腺ペスト 黒死病と社会 虐殺・英語への影響 |
||
2020年9月10日 皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 ドブネズミを含めた齧歯類感染症のお話の第16回目です。ネズミとの関連では中世に爆発的流行をもたらした黒死病 Black Death について触れない訳には行きません。人類史に、また生物としてのヒトに与えた影響は甚大なものがありました。新型コロナウイルスも汎世界的な流行を見た点で pandemic ですが、解説を通じ、黒死病との類似点、相違点を考える為のヒントをお掴み戴ければ幸いです。その第11回目です。 黒死病が当時の社会に与えた影響を引き続き重点的に見ていきます。 以下、本コラム作成の為の参考サイト:https://ja.wikipedia.org/wiki/腺ペストhttps://en.wikipedia.org/wiki/Bubonic_plaguehttps://www.etymonline.com/word/bubonichttps://ja.wikipedia.org/wiki/ペストhttps://en.wikipedia.org/wiki/Plague_(disease)https://en.wikipedia.org/wiki/Epidemiology_of_plaguehttps://ja.wikipedia.org/wiki/ユダヤ人黒死病下のユダヤ人迫害https://en.wikipedia.org/wiki/Persecution_of_Jews_during_the_Black_DeathMedicine and art; the black death in EuropeAnne van Casteren Gepubliceerd op: jan 23, 2020https://panacea.nl/panessay/artikel/2020-01-23-medicine-and-art-the-black-death-in-europe「感染症と人間の物語」614世紀黒死病パンデミックと人間(2)ユダヤ人虐殺(ポグロム)https://julius-caesar1958.amebaownd.com/posts/8271221/https://ja.wikipedia.org/wiki/ヴェニスの商人https://en.wikipedia.org/wiki/The_Merchant_of_Venice |
||
*黒死病流行時の迫害とは、ユダヤ人に対する迫害を意味します。平時に於いてもキリストを殺したなどとの言いがかりで迫害を受けてきましたが、14世紀の科学の発達していない時代に於いては、黒死病流行の原因探索がスケープゴートとしてのユダヤ人に向かい、彼らが井戸に毒を投げ込んだのが原因ともされました。1348年にフランスのツーロンで、次いで1349年のスペインのバルセロナで起きた虐殺と居住区破壊を引き金にヨーロッパ中で黒死病関連のヤダヤ人迫害が起きました。聖バレンタインのストラスブルグ大虐殺(1349年2月14日)では、まだペストが街に拡大していない中、2000人のユダヤ人が生きたまま焼き殺されました。 *どうしてユダヤ人が<犯人>だと思われたかについてですが、彼らはゲットーに隔離されて生活し、また宗教的戒律から食事前には手を洗う、週に1度は入浴する、埋葬前に死体を洗うなどの習慣があり、清潔ゆえペストに罹患する例が少なかったことが挙げられます。他の者達は、それであいつらは何か噛んでいるに違いないと邪推したのでしょう。 以下 https://ja.wikipedia.org/wiki/ユダヤ人 から一部引用: 「レコンキスタ・十字軍時代に、ヨーロッパのキリスト教社会では、「キリスト殺し」の罪を背負うとされていたユダヤ人はムスリムとともに常に迫害された。封建制度に内属していなかった彼らはヨーロッパの多くの国で土地所有を禁じられて農業の道を断たれ、商工業ギルドに加入することができなかったため、職工の道も閉ざされ、店舗を構える商売や国際商取引も制限されていた。 しばしば追放処分を受け、住居も安定しないユダヤ人がつける仕事は事実上消費者金融や無店舗の行商、芸能以外には存在しなかった。 11世紀末頃にはすでにユダヤ人は「高利貸し」の代名詞になっていた。被差別民でありながら裕福になったユダヤ人は妬まれ、ユダヤ人迫害はますます強まっていった。 14世紀のペスト大流行のころから弾圧として、ヨーロッパ中で隔離政策が取られるようになっていき、市街地中心から離れた場所に設けられたゲットーと呼ばれる居住区に強制隔離されることが一般化した。 」 とあります。 16世紀に執筆された、ウィリアム・シェイクスピアの喜劇、戯曲である『ベニスの商人』にも、狡猾な高利貸しとしてのユダヤ人シャイロックが登場しますが、この時代以前から、金融業でメシを喰っていて、まともな生産活動に従事していない許しがたい者との、ステグマ(烙印)がユダヤ人には押されていたのでしょう。アガサ・クリスティの推理物を読んでも、ロンドンでのユダヤ人の声帯模写芸人が登場する場面もあり(敢えて作品名は伏せます)、欧米に於ける根強いユダヤ人差別を垣間見る事が出来ます。 *黒死病が終息する1350年を迎えるとユダヤ人対する黒死病関連の迫害自体は止みましたが、小規模な迫害は連綿と続く事になります。 |
||
*1400年以降、英語の表記と発音の乖離が急速に進み、これは Great Vowel Shift 大母音推移 GVS と呼称され、英語にやや深い関心を抱く者には誰にでも知られている事象なのですが、これが起きた理由の1つとして、黒死病でロンドン人口が大きく減り、そこに北部からの者が大量に流入し、綴りに合致しない音をもたらしたのだ、とする説が唱えられています。まぁ、文字による音声の対比統制(正書法と言う)の出来ていない田舎訛りの者達が流入し、文字と発音が大きくズレる珍妙な言語が誕生したとの説明です。それなら新たな音と合わせて綴りを変えれば合理的ですが、既に活版印刷が普及しており、今更綴りを変更できるかとなり、元の綴りに新たな音を組み合わせて記憶することにした訳です。GVS に関して詳しくは、院長が別個に開いております英語塾コラム 2019年10月10日 『英語の綴りと発音の乖離』 https://www.kensvetblog.net/column/201910/20191010/ をご参照下さい。 *この様に、当時の、そして現在の文化に至る、黒死病の影響を考究すれば、幾らでも論文が執筆出来そうです。 |
||