カピバラH ビーバーの泳法との比較T |
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2020年11月20日 皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 前回に引き続き、「巨大ネズミ」 カピバラに関するトピックスを採り上げます。院長の専門分野であるロコモーション絡みの話ですが、カピバラの比較対象としてビーバーの泳法を採り上げましょう。2回に分けてお話しますが最初はまずビーバーの習性について概観しましょう。実はこれも泳法の進化適応と密接に関連しています。 本コラム作成の為の参考サイト:https://ja.wikipedia.org/wiki/カピバラhttps://en.wikipedia.org/wiki/Capybarahttps://en.wikipedia.org/wiki/Hydrochoerushttps://en.wikipedia.org/wiki/Lesser_capybarahttps://ja.wikipedia.org/wiki/ビーバーhttps://en.wikipedia.org/wiki/Beaverベラルーシで60歳の釣り人がビーバーを撮影中に噛み付かれ出血多量で死亡https://www.theguardian.com/world/2013/may/29/beaver-kills-man-belarushttps://ja.wikipedia.org/wiki/遷移_(生物学)https://en.wikipedia.org/wiki/Ecological_succession |
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ビーバー Beaverアメリカビーバー North American beaverCastor canadensisヨーロッパビーバー Eurasian beaverCastor fiber ビーバーは擬人化され、様々な企業のロゴマークにも採用されている、人気をマウスと二分する?齧歯類界屈指の愛されものですが、実態となると何だか良く判らないと感じられる方々が多いのではないでしょうか?せいぜいのところが、樹木をガリガリと前歯で削り倒し、ダムを造り水流をせき止める動物だ、程度の認識かと思います。ベラルーシの男性が撮影中に突然ビーバーに襲われ、その強力な鑿の様な切歯に咬み付かれ出血多量で死亡したなどの話も web 上には流れています。実はその文字通りの最強の<齧歯>のみならず、齧歯類の中で最強と表現して良い水中適応性を示す進化を遂げた動物なのですが、これは後ほどに。 北米大陸並びにヨーロッパ〜北ユーラシア(全北区と言う)に棲息する半水棲の大型齧歯類で、齧歯類の中ではカピバラに次ぐボディサイズの持ち主です。頭胴長は80−120cm、尾長は25−50cm、肩までの高さは30−60cm、体重は11−30kgに達します。大型個体に挑まれたらヒト側に勝ち目はなさそうですね。現生種はアメリカビーバーとヨーロッパビーバーですが、これら2種は毛皮目的で乱獲され一時は激減しましたが、100年程前からの保護策が実を結び、現在では保護の対象とはならない程までに個体数が回復しています。アメリカビーバーの染色体数は40個、一方、ヨーロッパの方は48個で、前者は頭蓋骨が大きく尻尾もより幅が広く、鼻頭形態が四角であるのに対し、後者では三角形です。元々は北米に起源を持つ動物ですが、ベーリング海峡が陸続きだった750万年ほど前にユーラシアに亘り分化を遂げました。 ビーバーは地中に広大なトンネルを作るホリネズミや前肢が小さく後肢が発達したカンガルーラットに極く近い仲間で、齧歯目 Castorimorpha 亜目に属しますが、ラットなどを含むネズミ亜目にも近い仲間です。 祖先系の仲間の1つである Palaeocastorinae (昔ビーバー)亜科は、相対的に大きな前肢を持つ掘削性の動物で、低く幅広の頭蓋骨と短い尻尾の持ち主でした。2400万年前にはビーバー科は半水棲動物へと進化し、樹木を切り倒し一連の構造物を造る能力を発達させましたが、このお蔭で高緯度地域の過酷な冬を生き延びることが出来たのです。これは樹木を囓り食餌とする習性に副次的に派生した習慣ものの様に見えます。現生のビーバー並びにジャイアントビーバーの仲間はこの頃に出現しましたが、ジャイアントビーバーの仲間は現生のビーバーほどには水棲生活には特殊化を遂げて居なかった様に見えます。 |
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1万年ほど前迄は北米大陸に Giant beaver が棲息しており、体重は 100kg にもなりましたが、尻尾が現生のビーバーと異なり平たくなく鞭状である −これは潜水時の前方推進力を強力に産生できなかった点で上述の様に水棲に向けての特殊化の程度が低いことを意味します−点に於いて、また歯牙、特に切歯の形態が現生のビーバーとは幾らか異なります。現生ビーバーに最も近い別属に属する絶滅種との扱いです。詳しくは以下をご参照下さい。 https://theconversation.com/why-giant-human-sized-beavers-died-out-10-000-years-ago-117234 |
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ビーバーのダム造り 良く知られていることですが、川をせき止めて池を造り、その中央に木を積み上げて巣を作る習性があります。巣の室内に入る出入り口は水面下に有り、これで大方の外敵の侵入を防止する事が出来ます。ビーバーが繁栄したのは矢張りこの様な極めて高度に防御性の高い営巣を行う習性からと思われますが、その様な習性の強い個体が生き延びて、一層ダム造り行動が強化される方向に進化したのでしょう。当然乍ら、太い樹木を口で咥えながら潜水移動し強力に遊泳する必要性から、固有の水中運動性への適応的改変を受けています。単に自己の身体の身一つで遊泳したり潜水したりするのとは違い、荷物を運ぶ<水中土木事業家>ならではの強力な推進機構を持って居る訳です。 木の枝や石を積んで後、藻や泥で丹念に隙間を埋めてダムを造り、また維持します。縄張り意識が強く、尿や海狸香(肛門近くの嚢腺から分泌されるマーキング物質、Castoreum カストレウム)でダム含め各所に匂い付けを行います。池は次第に富栄養化し水鳥含め様々な生き物の生活場ともなり、最終的には土砂で埋まり草原化、次いで森林化します(遷移、Ecological succession と言う)。カナダや北ヨーロッパ〜北ユーラシアの地形をグーグルマップの衛星写真で眺めると、ヒトがなかなか立ち入れないような、うねった川と小さな湖沼だらけの広大な林地が広がるのが確認出来ますが、その様な場所でビーバーがせっせとダム造りに励んでいるのでしょう。完全に草食性で、木の皮始め何でも食べてしまい、その大きなボディサイズを維持します。 |
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