ロコモーションの話 ー ヘビは二次元ねじ切り式で進むのか? |
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2021年2月1日 KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 カピバラと他の水棲齧歯類との運動特性の比較をこれまで行ってきました。最終的にビーバーの尻尾の扁平化の持つ機能的意義について考察しようと思いますが、その前に途中追加的にロコモーション関連の話をまた〜りと採り上げます。その第13回目です。運動性に関することですので、youtube からの動画資料を多くお借りしての解説です。 爬虫類についてのお話の9回目です。 本コラム作成の為の参考サイト:https://ja.wikipedia.org/wiki/ヘビhttps://en.wikipedia.org/wiki/Snakehttps://ja.wikipedia.org/wiki/スピロヘータ門https://en.wikipedia.org/wiki/Treponema_pallidumhttps://ja.wikipedia.org/wiki/錦帯橋https://ja.wikipedia.org/wiki/螺旋https://en.wikipedia.org/wiki/Helixhttps://ja.wikipedia.org/wiki/ねじ式https://en.wikipedia.org/wiki/Screw_Stylehttps://ja.wikipedia.org/wiki/つげ義春https://en.wikipedia.org/wiki/Yoshiharu_Tsuge |
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ヘビは二次元ねじ切り式で進むのか? ヘビのロコモーションを別の角度から見て、より理解を深めようとのコラムです。ヘビのコラムを執筆している内に、幸いなことに生卵が呑みたいなどの症状は出ていません!が、探究心がしつこくなって来たのを正直覚えます。執念深くなって来たのでしょうか・・・。どうぞビビらずにお付き合いのほどを。 さて、ねじ式と言うと、院長ぐらいの世代の者には、雑誌 GAROに掲載された、つげ義春氏のシュールな漫画をまず思い浮かべる筈です。小学生の時に町の本屋で現物を手に取り立ち読みしましたが、ある種の衝撃に加え、見てはいけないものを見た時の様な名状し難い気持に襲われました。今でもはっきりと漫画の各シーンは良く覚えています。これは楳図かずお氏のヘビ女がくわぁ〜と口を大きく開いて追いかけてくる恐怖のシーンとはまた別の、強烈な記憶の一コマとなっています。さて、ねじとヘビとで上手く話が纏まると良いのですが取り敢えず?始めますか。 前回、へピのロコモーションはジグザグ錦帯橋ロコモーションモデルとして捉える事が出来ると提唱しました。これは、四肢を持つ動物が手足で接地してそこをアンカーポイントにして蹴り出すのと一見似た様な機構を、胴体のみを用いて迅速に行っている事を強調した解釈です。ヘビの祖先が次第に四肢を失う過程で地面を踏ん張る四肢の役目をこの様な方式の体幹運動に徐々に置き換えて行ったのだろうと思います。しかしながら、この段階が具体的にどの様に進化して獲得されたのかに関しては院長は:現況は明確なシナリオを想い描く事が出来ていません。後のコラムにて説明する、直線型ロコモーションつまりはミミズの様な、体幹中心軸即ち脊椎骨に沿う方向に粗密波を発生させて進む方式が先に得られ、S字くねり方式が寧ろ後に大きく発達した可能性もあるのではと考えてもいます。これは地震の縦波と横波の関係にもちょっと似ていますね。まぁ、正直なところ、体幹+四肢を用いる動物のロコモーション進化のシナリオを考える方がずっとラクに思えます。四肢を持つトカゲに始まり、四肢を失い胴体が長くなるまでのロコモーション推移のシミュレーションを理論的に明確且つ詳細に示せたら面白いと思います。何が言いたいのかと言えば、ヘビの運動性の動作解析の仕事は数多く見られますが、個々の事象面の解析に留まり、ではどうやってその様なロコモーション様式が獲得されたのかの進化シナリオの考察が見られないのを残念に思うと言う話です。数学者や工学者が関与する例が多いのでこれは仕方無い面も確かにはありますが。 ヘビは身体の先頭の方が作った進路のカーブを身体の後ろの方が大方なぞって進む習性を持つ様に見え、この様な、滑るようなヘビの動きを見る度にいつも不思議な気持にさせられます。これは特に何らの障害物の無い砂の上を這う時には明瞭な複数S字型として観察されます。或る意味、ネジ切り役の体幹の前半が作ったネジの溝に体幹の後半がネジとなって填まって進む様な方式ですが、外見的には二次元ねじ切り式ロコモーションとも呼べそうです。このネジ溝のところどころに体幹を接触させて対地面への蹴り出しの力を発生させる作戦です。レプトスピラ症、ライム病、回帰熱、腸管スピロヘータ症、また梅毒等の原因菌を含むスピロヘータの仲間は螺旋状の菌体(ヘリックス、螺旋近似体)をネジの様に回転させながら進みます。この運動を側方から二次元平面に投影すると正弦波のS字カーブとなり、くねくねとヘビの様に進む像が得られるのですが、これは明らかにヘビの蛇行式ロコモーションとは表面的に類似するだけであって、ヘビの蛇行運動の推進機構を考察する為のヒントも得られません。まぁ、螺旋式に仮に進むとなるとそもそも頭部がぐるぐると回転してしまい、目が回ってしまいます・・・。 |
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アンカーポイントに接する以外の身体の部分は、特に高速走行時には明瞭に宙に浮くことになります。即ち、体幹は実際にはネジの溝を辿るのではなくそれから浮いている訳です。まぁ、真上、天空から眺める、即ち、地表平面に投影して考えると、同じ周期と波長で身体をくねらせて進む様に見える、と表現した方がより正確ですね。河川の蛇行のような、単なる平面上のくねりとして考えるのは大きな間違いであって、ヘビのS字くねり動作は、錦帯橋モデルとして考えた様に3D動作であることを再認識すべき、と言う事です。 では、どうして一定のS字の間隔と横幅で進むのかですが、1つには体幹の各部を頭部から尻尾に至る連続的な筋収縮の波動として産生するのが制御的に有利なこと、また各アンカーポイントが出力する前方推進力を均等にして、一匹の蛇として systematic (無駄なく整然と)歩む為のリズム作りなのだろうと予想はされます。これはヘビの胴体が同一の径を持ち、即ち単位長さ当たりの筋張力の産生量並びに重量が同一であるとの前提に立ちますが、アタマと尻尾の径の細い部分を除けばこれが成立すると考えることは可能でしょう。 ところで、ヒトが直立二足歩行を如何にして獲得したのかを考えるに際し、以前は歩行運動性の三次元的理解から離れ、例えば、歩行のあり方を側面から見た二次元投影図として得、体幹を水平位にした四足歩行のサルが、次に体幹を斜めにした大型類人猿のナックルウォーキングに移行し、遂に体幹をまっすぐに立てて歩行するに至ったとの、特定平面に投影したロコモーションの解釈が行われてもきました。一般的な話ですが、3Dの運動性を2Dに限定して考える過程で、本質的な、重要な情報を切り落としてデータを比較する危険性を抱えていますが、これは進化の一面しか理解出来ない事に、いや、進化仮説のミスリーディングにさえ繋がるでしょう。ヘビのロコモーションの理解にもこの様な2D化して考える解釈、視点−平面的な蛇行運動との認識−を知らずと行ってしまうことに注意すべきと考えます。実際、ヘビはその伸張した体幹を巧みに用い三次元空間に大きく進出した爬虫類であり、それは三次元的に動ける体幹機能を有するがゆえのことです。木登りするヘビは居ても木登りするワニは存在しません。 この様な事を再確認しつつ、次回コラムにてS字くねらせ式ヘビロコモーションを、ヒトのスケート動作から更にしつこく!また見ていきます。 |
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