ロコモーションの話ヘビのジグザグ錦帯橋ロコモーションモデル |
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2021年1月25日 KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 カピバラと他の水棲齧歯類との運動特性の比較をこれまで行ってきました。最終的にビーバーの尻尾の扁平化の持つ機能的意義について考察しようと思いますが、その前に途中追加的にロコモーション関連の話をまた〜りと採り上げます。その第12回目です。運動性に関することですので、youtube からの動画資料を多くお借りしての解説です。 爬虫類についてのお話の8回目です。 以下本コラム作成の為の参考サイト:https://ja.wikipedia.org/wiki/爬虫類https://en.wikipedia.org/wiki/Reptilehttps://ja.wikipedia.org/wiki/有鱗目_(爬虫類)https://en.wikipedia.org/wiki/Squamatahttps://ja.wikipedia.org/wiki/ヘビhttps://en.wikipedia.org/wiki/Snakehttps://ja.wikipedia.org/wiki/ブラックマンバhttps://en.wikipedia.org/wiki/Black_mambahttps://ja.wikipedia.org/wiki/ダイヤガラガラヘビhttps://en.wikipedia.org/wiki/Diamondback_rattlesnakehttps://ja.wikipedia.org/wiki/ウミヘビ科https://en.wikipedia.org/wiki/Sea_snakehttps://ja.wikipedia.org/wiki/ウラブウミヘビhttps://en.wikipedia.org/wiki/Black-banded_sea_kraithttps://ja.wikipedia.org/wiki/錦帯橋https://ja.wikipedia.org/wiki/曲率https://en.wikipedia.org/wiki/Curvaturehttps://ja.wikipedia.org/wiki/キイロタマホコリカビhttps://en.wikipedia.org/wiki/Dictyostelium_discoideum |
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ヘビ型動物のロコモーション 前回のコラムで各種ヘビ型動物について触れましたが、ウミヘビなどを含めて彼らのロコモーションの基本は体幹を左右にくねらせて推進力を得る方法にあります。この方法にも幾つかのバリエーションが存在するのですが、この方法は進行方向に対して直角の左右方向に体幹を運動させる成分を抱えるだけエネルギーが無駄に消費されることに加え、その横の揺れ幅が大きいほど通行に必要な場所の横幅が大きくなるマイナス点があります。対外的には身体をくねらせることで、敵がヘビを捕まえて捕食するのを攪乱し困難にさせる利点などはありそうですが。この方法で平らな砂漠の上や水中を進み、或いは柔らかな土壌や砂の中を潜る際には問題となりませんが、例えばミミズやウナギ(鰭を利用)の様に既存の1本の内径の狭いトンネル内をくぐり抜ける動作、或いは木の枝の上などの狭い場所を通過するには困ったことになります。この様な事をまず頭に入れてからヘビ型動物のロコモーションをじっくり見て行きましょう。 一般に観察されるヘビ型の左右くねらせ式のロコモーションとしては、 @体幹をS字型に左右にくねらせて前方に進む一般的な方法(serpentine locomotion ヘビ式ロコモーション)Aこの遣り方を取りながら側方に移動する方法(sidewinding locomotion 側方進行ロコモーション、ガラガラヘビがこれをしばしば行う)B体幹をS字に畳み、バネの様に前進する方法(concertina locomotion アコーディオン式ロコモーション) に、外見的に区分されます。実際にはこれ以外の様式(後のコラムにて触れます)も含め、互いにオーバーラップするところがあり、厳密にきっかりと分かれる性格のものではありません。最近では垂直の丸太を登るときに身体を輪の様に巻き付けながら上に進むヘビが発見されたとの事ですが、それは単なる習性であって、生体機構的には上記分類の機構で説明出来るものではないかと院長は考えて居ます。 |
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ジグザグ錦帯橋ロコモーションモデル 体幹をS字型にくねらせ媒体(地面)を後方に押し、その反作用で前方推進力を得て前に進む訳ですが、前方推進のパワーはS字カーブを作ったり緩めたりする、鉛直軸回りの体幹の往復屈伸運動が産生することになります。横方向の運動成分は前方推進には貢献しません(左右のS字の動きで相殺されます)が、往復屈伸運動の中に、前方に身体を進ませる運動のベクトルがしっかりと含まれている訳です。ヘビの体幹が同じ地表の軌跡をなぞって進む様に見える為、一見、地表でのS字カーブが空間的には不動に見えますが、身体は前進して居ますので、体幹各部が次々と筋力を用いて<曲率>を変動させている事になります。 この場合、体重を掛ける媒体(地面)上のアンカーポイントがあり、その上を連続的に体幹を滑るように接触させ(押しつけ)ながら進みます。腹全面を常に地面に接触させ等しく体重を掛けている居る訳ではありません。このアンカーポイントは砂の上に固有の<足跡>としての窪みとなります。凹みが付いていることはそこにより大きな体重が掛かっていることを意味しますが、これはその部分で摩擦力(一種の動態滑り摩擦力)が大きく掛かっていることを意味します。詰まりはこの<足跡>以外の場所ではヘビの胴体は<普通に体重が掛かっている>話になります。静かに地表を進む時は殆ど認められないレベルですが、高速移動中のヘビではこれが明瞭になり、S字カーブ全体が地表から持ち上がり摩擦力ゼロとなります。どう言うことかと言えば、こちらに蛇行しながら向かってくるヘビを腰を落として真正面から観察すると、左右のアンカーポイントの間は体幹が浮いて軽度のアーチを形作る訳です。真横からも同様に前後のアンカーポイントの間にこのアーチが観察される筈です。これは或る瞬間を考えれば、錦帯橋の複数の太鼓橋がジグザグに配置する形に似ているでしょう。橋脚がアンカーポイントになります(ジグザグ錦帯橋ロコモーションモデル)。この橋の上をヘビが滑っていくことになります。但し、実際のヘビのアンカーポイントはS字カーブの頂点(ここが一番体重が掛からない)とはズレています。 |
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実際のヘビのS字くねらせ式のロコモーションも、実は結構高度な運動制御方法に裏打ちされてのものの様に見えます。ヘビ型ロボットの開発が進められていますが、S字蛇行式のモデルとしては、受動車輪を備えたリンクを能動関節で直列に連結し、体を屈曲させることで車輪による摩擦の異方性を利用して推進する車輪拘束ヘビ型ロボットが各種開発されてきています。 これに関する詳細は、 中島 瑞氏に拠る電気通信大学大学院 情報理工学研究科博士(工学)の学位申請論文(2020年3月)『拘束切り替えを利用したヘビ型ロボットの2平面移動と2点同時制御に関する研究』https://core.ac.uk/download/pdf/323561114.pdf(無料で全文にアクセス出来ます) に分かり易く解説されています。身体の関節を左右に能動的に振るだけで車輪には能動的な推進力与えず、この状態でS字に蛇行させると、進行方向に大きく角度を持つ位置の車輪が媒体表面に対して大きな摩擦力を持ち、その反力として前方推進のエネルギーを得るとの機構の様ですね。制御的には身体の各節の関節の屈曲度(曲率)を頭から尻尾へと滑らかに変動させて蛇行を行わせるだけで済む様にも思えます。蛇行の波の波長や振幅を変えることによりヘビの進行のシミュレーションも可能なのでしょう。中島 瑞氏は、単なる二次元平面的な蛇行の再現に留まらず、三次元的なヘビの動きを得られないかとの考究を行った旨が要旨に書かれています。従来の制御点が1点で有ったものを2点制御式に改良し更に実際のヘビの動きに近づけたとの業績ですね。 上の錦帯橋モデルで触れた様に、生身のヘビはアンカーポイントを各所に定め、単に進行方向への摩擦力を大きく発生させて推進力を得る以外にも、体幹をアーチ状に浮上させたりと脊椎骨の背腹方向への制御性も有しています。まぁ、このアーチの部分の摩擦力は完全にゼロになります。ピンポイント的に体幹の重さをを媒体表面に強く押しつける一方他は浮かすことで、高速な前進を可能としている様に見えますが、これをロボットで再現するのはラクではないでしょうね。 中島氏の説明では、リンクを能動関節によって直列に連結しロボット胴体で直接環境に接触するタイプのロボット(非車輪型ロボット)もあります。これは摩擦の異方性を再現する機構を有していない為に屈曲運動では推進できず、体を体幹軸周りで回転させる捻転動作や,体全体で歩容動作を生成することによって推進するものです。このタイプは youtube 動画でもよく見かけるものですね。これは災害時やパイプの通過障害などに際して狭い空間に入り情報を得たり障害物を取り除いたりするのに利用されますが、外科用ロボットとしての用途も拡大していくのではと思います。要するにこのタイプは一見ミミズに似た動きをさせる目的であって、真のヘビのロコモーションを再現する方向性にはありません。 アフリカに棲息するコブラの仲間のマンバは、身体をS字にくねらせながら時速16kmで前進可能ですが、身体を滑らかにくねらせながら良くこの様な迅速な走りが出来るものと驚嘆させられます。この動きをロボットでそのまま再現出来たらと思いますが、話は単純では無く、奥が深そうに見えます。イヌの様な四肢型ロボっト、或いはヒト類似の二足ロボットは、Boston Dynamic 社の各種動画に見られる様に、体幹を数個に分けて関節させ、手足の関節と共に、プログラミングして運動性とバランス能を維持すれば巧みな動作をさせることが出来ますが、脊椎骨の多関節構造のヘビ型ロボットはまだ序盤の段階にある様に院長の素人目には映ります。まぁ、<四肢+少ない体幹関節数>のロボットの方が動作理論的には制御がずっと楽そうに見えます。 次回で、このS字くねらせ方式の機能的意義についてもう少し迫ってみましょう。 |
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