ロコモーションの話 ーヘビのロコモーションは効率が良いのか |
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2021年2月10日 KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 カピバラと他の水棲齧歯類との運動特性の比較をこれまで行ってきました。最終的にビーバーの尻尾の扁平化の持つ機能的意義について考察しようと思いますが、その前に途中追加的にロコモーション関連の話をまた〜りと採り上げます。その第15回目です。運動性に関することですので、youtube からの動画資料を多くお借りしての解説です。 爬虫類についてのお話の11回目です。 本コラム作成の為の参考サイト:https://ja.wikipedia.org/wiki/ヘビhttps://en.wikipedia.org/wiki/Snakehttps://ja.wikipedia.org/wiki/ブラックマンバhttps://en.wikipedia.org/wiki/Black_mambahttps://ja.wikipedia.org/wiki/ダイヤガラガラヘビhttps://en.wikipedia.org/wiki/Diamondback_rattlesnakehttps://ja.wikipedia.org/wiki/ウミヘビ科https://en.wikipedia.org/wiki/Sea_snakehttps://ja.wikipedia.org/wiki/ウラブウミヘビhttps://en.wikipedia.org/wiki/Black-banded_sea_kraithttps://ja.wikipedia.org/wiki/艪https://www.nature.com/articles/nature13708Published: 27 August 2014Developmental plasticity and the origin of tetrapodsEmily M. Standen, Trina Y. Du & Hans C. E. LarssonNature volume 513, pages54-58(2014) |
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ヘビのロコモーションは効率が良いのか 前回コラムでも触れましたが、エネルギー効率が悪いとは言うものの、それでもマンバ(アフリカに棲息するコブラの仲間)では短距離ですが最大時速16km/h (11.25s/50m)で走るとされています。自転車並ですがこの速さでマンバに追い掛けられたら、楳図かずお氏のヘビ女ではありませんが、恐怖で脂汗を流しそうですね。更に、次回コラムで触れますが、横方向に進むガラガラヘビなどのヘビ(サイドワインダーと呼ぶ)では時速33kmで砂の上を進むとされ、ヒトが砂に脚を取られている内にガブリと遣られそうで・・・。 S字カーブを小さくすれば左右方向の余計な運動エネルギー消費は抑えられますが、今度は蹴り出しのエネルギー出力の絶対値が小さくなって速度が低下してしまいます。これはスケートも同様です。おそらく、個体のサイズに拠って、最大の前進速度を許容するS字の振幅(横方向の揺れ幅)と波長(S字カーブの進行方向の間隔)が決まり、ヘビはそれに従って高速ロコモーションするのでしょう。前回ご紹介したスピードスケート種目でのパシュートでは、身体の左右の揺れが発生し、複数人が連なるシーンではヘビの動きによく似た運動になりますが、これに際しても集団として最大効率的に最大速度を得られるS字の振幅と波長が自ずと定まるのでしょうね。コーチ側は各選手の体格、脚力、スタミナなどのデータを元に、最適解を科学的に算出(計算法はおそらく機密扱い)して利用しているのかもしれません。 S字カープを少なくして幅の狭い場所をするりと進む為には別の推進機構を取り入れその比重を高めるしかありません。ロボットで言えば、胴体の下に付けたタイヤそのものを能動的に回転して電車化すれば済む話ですが、ヘビではそうもいきませんね。この方法に基づくヘビのロコモーションについては後のコラムにて解説します。 さて、ヘビが前方推進の為の馬力を得る為には盛大な無駄なエネルギー消費も必要になることから、ブラックマンバなどは相当のスピードで地表を進めるものの、ヘビは地表を迅速且つ長距離走行する地球上のチャンピオンにはなれそうにありません。詰まりは、四肢を失うメリットがあったがゆえにヘビはヘビ型に進化したのは当然ですが、それは本来的には地表を効率よく迅速に移動する方向の進化では無かった訳です。マンバの様な蛇行ロコモーションで進むのは二次的な高速化への適応形態だろうと言う事です。 |
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無駄なエネルギー出力を少なくし、高効率且つ高出力の地表ロコモーションとするには、 @四肢を体幹の下に配置して左右軸回りの反復回転運動をさせる事(筋肉を四肢の付け根に配置し四肢末端を伸ばす)、A体幹の左右のくねりを極小化し四肢と同じく背腹方向の屈伸方法に切り替える事(この背腹方向の揺れも低減させる)、 の2点が重要ですが、恐竜が凡そ@+初期段階のA、哺乳類が@+Aのほぼ完成形に相当すると考えます。更に哺乳類では筋細胞中のミトコンドリアが大量に存在し、酸素呼吸を通じて筋収縮力も格段に高いレベルで出力出来ます。外見的な機能形態のみならず中身の生理機構からして既に違っている訳です。温暖で植物が繁茂し、空気中の酸素濃度が高ければまだ良いとしても、肺機能も高度化する必要があり、哺乳類のようなしっかりした横隔膜が出来て肺をふいごのように運動させ、更には心臓も2心房2心室化を完成させていたのかどうか。因みにワニは薄い膜様の横隔膜類似構造を持つとされ、心臓の改良も進んでいる様です。院長はワニの液漬標本を1体保持していますが、観察もせずに20年程そのままにしています・・・。 肝心な点ですが、何故、体幹並びに四肢の運動(回転反復運動)を横軸回りの背腹屈伸型にするのかですが、重力に対して左右方向の、明らかに無駄な運動を行う事よりも、重力に対して反重力方向即ち跳躍と重力方向への下降運動を採用し(実はこれも無駄な運動)、重力に対して鉛直な平面上にて、進行方向に対して直線的に進むのが脊椎動物のカラダの造りを持つ生き物には様々な意味−特に地上四足歩行生活−に於いて合理的でもあるからでしょう。例えば、胴体を地表から lift up していますので、凸凹の障害物のある地表でも進めてしまいます。ウマの走行を見ればお判り戴けると思いますが、体幹部の背腹運動自体をも小さくして高速走行時には一種の剛体化(固まった一個のものとして前進)が見られます。四肢の付け根に筋肉を配し、四肢を長くして、体幹部自体は空気中を浮遊しながら前方に切り進む様な按配ですね。船体が海面から浮上する水中翼船みたいな感じでしょうか。魚時代には水中を浮力で浮遊し海底からは切り離されていましたが、陸上進出に伴う地表との濃厚なコンタクトから、ここに来て抗重力性を強化した体幹と四肢構造を得、再び独立する事が出来たことになります。爬虫類にはここまでのロコモーションは為し得ません。この様な、哺乳類化に伴うロコモーション進化については後のコラムにて詳述する予定です。 |
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