ロコモーションの話 ー ヘビ恐怖症 |
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2021年1月10日 KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 カピバラと他の水棲齧歯類との運動特性の比較をこれまで行ってきました。最終的にビーバーの尻尾の扁平化の持つ機能的意義について考察しようと思いますが、その前に途中追加的にロコモーション関連の話をまた〜りと採り上げます。その第9回目です。運動性に関することですので、youtube からの動画資料を多くお借りしての解説です。 爬虫類についてのお話の5回目です。トカゲに続きヘビのロコモーションに入る前に、ヒトがヘビと聞くと何故か落ち着かなくなり、対象を冷静に捉えにくくなる要因について考察を加えて行きましょう。その第2回となります。正月休みの番外編とご理解下さい。 本コラム作成の為の参考サイト:htps://ja.wikipedia.org/wiki/爬虫類https://en.wikipedia.org/wiki/Reptilehttps://ja.wikipedia.org/wiki/有鱗目_(爬虫類)https://en.wikipedia.org/wiki/Squamatahttps://ja.wikipedia.org/wiki/ヘビhttps://en.wikipedia.org/wiki/Snakehttps://ja.wikipedia.org/wiki/ダイヤガラガラヘビhttps://en.wikipedia.org/wiki/Diamondback_rattlesnakeヘビ恐怖症https://en.wikipedia.org/wiki/Ophidiophobiahttps://ja.wikipedia.org/wiki/自来也https://ja.wikipedia.org/wiki/三すくみhttps://en.wikipedia.org/wiki/Trilemmahttps://ja.wikipedia.org/wiki/ヒキガエル科https://en.wikipedia.org/wiki/True_toad広島大学デジタル博物館https://www.digital-museum.hiroshima-u.ac.jp/~main/index.php/ニホンヒキガエル関東に棲息するのは亜種のアズマヒキガエルになります。 |
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ヘビ恐怖症 snake phobia 1970年代の話ですが土居まさる氏が司会を務める日本テレビ 『TVジョッキー』 なるヤング向けの番組があり院長も毎週見ていました。その中に視聴者が参加する奇人変人コーナーがあったのですが、或る時、ヘビ風呂に入る父子が登場し、空の湯船に放たれた大量のゆらゆら動くヘビを湯のようにすくって身体に掛けており、その光景には文字通り魂消ました。大人しいヘビを首に巻くこと自体不可能な者は少なくない筈ですが、ヘビ風呂は奇想天外の想定外!でした。この父子の様なヘビ愛好家?のユニークな例はさておき、上述の様にヘビの言葉を聞いただけで落ち着かなくなる方々が殆どだろうと思いますが、さてどうしてそうなのかこれについて考えてみます。 ヒト以外の良く知られた話として思い浮かべる方も居られると思いますが、ヘビ−カエル−ナメクジの三すくみの組み合わせの1つ、ヘビに睨まれたカエルなる言葉があります。実際のところ、大変面白いことに、ヒキガエルの前に細長いものをくねらせるとカラダが固まってしまい、スイッチが切り替わったようにいつもとは違う妙なぎごちない歩行をするようになります。院長は径3cm程度のフレキシブルパイプ(排水用のパイプ)の先端に目玉を取り付けてヒキガエルの目の前でくねらせてみましたが、話の通りに妙なガクガクした動きとなり驚嘆したことがあります(残念ながら動画記録していませんでした)。正にヘビに睨まれたカエルですが、これはヘビに対する恐怖反射とも言うべきものがおそらくヒキガエルの脳に生得的にインプットされていることを意味します。春が近づきお湿りがあるとガマが冬眠から目覚めて動き始めますので、もし捕獲したらこれを実験して見て下さい。但し強烈な毒(ブフォトキシン)を頭の後ろの左右の腺から分泌(白い乳液)しますので手袋着用の上触れることをお勧めします。ガマの油売りの口上ではありませんが、鏡を見せると己が醜い姿を見て脂汗をタラ〜リタラ〜リと流すのかについては試したことはありません・・・。 |
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恐怖症を表す接尾語は phobia フォビア ですが、例えば学校嫌いは school phobia、狂犬病に起因する恐水病はhydrophobia などと自由に造語出来ます。因みに phobia の逆の愛好 loving を意味する接頭語、接尾語は philo フィロ ですが philosophy: philo+ sophy 知識、知識体系を愛する = 哲学、philharmony: phil + harmony ハーモニー、音楽を愛する=交響楽団となります。hydrophilic で親水性の、の意味になります。 ヘビ恐怖症は一般的には snake phobia で通じますが、学術的には Ophidiophobia オフィディオフォビアと呼び、また爬虫類嫌いは Herpetophobia ヘルペトフォビアと呼びます。 ヒトなどが生得的にヘビに対する恐怖心を持っているのか、即ちガマガエルと同様のヘビに対する<認識−忌避 or 恐怖反射系>が中枢神経系内に構築されているのか、に関してはこれまでに数多くの研究が行われてきました。近年のものでは、2001年に、哺乳類は生得的にヘビ(とクモ)に対する忌避反応性を持つ可能性があり、これは命に関わる脅威を直ちに知る点で生存に必須なものであることがスウェーデンのカロリンスカ研究所の研究で示唆されました。2009年の報告では、これは40年間継続する研究計画のものですが、ヘビに対する強い恐怖の条件反射の成立並びにヘビの姿に関する無意識下の素速い処理過程がヒトに存在する事が示されました。これらは扁桃体を含むヒトの脳内の恐怖ネットワークに拠り取り次がれます。また2013年には、霊長類(マカク、ニホンザルの仲間)にて、迅速にヘビを察知する為の神経生物学的な自然選択が起きていたとの証拠が提出されました。 オランウータン保護施設では、担当者がオランウータンの子供達の前に生体のヘビを示し棒で叩いて<やっつけねばならない悪い奴>であることを示します。するとオランウータンの脳内にはヘビが危険であるとの条件反射が成立すると同時にヘビを素速く認識する処理のネットワークが構築されると謂う訳です。この学習を通じて、仲間がヘビに噛まれて死ぬのを目撃し恐怖の条件反射が成立するとの流れ無く、貴重種の個体数が守られます。まぁ、一種の危機教育です。 上述のガマガエルの場合、捕食者のヘビを前に妙な動きをする個体の生存率が高く(自然選択の存在)、次第にヘビを察知して妙な動きを行う脳内の回路が固定されたと考えれば良さそうです。同様の事が哺乳類に存在する可能性が示唆されていましたが、マカクにて証明されたとの話ですね。と言う次第で、ヒトにも生得的にヘビを察知する強い傾向がある可能性が、そして怖い思いを経験することでヘビを忌避する条件反射のネットワークが実際に成立することが判って来たことになります。最後に答えが出ましたが、これがヘビ恐怖症の実態ですね。まぁ、ヘビ女の漫画を読んでヘビが奇っ怪で恐ろしく忌まわしいものと子供が学習し、更にその様な漫画を繰り返し読むことでその念(やっぱりヘビはコワいんだ)が強化されていく訳です。ヘビを本能的に察知するにしても、「特に慌てることも無いよ、毒蛇には注意しないといけないけれど全てが怖い訳ではないんだ」、と科学的に学習させれば、この恐怖の条件反射の輪を打ち壊すことも出来ます。 |
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