カピバラC 骨格形態 |
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2020年10月25日 皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 前回に引き続き、「巨大ネズミ」 カピバラに関するトピックスを採り上げます。 以下、本コラム作成の為の参考サイト:https://en.wikipedia.org/wiki/Caviidaehttps://ja.wikipedia.org/wiki/テンジクネズミ科https://ja.wikipedia.org/wiki/カピバラhttps://en.wikipedia.org/wiki/Capybarahttps://en.wikipedia.org/wiki/Hydrochoerushttps://en.wikipedia.org/wiki/Lesser_capybaraChapter 1 Taxonomy, Natural History and Distribution of the CapybaraJ R Moreira, et al.https://www.researchgate.net/publication/278702844_Capybara(pdf が無料で入手出来ます)『レントゲン並びに3D CTを用いたカピバラ頭蓋骨の解剖』https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/ahe.12531Anatomy of the skull in the capybara (Hydrochoerus hydrochaeris) using radiography and 3D computed tomographyF. Pereira, et al., First published: 25 January 2020Anatomia Histologia Embryologia, Volume49, Issue3, May2020, Pages 317-324https://doi.org/10.1111/ahe.12531(抄録のみ無料)https://www.imaios.com/jp/vet-Anatomy |
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カピバラの骨格形態 骨格形態ですが、ラットのものを骨太にし、尻尾を短縮した様な姿形です。第二頸椎(軸椎、じくつい)の背側方に突出する三日月型の突起(棘突起)が目に付きますが、これは、この突起と胸椎(肋骨を従える脊椎骨を胸椎と定義します)の棘突起とを項靭帯(こうじんたい)が連結し、重い頭部をコラーゲンの弾力ある帯で支える仕掛けになります。尾椎の長さは全脊椎骨長の1/5程度ですが、頭側方半分程度には背側に棘突起が発達し、この左右に強大な筋肉が付着することを示しています。詰まりは普段下垂している短い尻尾を強力に背側に反らすことが可能な訳です。前肢の手指は4本、後肢の足指は3本で、手首や踵(かかと)を地面から浮かして歩行します。指の間には軽度の水かきが観察されます。 頭部から後ろ (post-cranial)の骨格形態は、哺乳動物としての基本形から大きく外れる事の無いものですが、頭蓋骨に関しては、齧歯類固有の特徴を保持しています。歯牙は、生涯に亘り伸び続ける上下各2本ずつの切歯、その後ろの犬歯があるべきはずの空隙、その後ろに続く臼歯列、から構成され、歯式 dental formula は 1.0.1.3/1.0.1.3 で合計20本です。顎関節の構造から、カピバラは植物を臼歯ですり潰すときには下顎を前後に動かして行い、ラクダのように下顎を左右に動かして咀嚼する事は行いません。側方から観察すると、ラットなどとは異なり、全体として長方形を示します。後頭骨の脊髄が出る孔(大後頭孔)の左右に顆傍突起(かぼうとっき)と呼ばれる下方に伸びる突起が著しく発達しているのが特徴的です。これは近縁なヌートリア Coypu Myocastor coypus にも観察されます。顆傍突起はモルモットにも存在しますが、サイズはだいぶ小さくなります。 |
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カピバラの頭蓋骨形状に関しては以下の論文が最近発表されましたので苦言も交えつつご紹介しましょう。とは言うものの、無料で手に入るのは抄録と付図のみになります。 『レントゲン並びに3D CTを用いたカピバラ頭蓋骨の解剖』https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/ahe.12531Anatomy of the skull in the capybara (Hydrochoerus hydrochaeris) using radiography and 3D computed tomographyF. Pereira, et al., First published: 25 January 2020Anatomia Histologia Embryologia, Volume49, Issue3, May2020, Pages 317-324https://doi.org/10.1111/ahe.12531AbstractThe capybaras (Hydrochoerus hydrochaeris) are the largest rodent found throughout South America and are present in almost all the Brazilian territory, however, still lack basic descriptions about the species, such as about their cranial anatomy. This study was carried out to investigate the anatomical features in the capybara skull. Eight skulls and two heads, without sexual distinction, were used for the osteological, radiographic and tomographic identification of their structures. The skull of the capybara could be divided into a neurocranium and aviscerocranium. The capybara had a more robust and rectangular skull, elongated face caudally, thinned in the nasal region and slightly convex inthe parietal region. The zygomatic arch was expanded and wide, the orbit had a circular shape, the infraorbital foramen was well developed,external acoustic meatus and tympanic bulla were relatively small, and the paracondylar process was large. These anatomical characteristicsare compatible with the eating habit and semi‐aquatic life of capybaras, which can be compared with characteristics reported for animals ofsimilar habits. The radiographic image allowed to identify structures such as the frontal sinus, whereas 3D tomographic reconstruction wasessential to have a spatial view of the skull of the capybara.抄録カピバラは南米大陸を通じて観察される最大の齧歯類であり、ブラジルのほぼ全土に棲息する。しかしながら、本種については例えば頭蓋形態と言った、基礎的な記述が依然として欠けている。本研究はカピバラ頭蓋骨の解剖学的特徴を調べるべく遂行された。性別判定を欠く8個の頭蓋骨並びに頭部を用い、レントゲン画像と断層画像からそれらの骨学的な構造同定が行われた。カピバラの頭蓋骨は神経頭蓋と内臓頭蓋に区別し得た。カピバラ頭蓋骨はより頑丈で長方形を呈し、顔面部は尾方に伸張し鼻領域は骨質が薄く、頭頂部は軽度に凸状を示した。頬骨弓は拡張して幅が広い。眼窩は円形で眼窩下孔は良好に発達し、外耳孔及び鼓室胞は相対的に小さいが、顆傍突起は大きかった。これらの解剖学的特徴は、カピバラの食性並びに半水棲に対応しているが、同様の習性を持つ動物に報告されている特徴に比較検討され得る。レントゲン像に拠り例えば前頭洞と言った構造を同定することは可能だが、一方、3D 断層像を元にしての復元像はカピバラ頭蓋骨の立体像を得るのに必須である。(院長訳) |
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若手の院生などが執筆したペーパーかと思いますが、要は、CTスキャンしてみました、との業務報告の域を出ないものと感じます。院長はこの論文のタイトルと抄録含め全面的に書き直したい衝動に駆られてしまいました。付図も正しい側方 aspect の図が無かったり、コントラストの悪いX線像を載せたりと形態学に対する緊張感に不足するものと率直に感じました。 抄録を目通ししただけの感想に過ぎませんが、特に形態学面で重要な発見や新奇な考察を行い得たものではなく、観察された特徴がカピバラの食性並びに半水棲に関与している可能性があるとの凡庸な、浅い考察に留まります。院長が指導教官であれば、「君、せめて同じ南米大陸に棲息する齧歯類の、カピバラの近縁種のコモ、半水棲のヌートリア、地上性のマーラ、ついでに?モルモットで比較を行うなどして、系統並びに運動性、食性等含めもう少し深い物言いは出来ないかね?」となりそうです。可能ならば顔つきや形態的特徴の類似するモンゴル平原に棲息する掘削性の大型齧歯類マーモットとの比較も行うと面白いでしょうね。特に、冒頭の、「基礎的データが無いので記載してみました」云々の文言を一目見て、もう少し工夫して洒落た表現に出来なかったのかと思わされます。一度に長い論文を執筆する風潮にはありませんので、この様な計画を建てて小出しに論文化、投稿して行く訳です。 解剖学はメスとピンセットがあれば出来るなどと宣う者も見受けられますが、それは利用する道具に過ぎず、全ての学問分野と同様、高度な頭脳が無ければ深い考察には繋がりません。これを勘違いして、第三者が検証しにくい珍奇な動物種を用い、面白い動物を<メスとピンセットで>解剖しましたと、誰もが考えつく程度の月並みで浅い考察もどきを行い、ペーパーをさっと仕上げる者が出現したりもします。院長も過去にその手の投稿論文の審査を担当し辟易したことがあります。論文にとって最重要なキモである考察の分量が極く少なく、どの様な視点から解剖を執り行ったのかの根源的な説得性−これこそが形態学の学問としての神髄−を持たないのです。メスとピンセットで剖出すること、或いはCTスキャンで画像を撮影したところで、それは単なる dissection 切り刻みの類いに過ぎず、morphology 形態<学>ではありません。この様な勘違いな遣り方を続けていると、素人さんやマスコミには受けるかも知れませんが、仲間内では、<こいつ、形態学の土俵に乗り、敵方とがっぷり組んで討論しようとせず、いつも土俵外であれこれ次から次へと切り刻んでいやがる>と軽蔑を買うことに繋がります。 まぁ、いつまで切手収集のような調べ物を右から左に続けるのではなく、考えを深めることが大切です。。 ヒトの医学部などでも一頃解剖学教室など潰してしまえとの嵐が吹き荒れた様に朧に記憶していますが、学問・哲学ではなく、dissection を行うに留まる craftsman 集団と医学部内部で低く評定されたからかもしれません。仲間内から弁護すれば、解剖実習の負担だけでももの凄く、少しは勘弁して遣ってくれとは言いたくはなるのですが。 |
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