カピバラB カピバラの仲間 |
||
2020年10月20日 皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 前回に引き続き、「巨大ネズミ」カピバラに関するトピックスを採り上げますが、ぼちぼち真面目に?動物学の本題に入りましょうか。 以下、本コラム作成の為の参考サイト:https://en.wikipedia.org/wiki/Caviidaehttps://ja.wikipedia.org/wiki/テンジクネズミ科https://ja.wikipedia.org/wiki/カピバラhttps://en.wikipedia.org/wiki/Capybarahttps://en.wikipedia.org/wiki/Hydrochoerushttps://en.wikipedia.org/wiki/Lesser_capybaraChapter 1 Taxonomy, Natural History and Distribution of the CapybaraJ R Moreira, et al. In book: Capybara: Biology, Use and Conservation of an Exceptional Neotropical SpeciesEmilio Herrera and Guillermo R. BarretoDOI: 10.1007/978-1-4614-4000-0_18https://www.researchgate.net/publication/278702844_Capybara(pdf が無料で入手出来ます)https://en.wikipedia.org/wiki/Karyotype#Fundamental_numberhttps://ja.wikipedia.org/wiki/アンデス山脈https://en.wikipedia.org/wiki/Andeshttps://ja.wikipedia.org/wiki/カバhttps://en.wikipedia.org/wiki/Hippopotamushttps://ja.wikipedia.org/wiki/コビトカバコモhttps://en.wikipedia.org/wiki/Rock_cavy |
||
カピバラ Capybara Hydrochoerus hydrochaerisカピバラ と レッサーカピバラ カピバラは1つの見解としては齧歯目テンジクネズミ科 Hydrochoerus 属に属しますが、各研究者に拠る分類の違いは兎も角も、齧歯類の中で最大の種になります。齧歯類と言うと、一般的には小型でちょろちょろ動く動物とのイメージですがそれとは全く異なりますね。哺乳類の各目 (もく) の中で巨大化した、現生の或いは絶滅した動物種が出現した例は少なくは有りませんが、その内それらを纏めてコラム化したいと考えて居ます。その中でけして巨大化し得ない動物群が存在しますが何か判りますか?−答えは翼手目、コウモリの仲間ですが、大型化すると羽ばたき飛行は困難になり、必然的に地上歩行化或いは滑空型ロコモーションの動物に移行せざるを得ません。以前、沖縄こどもの国動物園を訪問した折りに、多数頭飼育されているオオコウモリが時々地面に這いつくばって歩行する姿を撮影したことがありますが、こんなことをしていると野生下ではすぐに敵に捕食されてしまうでしょう。尤も、この先、地上性のコウモリの化石が発掘されるかも知れず・・・。 因みに、ダチョウやキウイ、ヨウム、ドウドウなどの様に地上歩行性化した、或いはペンギンのように水中遊泳に特化した類いの鳥類は、基本的に全て敵の居ない孤立的環境下で初めて進化し得た鳥類になります。飛べなくなった鳥類については後日コラム化したいと考えて居ます。 属名 Hydrochoerus はギリシア語の hydor, water + choiros, pig ですが、水豚、水豚属と言う次第です。その名の通りに半水棲で、湖、川、沼地や時々洪水に洗われる草原地帯に姿を現します。体重は65kgに達し、妊娠期間は 130〜150日に及び、産仔数は 2〜8頭ですが、通常は 4頭を産みます。家ネズミなどのいわゆるネズミの妊娠期間が 3週間程度であることを考えると、だいぶ長期化していますが、細胞の分裂速度には限界が有り、大器ハ晩成ス、ではありませんが、基本的にボディサイズの大きな子供を産む動物ほど妊娠期間は長くなる訳です。それゆえカピバラは鼠算式に短期間に増える訳でもありません。 Hydrochoerus 属は現生種としては本種カピバラの他、レッサーカピバラ Hydrochoerus isthmius の2種から構成されます。カピバラのアダルトが最低でも 35kgを超えるのに対し、レッサー(より小さい、の意味)の方はその名の通りで最大でも 28kgを超えません。まぁ、仮に同じペットにするとすれば、レッサーの方がまだ良さそうです。レッサーカピバラは、南米大陸の北端の狭い領域並びにそれに繋がる中央アメリカ(パナマに多い)に分布し1912年に発見されたのですが、一時はカピバラの亜種として扱われました。現在、狩猟や運河造成などで棲息が脅かされています。前回、コロンビアの市場でカピバラを食する米国人の話を採り上げましたが、ひょっとするとレッサーの方を食べていたのかもしれませんね。1980年代に入り、形態並びに遺伝的特徴から別種として扱われ始めますが、亜種に過ぎないと主張する研究者も存在する様です。 しかし、レッサーの核型(カリオタイプ、その生物の持つ染色体の1セットのこと)は 2n = 64、 染色体腕数 (fundamental number, FN ) FN = 104 に対し、カピバラでは 2n = 66、FN = 102 ですので別種として良い様に思います。と言いますか染色体数が異なるので交雑しても基本的に子孫は出来ませんね。因みに FN とは1セットの染色体の持つ腕の総数で、ヒトのY染色体の様なものが存在するとその数が減ることになります。 カピバラ vs. レッサーカピバラの関係は、カバ vs. コビトカバの関係を連想もさせます。因みにカバの属名は Hippopotamus ですがこちらはウマ+川の意味です。potamus の用例は例えば、メソポタミア Mesopotamia の、meso 中間の + potamia 川、詰まりはチグリス川とユーフラテス川に挟まれた中間の土地との意味です。 |
||
これらカピバラとレッサーカピバラ 2種の生息域は重なりません。アンデス山脈なる自然の隔壁で分けられています。アンデス山脈の最高峰はアコンカグア(6960m)で、6000mを越える高峰が20座以上聳えていますが、この地形的隔壁により、山脈の壁の北側及び西側の弱小種が守られ存続したと考えられる例もそこそこあります。これに関しては、例えば院長コラム 2019年9月5日 『キツネの話B 南米のキツネU』 https://www.kensvettokyo.net/column/201909/20190905/ をご参照ください。カピバラとレッサーカピバラとは共通祖先が基本的に地理的隔離で種分化したと考えれば良かろうと思います。 例えばカピバラとレッサーカピバラなどの異なる動物種の生息域の違いがなぜ起きたのかの理由を考える時に、単なる平面的な地図ではなく、立体的な地形を元に考えると理解が進む場合があります。そのような地形図に、気温、日射、植生、水資源の状況を重ね、更には食物連鎖や習性、行動特性のことも併せると、動物の生き生きとした生態のイメージが得られると思います。これは何も哺乳動物に限定されず、他の生き物全てについて当てはめることが出来ますし、この考え方を使う事で生き物に対する理解−その来し方、即ち進化の有りようまでも−が格段に深まるだろうと思います。院長の専門は筋骨格系の形態を元にした霊長類の運動進化を探ることに有りますが、<木を見て森を見ない>ことの無きよう、常に自分を戒めています。専門性を手放す必要は有りませんが、常に、生き物を取り巻く総体を専門分野にフィードバックして、考察の風通しと深化を図る手法ですね。 |
||
今や水無しでは苦手な生き物であるカピバラとレッサーカピバラですが、水好きの共通祖先が造山運動由来の地理的隔離で隔絶され、<大小の水豚>におのおの進化したとの進化シナリオも描けますが、共通祖先は山岳性の動物であって、それがアンデス山脈の2つのサイドに下lり、おのおの大小の水豚 (もはや山を越えられない!)に進化、分岐したとのシナリオを描くことも出来ます。 実際、カピバラに最も近縁であると判明した動物仲間に コモ Rock cavy Kerodon rupestris なる動物が存在し、現在ブラジル東部に棲息しています。草の混じる乾燥した岩石地帯を好み、<プール無し>でも遣っていけます。体重は最大で 1kg 程度になります。尻尾はカピバラ同様に短く痕跡的なのですが、これを考えるとカピバラが水中生活性を高める進化過程で<邪魔な>尻尾を消失したのではなく、元々無かった訳ですね。山岳性(山岳穴居性)への強い適応圧で尻尾を失ってしまっていたとも考える事が出来そうです。耳介も小さく、モンゴル平原の掘削穴居性齧歯類であるマーモットにも類似します。耳に関しても水中生活性への適応で耳介が縮小したのではなく、おそらくは元々の穴居性への適応だった可能性が考えられますね。まぁ、穴に潜るのも水に潜るのも抵抗性や引掛かりを減らす為に類似した適応形態を持つとも言えそうです。以前のコラムで水中生活性に進化したモグラの仲間であるデスマンに触れましたが、土に潜るのも水に潜るのもおんなじだぁ!とのことかもしれません。コモは系統が遠く離れるものの生活形態が類似するアフリカハイラックスに類似するとの指摘もあります。 |
||