物学者 Conrad Gesner の著書 Historiae animalium (1551-1558 年刊)の挿絵と記述から得られた結論です。Gesner の記述はクマネズミにも当てはまるものですが、ドブネズミの野生個体群には観察されなくもないアルビノのネズミに関する記述に大きな比重を置いていることが、この結論に信憑性を加えます。18世紀に至る信頼できる報告書では、1722年にアイルランドで、イングランドでは1722年に、フランスでは1735年、ドイツでは1750年、スペインでは1800年にドブネズミが存在したことを記録していますが、産業革命の間に広範囲に拡散した訳です。北米に到達したのは、1750-1755 になってからでした。


 江戸中期の1712年に大坂の医者寺島良安が出版した和漢三才図会(わかんさんさいずえ)の巻第三十九鼠類に、肝臓が7葉に分離し小葉の間に大豆大の真っ白の胆嚢があるが貼り付いていて下垂しない旨の記述があり、これは独立した臓器としての胆嚢を欠くドブネズミのものと取れる記述があります。1712年以前には本邦には確実にドブネズミが到来していたことは間違いがなさそうです。外見等のみからだけではなく、内部形態を観察して科学的記述を行っている点で、欧州より日本の方が進んでいたようですが、英語版、日本語版 wikipedia の著者はこれを知らない模様です。これに先立つ 600年前の12世紀の鳥羽僧正作と伝えられる鳥獣人物戯画には甲巻の第16紙前後に、ウサギに立位で寄り添うネズミが2匹描かれているのですが、家ネズミではありそうなものの、ドブネズミとは確定できません。ハツカネズミやクマネズミの可能性もありますね。中国本土での都市部や港湾への侵入拡散がいつの頃だったのか残念ながら院長は情報を持って居ませんが、日中間の朝貢や大陸との貿易を通じて早期に日本に入っていた可能性はありそうです。

 アジアから拡散するにつれ、ヒトの生息環境ではクマネズミに取って代わることが普通に起きました。より大きくより攻撃的であることに加え、藁葺きで木材建築の建物からレンガとタイルの建物への変化が登攀性のクマネズミより穴掘り性のドブネズミに好都合に作用した訳です。更に、ドブネズミは食性もより広く烈しい気象変動にもより強い耐性を持っていたからです。ヒトの居ないところでは川の土手のような湿った環境をより好みます。とは言うものの、大多数のドブネズミは現在ではヒトが作り出した環境−例えば下水システム−に関わって生活しています。


 確かに都会ではビルの店子に入る飲食店等の下水の地下通路を通じての移動拡散とネットワーク構築はドブネズミには都合が良さそうですが、木造住宅の建ち並ぶ日本の住宅街では天井裏などの高所にまだまだクマネズミが勢力を保っている様に感じます。ネコがネズミを追いかける有名な米国製のカートゥーン(トムとジェリー、但しジェリーはハツカネズミですね)が有りますが、確かにネズミは壁に掘り進んだ穴に棲息していますし、そこにチーズを引っ張りこんだりもします。







Blackbird (Turdus merula) and Rat (Rattus rattus)

Ship rat eating a blackbird's egg.

Taken on October 3, 2005  Nga Manu Images NZ

https://live.staticflickr.com/5564/30356281753_b0d0ee82a8_k.jpg

https://www.flickr.com/photos/129662450@N02/30356281753/

https://creativecommons.org/licenses/by-nc/2.0/


クロウタドリの卵を食べるクマネズミ。地上性哺乳類の居なかったニュージーランドに

人為を通じて侵入したネズミなどが(特に飛べない)鳥を絶滅に追いやっています。

もっとも、このクロウタドリ自体が人為的に持ち込まれた鳥だと言われています。






 街中にはヒトと同じ数のドブネズミが居るとしばしば言われますが、気候、生活環境その他でこの数は変動します。


 街中のドブネズミは広範囲にうろつき回る事は無く、もし食物が集約的に入手可能あれば自分の巣からは20m以内に留まることがしばしば見られます。食物入手性の低いところでは行動範囲はより広くなります。食料貯蔵庫、狩り場のごく近くにドブネズミが居を構えていると言う訳ですね。


 生息域がどの程度の広さを持つのかを決定するのは難しく、なぜなら縄張りの領域全体を利用することはなく、寧ろ、1つの場所から別の場所に移動する際には決まり切った通路を利用するからです。ニューヨークに何頭棲息するのかについては烈しい議論がありますが、少なくとも25万頭と見積もられています。専門家は、老朽化したインフラと高い貧困率ゆえに、ドブネズミにはニューヨークは特別に魅力的な場所だろうと示唆しています。下水道に加え、路地や住居には豊富且つ継続的な食料源があるのでドブネズミには快適な生活が送れるのです。


 英国ではドブネズミの人口が増大して8100万頭と見積もられるとされていますが、これは国民1人当たり1.3頭が棲息する計算になります。英国での数が多いのは、穏やかな気象の所為にされますが、冬期の生存率が高くなるからです。地球の温暖化と氷河の退縮に伴い、ドブネズミの数は増加を見るだろうと見積もられています。


 ドブネズミの棲息しない唯一の世界は南極大陸と孤立した幾つかの島嶼群であるアルバータのカナディアン地方並びにニュージーランドの、と或る保護地区のみです。南極はほぼ完全に氷に覆われており、ドブネズミには棲息不能の場所となっています。船舶で多数の海岸に到達したところで、極度に寒冷な冬期には屋外では生存出来ず、また活動するヒトの密度が極度に低いので、一つの生息場所から他の場所へと旅をすることは困難になります。たまたまドブネズミの侵入が発見され駆除されると、隣接する場所からの再侵入が出来ない訳です。孤立した島嶼もドブネズミの集団は駆除可能ですが、これは同じくヒト集団の低密度さと他のドブネズミの集団からの地理的距離の為です。


 ニュージーランドには元々は哺乳動物としてはコウモリが2種類棲息するのみで、脊椎動物としては地上には爬虫類と両棲類のみが棲息していました。有袋類もいませんでした。爬虫類の中のムカシトカゲ (ムカシトカゲ目 Sphenodontia)が唯一現存する地域でもありますが、トカゲに外見の似たこの爬虫類 (いわゆるトカゲの属する有隣目とは系統的に少し離れる)には頭のてっぺんに第3の目が明瞭に観察されることで有名です。目とは言ってもヒトにも存在する松果体が上方に発達して光感受性能を増大させたものと考えて良いと思います (ペットのトカゲを見ると頭の天頂に1箇所他とは違ったウロコが有りますがそこが第3の小さな目に相当します)が、ちょっと変わった爬虫類です。ちなみに相当以前の話ですが、院長が研究用途としてこのムカシトカゲを入手出来ないものかと知り合いの動物輸入商に相談したところ、現地でマオリ族を雇い、夜陰に乗じて小舟で棲息する島に上陸し捕獲すれば手に入ると言われました。1頭 100万円で成田まで請け負うとの事でしたが、どうも保護された個体を密猟して日本に持ち込むらしいと途中で判り、そりゃさすがにマズいだろうと話を中断したことがありました。− この様に他の地域や島嶼では絶滅した特殊な生き物が生き残っているのがニュージーランドですが、人間が持ち込んだネズミ、フクロネコ、イヌなどが、特に飛ぶのを止めてしまった鳥たちやその卵を格好の餌として狙い、絶滅させ、或いは絶滅に追いやっています。この状況に関しては、以下を是非お読み下さい。飛べない鳥に関しては後日纏めて本コラムにてお送りする予定です。


Predation of native birds

https://www.sciencelearn.org.nz/resources/1159-predation-of-native-birds









https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Location_Antarctica.svg

[[File:Location Antarctica.svg|Location Antarctica]]

This file is licensed under the Creative Commons Attribution-Share Alike 3.0 Unported license.


ドブネズミの棲息しない唯一の土地、南極。現在はどこの国家にも属さない土地ですが、

環境変動、地磁気逆転?などで他の土地が人間の棲息に不適となり逆に南極が住みやすくなる

可能性もあるでしょう。


この図の右上にマダガスカル島が、右下にオーストラリア、下方にニュージーランドが見えますが、

いずれも独特の動物相(おのおの原猿、有袋類、飛べない鳥とムカシトカゲ)を温存する地域です。

他の大陸からは早めに切り離され、原始的な生き物或いは特殊化した生き物が、より進化した動

物と競合せずに生き延びられた土地と言う訳ですね。


まぁ、飼育しているペットが可愛い、愛おしいとの気持だけではなく、哺乳動物の進化、拡散にも

想いを馳せて戴ければと思います。それが命とは何かへの理解に繋り、生命を一層尊重する

気持にも繋がる筈です。






次回から ドブネズミの生物学的な特徴の話に入ります。