ロコモーションとはなにか − 風変わりなロコモーション |
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2020年12月1日 皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 カピバラと他の水棲齧歯類との運動特性の比較をこれまで行ってきましたが、最終的にビーバーの尻尾の扁平化の持つ機能的意義について考察を行う前に、動物の移動運動性について周辺の話を交えながらまったりと途中追加的にお話しして行きましょう。最初にロコモーションとは何のことかを説明して行きます。動作に関することですので動画を多めに利用しますね。 本コラム作成の為の参考サイト:https://ja.wikipedia.org/wiki/カタツムリhttps://en.wikipedia.org/wiki/Snailhttps://ja.wikipedia.org/wiki/フクロモモンガhttps://en.wikipedia.org/wiki/Sugar_gliderhttps://ja.wikipedia.org/wiki/アルマジロhttps://en.wikipedia.org/wiki/Armadillohttps://ja.wikipedia.org/wiki/ミナミゾウアザラシhttps://en.wikipedia.org/wiki/Southern_elephant_sealhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/sicejl/54/4/54_248/_pdf脚式と非脚式の這行ロコモーションにおける運動モードスイッチングの共通力学黒田 茂、他粘液を利用した腹足類這行運動メカニズムMechanism of Crawling Locomotion with Mucusin Gastropods岩本真裕子、他 数理解析研究所講究録 第1853巻2013年217-224http://www2.chiba-muse.or.jp/www/UMIHAKU/contents/1521849666827/simple/note10.pdf千葉県立中央博物館分館 海の博物館 |
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風変わりなロコモーション ロコモーションとは動物が移動する動作そのもののこと、或いはその移動の方法、様式などを差す言葉です。特に手足を持つ動物の場合には<歩容>とも表現されますが、四肢を持たないヘビの各種の前進方法、或いは巻き貝の仲間のカタツムリが腹足の筋肉の収縮波 (運動波)を後ろから前へとエスカレーターの階段の様に次々と送りながらヌメヌメと這う場合には、この言葉は適当では無い様に見えます。尤も、巻き貝でもサザエやカサガイの仲間は腹足が左右に分かれていて、右左、右左と交互に滑らせながら進みますので<歩容>でも良いかもしれません。院長は中学生の頃に礒の生物の飼育に夢中になっていたのですが、その時にガラス面を這うサザエ科のスガイやアクキガイ科のイボニシが左右交互に摺り足で<歩行>するのを知り驚いたことを思い出します。残念ながら youtube ではその様な画像を見つけることが出来ませんでした。思い出しましたが、腔腸動物のウメボシイソギンチャクもガラスの上をゆっくりと移動可能で、翌日に観察すると別の場所に貼り付いていることもありました。 以前に沖縄の海岸で細長い蓋を杖にして砂上をひょっこりひょっこり歩く巻き貝(名前が分からないのですがソデ貝の仲間でしょうか?)を見つけたのですが、身体の軟らかい動物の多様なロコモーション様式には驚嘆するばかりです。イカの高速遊泳然り、また二枚貝のホタテ貝も殻を羽ばたいて水中移動することもあるぐらいですし。 |
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脊椎動物のロコモーションの特徴 ホネを身体の芯に持つ脊椎動物の身体には無限回転可能なタイヤの様な前方推進装置は存在せず、従って、前に進む動力を得るためには、基本的に関節回りに配置した筋肉を収縮したり延ばしたりさせ、身体の一部を往復運動させて(これ自体波動と言えます)推進力を得るしかありません。体育館のマットの上ででんぐり返しを繰り返せば屈伸なしで進めるのではないかと考える方も居られるやも知れませんが、実は手足や体幹を一見分からない様に反復屈伸させて前方推進のための馬力を得ています。 敵に襲われたアルマジロが丸まって坂道を転がって遁走すると聞いたことがあるのですが、この場合は重力により落下運動をしていることになります。他にクマやアザラシが斜面を自分から転がるシーンも時々は観察されますが、これは知能が高い動物に良く観察されることですが遊びの色彩が強いですね。この様な、その種にとって共通に、普遍的に観察される移動様式では無く、個体レベルでの遊びと見做せられる類いの移動方法はロコモーションとは呼べません。 他方、種として共通に観察される移動様式であり、重力或いは空気からの揚力を上手く利用する為の姿勢保持を元にして行われるトンビやムササビの滑空は、ロコモーションと呼んでも良さそうには見えます。この様な場合を除き、通常は身体の一部を媒体と接触させつつ関節回りの往復運動を行いながら前に進むのが動物のロコモーションの基本になります。まぁ、簡単に言えばボート漕ぎと同じ原理です。但し、rectilinear locomotion と呼称される一部のヘビに観察されるロコモーションに於いては、体幹筋の筋収縮の粗密波を発生させて前進する方法が採られますが、これには関節運動は関与していない可能性がありそうです。 ヒトの二足歩行を思い浮かべても、左右交互の脚を前後に往復運動させてている事が理解出来ると思います。 斯くして、脊椎動物のロコモーションの進化を理解する事とは、@どの部位の筋骨格系を利用してどの様な往復運動、即ち波動生成を行うのかの機能形態学的解析、A<足掛かり>となる媒体空間に対し、なぜその様なロコモーション様式を選択するに至ったのかの考究この2点に絞り込めるでしょう。 |
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