ネズミの話26 ネズミと病気 Q熱 |
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2020年7月15日 皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 ドブネズミを含めた齧歯類感染症のお話の第9回目です。長らくハンタウイルス感染症のお話が続きましたが、今回はラットが重要な感染源の1つとなる Q熱 のお話です。 以下、本コラム作成の為の参考サイト:ドブネズミhttps://en.wikipedia.org/wiki/Brown_ratQ熱バイオテロ対応ホームページ 厚生労働省研究班https://h-crisis.niph.go.jp/bt/disease/15summary/15detail/https://ja.wikipedia.org/wiki/Q熱日本細菌学会コクシエラ・バーネッティイ(Coxiella burnetii)http://jsbac.org/youkoso/coxiella.html→ラテン語読みすべき学名を英語訛りでバーネッティイと発音しているのは適当では無いと思いますが、発見者の米国人Burnet博士に敬意を表しての発音でしょうね。しかし混乱を招くでしょう。Q feverhttps://en.wikipedia.org/wiki/Q_feverhttps://ja.wikipedia.org/wiki/偏性細胞内寄生体 |
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Q熱 (Q Fever) 一般の方でこの感染症をご存知の方はとても少ないのではと思います。名前からして不審の念を抱かせる命名ですが、実は名前の Q は query クゥィリー 疑問、不審、原因不明の頭文字から取られたものです。因みに院長の世代では Qと言えばオバ Qかウルトラ Qか、はたまた、原人ビビの動物ものの漫画家石川球太(院長は大きな影響を受けましたがここでは無関係ですね)と言うところです・・・。因みに謎や未知のものに対してはアルファベットの Xを取り敢えず附けて扱う例もあり、謎の線源 X線の名はそれですが、X fever なる感染症はありません。 本症はウシ、ヒツジ、ヤギを飼育する牧場従事者、食肉処理業者、また獣医などが罹患する可能性がある稀な感染症ですが、英国に於いては、ラットはこの感染症を起こす偏性細胞内寄生細菌 (細胞内でのみ増殖可能) Coxiella burnetii コクシエッラ ブルネッティイの重要な感染源 (reservoir 保菌者)となっています。野生群のラット集団ではこの細菌に対する血清有病率が最大 53%に達するものがあることが判明しています。尤も、ラット以外にも多くの野生動物や鳥、ペット等が菌を持って居ます。 感染動物の胎盤に菌が高濃度に増殖する特徴が有り、反芻動物(ウシ、ヒツジ、ヤギ)やネコの出産、流産時に汚染された胎盤、排出物からの病原体を含むエアロゾルを吸入してヒトに感染します。出産に立ち会う産業動物獣医師は危ない訳です。家畜などに甘噛みされたりして感染もしますが、生乳からの経口感染も成立します。 |
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発症までの潜伏期間が変異に富み非常に長い場合もあります。心内膜炎、肺炎、肝炎に起因するあらゆる症状を示し得ることから、またいつ感染したのかその時期も不明で、なんだこりゃ良く判らんとの意味でQ熱と命名された訳ですね。感染者の6割程度は特に症状もなく感染が終了します。発症者(急性Q熱)は肺炎型、肝炎型、不明熱型の3通りに大まかには分類されますが、この感染症固有の症状の決め手に欠きます。それゆえ原因がなかなか分からず右往左往することにもなります。まず烈しい感冒様の症状に見舞われますが各種症状含め14日以内に回復します。発症者の2〜10%程度の者が心内膜炎を起こし、また post Q fever fatigue syndrome Q熱感染後疲労症候群にも繋がります(慢性Q熱)が、難治性であり大変厄介です。癌治療中の者、臓器移植後の免疫抑制剤投与者、内臓の基礎疾患を抱える者が慢性Q熱に移行し易いと言われています。菌体1個で感染が成立するとされ、詰まりは感染力自体は非常に強力です。 培養しての菌体の確認、菌体遺伝子の検出、或いは血清抗体価から確定診断を得、テトラサイクリン系の抗菌薬を投与して治療します。幸い本邦での発症例数は年間数例〜40例程度と大変稀な感染症となっています。感染症に対する知識の豊富な、勘所の良い臨床医に掛かり、早めに確定診断を受けて抗菌剤投与に入ることが肝要ですが、畜産業の盛んな地域にては平素から獣医師と医師とが連携を取ると良いですね。 文字通りの、Q熱=なんだこりゃ病、ですが、そうとは言わずに特に畜産、牧場関係者は知っておくべき感染症です。ペット飼育者もペットとの濃厚接触は避け、ヒトと動物は基本違う生き物であるとわきまえて適度に接触することが大切ですが、これは実は互いの生命に対する尊敬の念の発露に他なりません。 |
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