ネズミの話22 ネズミと病気 ハンタウイルス感染症X |
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2020年6月25日 皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 ドブネズミを含めた齧歯類感染症のお話の第5回目です。この先数回に亘り、ハンタウイルス感染症の内の肺炎について扱います。現在、世間を騒がせているコロナウイルスの問題を考える際に、読者の方々に何らかのヒントとなるのではと思います。 以下、本コラム作成の為の参考サイト:https://ja.wikipedia.org/wiki/ネズミhttps://en.wikipedia.org/wiki/Dipodidaeドブネズミhttps://en.wikipedia.org/wiki/Brown_rathttps://ja.wikipedia.org/wiki/ハンタウイルスハンタウイルス肺症候群https://ja.wikipedia.org/wiki/ハンタウイルス肺症候群https://en.wikipedia.org/wiki/Hantavirus_pulmonary_syndromeバイオテロ対応ホームページ 厚生労働省研究班https://h-crisis.niph.go.jp/bt/other/28detail/Mayo ClinicHantavirus pulmonary syndromehttps://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/hantavirus-pulmonary-syndrome/symptoms-causes/syc-20351838https://ja.wikipedia.org/wiki/黄熱https://ja.wikipedia.org/wiki/野口英世https://ja.wikipedia.org/wiki/アウトブレイクhttps://ja.wikipedia.org/wiki/フォー・コーナーズ_(アメリカ合衆国)https://en.wikipedia.org/wiki/Four_CornersCDChttps://ja.wikipedia.org/wiki/アメリカ疾病予防管理センター |
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ハンタウイルス肺症候群(hantavirus pulmonary syndrome HPS)ハンタウイルスで腎症候性出血熱を引き起こす型のものが、ネズミの主に尿で汚染された粉塵を吸い込み感染することから、ハンタウイルスは肺胞を構成する細胞にもともと親和性を有する事が理解出来ます。肺炎を起こす型は、そのまま強く肺胞或いは周囲組織の細胞に吸着し破壊を進めて肺炎を起こすと考えれば宜しいでしょう。酸素交換の場である肺胞の構造そのものを破壊する、或いは肺胞や毛細血管の壁の透過性を亢進させ肺胞内を水浸しにしてガス交換を妨げるなどが考えられるでしょう。勿論、これは呼吸筋自体の障害或いは呼吸筋に指令を伝達する神経原性の呼吸障害とは全く像を異にし、臓器としての肺そのものの機能不全を起こすことになります。前にも書きましたが、院長が学生時代にはハンタウイルスに肺炎を惹起する型がある事は知られていませんでした。詰まりはハンタウイルス肺症候群は比較的最近に認知された感染症となります。実際のところ、もともと新大陸にヒトの感染症として存在しており、インディアン native American やインディオに感染を引き起こしていたものの、単に medical community 医学界に知られていなかっただけであることが判明しています。ジャングルの奥地にヒトとは離れて棲息する動物との偏利共生関係にあったウイルスが何らかの切っ掛けでヒト社会に初めて感染を起こしヒト社会に被害をもたらす、所謂新興感染症 emerging diseases では無かったのです。これはネズミの仲間の内にヒトの居住圏と生活圏が被るものが存在することからも理解はできる事でしょう。まぁ、新認知感染症 a newly-perceived disease とでも言えましょうか。ヒトからヒトへの感染が一部の型を除いて見られませんので、この点からも現在のコロナ禍の様な新興感染症とは性格を異にします。以下の2つの、報告並びに論文を主として解説を進めて行きましょう。https://www.cdc.gov/hantavirus/outbreaks/history.htmlTracking a Mystery Disease:The Detailed Story of Hantavirus Pulmonary Syndrome (HPS)(誰でもアクセスできます)Rodent-borne diseases and their risks for public healthBastiaan G Meerburg, Grant R Singleton & Aize KijlstraPages 221-270 | Received 28 Nov 2008, Accepted 22 Apr2009,Published online: 23 Jun 2009Download citation https://doi.org/10.1080/10408410902989837https://www.researchgate.net/publication/26313283_Rodent-borne_diseases_and_their_risks_for_public_health(全文無料で読めます) |
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上に紹介したCDC (Centers for Disease Control and Prevention アメリカ疾病予防管理センター)に拠る報告書に於いて、ウイルス発見の経過が緊迫感を持って語られ、大変面白く読めますので、院長に拠る全訳を3回に分けて掲載しましょう。未知の感染症と見られる疾患が発生を見た時にどの様に対処すべきを学ぶに当たり、非常に有益な教訓と成り得ると感じます。新たな感染症が発生した時に備え、病原体の特定に至るまでの専門家集団をチームとして抱えて置き(米国CDCの類似組織を本邦にも立ち上げる)、またその様な仕事を高く評価し、大きな業績と認定する社会が成立すると望ましいと院長は考えます。まぁ、病原体の探索はラボに於けるハンティングにも似て、当事者自身もハッスル出来るのではと思います。面白い仕事であることに加え、成功の暁には名誉と地位が得られるでしょう。但し、運悪く感染し死亡すれば、黄熱病に遣られた野口英世と同じ運命を辿ることになります。スリルもあって一段と愉快に感じる方もひょっとして居られるやもしれませんが。Tracking a Mystery Disease:The Detailed Story of Hantavirus PulmonarySyndrome (HPS)謎のウイルスを追い求める:ハンタウイルス肺症候群(HPS)発見の詳細なストーリーhttps://www.cdc.gov/hantavirus/outbreaks/history.htmlThe “First” Outbreak<最初の>集団発生1993年の 5月に、フォー・コーナーズ The Four Corners として知られるアリゾナ、ニューメキシコ、コロラド及びユタ州に跨がる米国の南東地域で正体不明の肺疾患が突如発生した。若く、肉体的にも鍛え上げたナバホ族の男性がニューメキシコの病院に駆け込み、その後すぐに死亡したのである。医療関係者が症例を再調査したところ、その若者の婚約者が極めてよく似た症状を示した後、2,3日前に死亡していたことを知ったが、これはこの疾患を発見する鍵となった情報の一つである。インディアン健康サービス(IHS)のJames Cheek 医師がこう記録している。「もし同じ一週間に続けて発症した、最初のあのペアが居なかったら、この病気に全く気づきもしなかっただろう」。同様の症例を持つ者が他にいないかを調べるために、フォー・コーナーズ全体を束ねた調査がニューメキシコ州の医学調査所 (OMI) にて開始された。すると僅か 2,3時間の内に、 IHS の Bruce Tempest 医師に拠り、5名の若く健康な患者が急性呼吸器不全症発症の後に全員が死亡していたことが突き止められた。実験室での一連の検査結果、既知の疾病を起こす死亡例、例えば腺ペスト、には合致しなかった。この時点で CDC の特殊病原支部に連絡が為された。CDC、ニューメキシコ、コロラド、ユタ州の各保健部局、、インディアン健康サービス、ナバホ族自治政府、ニューメキシコ大学、これら全てが発生に立ち向かうために集結した。続く数週の間、フォー・コーナーズでこの疾病が追加報告され、内科医と他の専門科学者が可能性のある原因を狭めるべく鋭意働いた。症状並びに臨床上の新たな発見を元に、研究者達は除草剤への暴露や新型インフルエンザなどの可能性から研究対象を外し新たなウイルスの探索へと舵を切った。感染患者から採取した組織試料が CDC に送られ、徹底的な分析が加えられた。CDC のウイルス学者は数通りの検査法を採用したが、これにはウイルス遺伝子を分子レベルで特定する為の新たな方法が含まれていた。そしてこの肺症候群を従来知られていなかったタイプのハンタウイルスに結びつけることに成功したのである。(つづく)*元気だった若者が劇症型肺炎で立て続けに死亡しているとは、どう考えても尋常なことではありませんね。 |
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