カピバラF ヌートリアの泳法との比較 |
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2020年11月10日 皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 前回に引き続き、「巨大ネズミ」 カピバラに関するトピックスを採り上げます。院長の専門分野であるロコモーション絡みの話ですが、カピバラの比較対象としてヌートリアの泳法を採り上げましょう。 以下、本コラム作成の為の参考サイト:https://ja.wikipedia.org/wiki/カピバラhttps://en.wikipedia.org/wiki/Capybarahttps://en.wikipedia.org/wiki/Hydrochoerushttps://en.wikipedia.org/wiki/Lesser_capybarahttps://ja.wikipedia.org/wiki/ヌートリアhttps://en.wikipedia.org/wiki/Coypuhttps://ja.wikipedia.org/wiki/マスクラットhttps://ja.wikipedia.org/wiki/ビーバーhttps://en.wikipedia.org/wiki/Beaver |
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ヌートリア Nutria Myocastor coypus 米国では Nutria とは呼ばずに Coypu (コイペと発音します)と呼ぶ動物です。元々は南米産ですが、毛皮を目的とする養殖のために北米、ヨーロッバ、アジア、アフリカの各地に移入され、その後、毛皮価値の暴落に伴い現地で遺棄され、繁殖した個体が各地の河川に棲息し生態系を破壊し大きな問題になっています。本邦では特定外来生物に指定され駆除の対象とされています。勿論、ペットとして飼育することは出来ません。昔は生態系を守るとの意識無く、例えば養殖の為にウシガエルを移入し、またその餌用としてアメリカザリガニが持ち込まれましたし、院長が子供の頃にはボウフラを食べて呉れる「益魚」の名目でカダヤシ(タップミノウ)なるグッピーの一種が大量に放たれ、在来種のメダカが絶滅に追いやられたところもありました。当時の者達は自分がマズいことをしているとの意識が全く無く、心の底からの善意或いはゼニ勘定からこの種のことを平然と行って来た訳です。この様な外来種の移入には、例えば東大の動物、水産関連の教授が事業の助言を勧めるなど積極的に関与して来たのですが、これらについては、何故外来種が導入されたのかのテーマで、後日シリーズコラム化する予定でいます。 属名 Myocastor は、ギリシア語の myo (rat, mouse) + castor (beaver)の組み合わせで、beaver rat の意味になります。漢字で表記すれば海狸鼠です。確かにネズミとビーバーの合いの子の様な姿形です。新熱帯区(新世界の熱帯)のトゲネズミを含む Echimyidae 科に属しますが、カピバラの属するテンジクネズミ科 (モルモット、マーラ、カピバラ、モコから成る)とは同じく南米同士の齧歯類の仲間関係にありますが、これらとは幾らか離れています。Echimyidae 科は南米系統のネズミ型動物集団の一派と考えて良く、ヌートリアはその中で水中適応性を高めたネズミであると見做して間違いではありません。齧歯類に関してもそうですが、霊長類で言えば新世界ザル、イヌ科で言えば南米キツネの一群など、南米大陸の動物相 fauna は矢張りちょっと面白いところがあると感じます。 尻尾が鞭状で扁平化が見られず、水中での推進力産生或いは舵取りなどに役立っている様には見えません。地上移動時のバランサーとしては機能しそうに見え、只のネズミの尻尾に見えます。後肢の足の一部指間に水かきが見られます。被毛の撥水性能が弱く水から上がるとずぶ濡れです。泳法はカピバラ同様に犬掻き型です。これらから考察すると、相当程度に親水性のネズミではあるものの、水中生活への形態的適応度はまだ高くは無いままに留まっていると言えそうです。 1つのロコモーション進化のあり方として、行動が先に変化し、後になって形態的な適応進化がそれに追いついて行くとの概念を、特に霊長類のロコモーション進化の面で院長は考えて居るのですが、これに立つと、化石種を見てもその動物がどの様なロコモーションを採っていたのか正確には不明となりますし、形態変化は新たなロコモーションを採用するに至ったそもそもの理由を教えては呉れません。まぁ、冷静に考えれば当然とも言えることなのですが、形態的適応は後から着いてきたと言う考えです。 ヌートリアの大方の形態的特徴はこの1例を示すものではないかと考えます。只のネズミ風の動物がしっかり水に親しんでいる訳ですので。尤も、ヌートリア類似の動物の化石を見た者が、現生のヌートリアの形態機能をちゃっかりと参照しつつ、後肢の足の中足骨が(扇子を開く様に)開き易い関節構造を呈しており、長さも長い、従って指を開いてその間に存在したであろう水かきを利用して水中で泳いだだろう程度の、誰でも思いつくような考察を鹿爪顔で行うかも知れませんが。そして次に別のロコモーション学説が有力になると、骨を解析し直したらそれも言えるなどと主張し始める者も出るのかも? 骨は何ら変化しませんがそれを扱う人間の主張が変化してくる訳で、或る意味、形態学徒−自分もその一味で!−とは、真面目顔した剽軽者の集まりなのかもしれません・・・。 成体の体重は通常4.5〜7 kg程度、頭胴長は40〜60 cm 、尾長は30 〜 45 cm 程度に達し、結構な大型齧歯類と言えます。ビーバー同様、噛み付かれたら深手を負いそうですね。 |
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