ロコモーションの話ヘビの水中ロコモーションは効率が良いのか |
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2021年2月15日 KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 カピバラと他の水棲齧歯類との運動特性の比較をこれまで行ってきました。最終的にビーバーの尻尾の扁平化の持つ機能的意義について考察しようと思いますが、その前に途中追加的にロコモーション関連の話をまた〜りと採り上げます。その第16回目です。運動性に関することですので、youtube からの動画資料を多くお借りしての解説です。 爬虫類についてのお話の12回目です。 本コラム作成の為の参考サイト:https://ja.wikipedia.org/wiki/ヘビhttps://en.wikipedia.org/wiki/Snakehttps://ja.wikipedia.org/wiki/ブラックマンバhttps://en.wikipedia.org/wiki/Black_mambahttps://ja.wikipedia.org/wiki/ダイヤガラガラヘビhttps://en.wikipedia.org/wiki/Diamondback_rattlesnakehttps://ja.wikipedia.org/wiki/ウミヘビ科https://en.wikipedia.org/wiki/Sea_snakehttps://ja.wikipedia.org/wiki/ウラブウミヘビhttps://en.wikipedia.org/wiki/Black-banded_sea_kraithttps://ja.wikipedia.org/wiki/ウナギhttps://ja.wikipedia.org/wiki/頭索動物https://en.wikipedia.org/wiki/Cephalochordatehttps://en.wikipedia.org/wiki/Branchiostomahttps://zh.wikipedia.org/wiki/文昌魚属https://ja.wikipedia.org/wiki/ホヤhttps://en.wikipedia.org/wiki/Ascidiaceahttps://ja.wikipedia.org/wiki/ヤツメウナギ |
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ヘビの水中ロコモーションは効率が良いのか ヘビの地表蛇行型ロコモーションの効率性について前回お話をしましたので、今度は水中での蛇行型ロコモーションについて考えてみましょう。 さて、海洋に進出したウミヘビも地表性のヘビ同様に、S字型に体幹をくねらせて前進しますが、水中ゆえ特定の確固たるアンカーポイントは有りません。魚と同じく体幹全体で水を後方に押し出す波動発生方式になりますね。水の抵抗性、粘性が柔らかなアンカーとなり、それを押しのけようとする反作用で進む訳ですが、まぁ、船頭の艪漕ぎと基本的に同じ推進力産生方式です。S字の蛇行を複数回同時発生させて水を後方に押せば、それだけ前方推進力は産生出来ますが、今度はカラダの左右のブレを持つ事が水の大きな抵抗を発生させます。この様な兼ね合いからヘビは水中では最大効率的に進める、種としての最適な波動生成を行っている筈です。まぁ、そこそこの振幅のS字蛇行ですね。筋断面積当たりの収縮力、ボディサイズ、水の粘性抵抗など、詰まりは生体機構と流体力学の兼ね合いからの最適解が出るのでしょう。 カラダを鯛やエイの様に平たくし体幹全体を左右或いは上下に反復運動させるのか、或いはマグロの様に弾丸のような紡錘形として尻鰭を振って水中で速度を得るのか、が矢張り適応的と見え、前にも触れましたがウミヘビの尻尾(総排出口、クロアカ)は左右から偏圧された様に平たくなって尾鰭化しています。パドル役の鰭が無い状態の、ヘビそのままの横断面が円形の紐の様な体型は、矢張り水中でも推進効率が悪そうだと言うことになります。 |
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脊椎動物の少し前のご先祖様的な生き物に脊索動物門と言うグループがあります。骨化していない芯(脊索、=背中の棒)が身体を貫くように発達し(成長の途中で発現するが生体では消失するホヤ類もある)、神経や筋肉がこれに沿いますがいわゆる頭がありません。この動物の仲間の1つにナメクジウオと呼ばれる海産の、魚の出来損ないの様な小動物が棲息しています(頭索動物)。これは国内の一部の海域(山口県、有明海など)にも棲息しています。普段は口先を出して砂の中に隠れているのですが、時々海中を泳ぎます。やや平たい身体を小刻みに振動させて水中を進みますが、体幹に複数のS字蛇行を発生させてのロコモーションになります。この生き物の左右に扁平化した体幹は水中への適応、特殊化として獲得された可能性はありますし、更には砂に刺さる様に潜ることへの適応から体幹長が伸びている可能性もあります。このナメクジウオの様な複数のS字蛇行方式を数を減らして遊泳力を強力化したのが現生の魚類であるとも言えそうですが、真の魚類とは平行進化的に得られた形質の可能性がありますが、既にナメクジウオレベルで体幹の扁平化が獲得されている訳です。 因みに、ホヤ(尾索動物)は院長は函館の炉端焼き店で食した経験が有りますが、夕張メロンに似た色の、特有の味の食べ物でした。大量に食べるのは無理と感じましたが少量ならイケます。東京のスーパーでも時たま1個100円程度で並ぶときがありますが殆ど売れていない様に見えます。食べ方も判らず手が出ないのでしょうね。ホヤは幼生時にはオタマジャクシ様で眼点や脊索も備えますがやがてそれらが消失し植物のような固着生活に入ります。これが脊椎動物に近い生き物とはとても思えませんが、脊椎動物の生理機構の進化的獲得を考える際の重要な生き物になります。まぁ、前にもコラムで書きましたが、周辺の動物と比較することでターゲットとする動物の実態が理解出来るとの按配です。ナメクジウオ含めどうも頭部の発達が弱い様で、違和感を強く覚える生き物ですが、脊椎動物のご先祖様は身体の方が先に割かししっかり作られ、後に制御コントロール機関としての脳が先頭に発達した模様です。下にも触れますが、円口類のヤツメウナギになると脳を備えてアタマは発達しますが、まだ下顎(下顎のホネは鰓が転用されて作られます)が無く、口は巾着様にすぼめる方式のままです。 体長軸方向の摩擦=ゼロ、それに直角方向の摩擦=ゼロ、のぬるぬる滑るウナギでも水中ではS字蛇行方式で推進力を得る事が出来ます。尤も、ぬるぬる故に、ウナギはざらざらな場合を除いては地面上を効率よく進む事は出来ませんね。体長軸に直角方向に<エッジ>を効かせることが出来ないからです。浅瀬を進むときは小石などの固定された物体をアンカーポイントとして利用し、S字蛇行すれば前進は可能です。この、固定物を利用する方法はヘビでも普通に観察されます。ヘビとウナギの地表蛇行式ロコモーションを比較すれば、ヘビの地表ロコモーションに何が必要であるのかが明瞭に浮かび上がる訳です。 |
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ウナギ型の魚類 ウナギがウナギの細長い姿形をに進化したのは、ヘビ同様に前方推進速度を捨て<隙間産業>化への道を歩んだからでしょう。何も、脚が速くて獲物を捕ったりするのに有利、敵からの逃げ足が速いのが有利だからとその方向にのみ進化が進む訳ではありません。<隙間産業>的に生きるのも生態学的ニッチ(Ecological niche、生態学的地位、niche は仏語の nicher = to make a nest 巣作りする、から)を上手く見出しての、立派な進化・生き残り戦略と言う訳です。 真の魚の1つ前の進化段階に留まる生き物に円口類と言われる仲間が棲息し、これにはヤツメウナギやヌタウナギが含まれます。東京の巣鴨にヤツメウナギの専門店がありますが、古くから目に良いとされ、実際に多量のビタミンAを含みます。院長は東北地方の日本海側 (秋田県由利本荘市)でヤツメウナギをぶつ切りにした鍋を1月に食した経験がありますが、バターに血を混ぜた様な特有の味でした。他の魚にヒルの様に吸い付いて吸血しますのでそれの味かもしれません。進んで賞味する対象と言うよりは薬膳風な食べ物と感じました。正月などに現地の魚屋の店頭に生きた個体が売られていますが、これは付近を流れる子吉川で捕獲されたものでしょう。発泡スチロールの箱の中で、水も無いのにふいごのように呼吸をしていて驚かされました。生命力が強い様に見えました。サイズは5,60cm はありました。 これも名前通りウナギ様の体型であり、S字蛇行型で遊泳します。普段は砂の中に潜んでいますので、その体型は<隙間産業>生活への適応と考えて良いと思います。真性の魚類では、ウナギ以外にアナゴやウツボ、タウナギ、ドジョウなどもウナギ型でS字蛇行式ですが、いずれも好んで穴にもぐります。まぁ、ヘビ同様、全て<隙間産業>的生き物です。地上のヘビ、水中のウナギなどはロコモーションよりは隠れ家を採った生き物と言えそうですね。円口類で生き残っているのはウナギ型のヤツメウナギとヌタウナギだけで他は全て絶滅しましたが、泥中に隠れるように生きて来たお蔭で、現在まで生き残って来れたのかもしれませんね。尚、ヤツメウナギには尾部に近く背鰭、腹鰭が、また尾鰭も軽度に発達しています。ウナギにも勿論鰭が備わっていて、単にヘビ型である訳ではありません。 ナメクジウオやヤツメウナギを材料に用いて研究するのも、脊椎動物の進化解明のヒントを得る為に大変有益な様に思いますが、矢張り水産学の<縄張り>かも!? |
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