ロコモーションの話 ー ガラガラヘビの sidewiding ロコモーション |
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2021年2月20日 KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 カピバラと他の水棲齧歯類との運動特性の比較をこれまで行ってきました。最終的にビーバーの尻尾の扁平化の持つ機能的意義について考察しようと思いますが、その前に途中追加的にロコモーション関連の話をまた〜りと採り上げます。その第17回目です。運動性に関することですので、youtube からの動画資料を多くお借りしての解説です。 爬虫類についてのお話の13回目です。 本コラム作成の為の参考サイト:https://ja.wikipedia.org/wiki/ヘビhttps://en.wikipedia.org/wiki/Snakehttps://ja.wikipedia.org/wiki/ダイヤガラガラヘビhttps://en.wikipedia.org/wiki/Diamondback_rattlesnakehttps://ja.wikipedia.org/wiki/ピット器官https://en.wikipedia.org/wiki/Infrared_sensing_in_snakeshttps://ja.wikipedia.org/wiki/ブラックマンバhttps://en.wikipedia.org/wiki/Black_mambahttps://ja.wikipedia.org/wiki/ウミヘビ科https://en.wikipedia.org/wiki/Sea_snakehttps://ja.wikipedia.org/wiki/エラブウミヘビhttps://en.wikipedia.org/wiki/Black-banded_sea_krait沖縄県庁ホームページ ハブの被害https://www.pref.okinawa.lg.jp/site/hoken/eiken/eisei/habunohigai2.htmlhttps://ja.wikipedia.org/wiki/ハブ_(動物)https://ja.wikipedia.org/wiki/クレオパトラ7世https://en.wikipedia.org/wiki/Cleopatrahttps://ja.wikipedia.org/wiki/ベローシファカhttps://en.wikipedia.org/wiki/Verreaux%27s_sifakahttps://ja.wikipedia.org/wiki/フォッサhttps://en.wikipedia.org/wiki/Fossa_(animal) |
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ガラガラヘビの sidewiding ロコモーション 身体をS字型にくねらせて進む場合には進行方向軸に対する回転運動が発生しますが、これにも拘わらずに滑らかに前に進めるのは、これを複数のS字(カーブが逆方向)をほぼ同時発生させることで相殺し、体幹の背骨の長軸に沿った進行方向のみの運動エネルギーを出力して進む事が出来る訳です。まぁ、巨視的に見て、左右に進む運動のベクトル成分を作用+反作用に拠り帳消しする訳ですね。 では、この左右のバランスを崩したらどうなるでしょうか?サイド方向に向かう運動成分が帳消しにされなくなり、ヘビの身体全体が側方に移動することになります(正確には前方斜め側方)。 1つの考え方としては、左側のS字カーブのアンカーポイントに、より大きな摩擦力を生じる様に体重を掛け、右側のそれを弱くしてバランスを崩せば、左右方向への運動ベクトルが相殺されず、自ずと右サイド(実際には右前方方向)に進む (sidewiding サイドワインディング) 事になることが予想されます。アンカーポイントに掛かる体重を違ったものにするには、左右のS字カーブの曲率を変える(右に進むには右側のS字カーブを浅くする)、或いは進行方向反対側のアンカーポイント間の体幹を浮かし、その重量をアンカーポイントに強く掛ける、進行方向側のアンカーポイントを浮かせ気味にする、などすれば可能かも知れません。まぁ、右カーブと左カーブ周辺で産生される左右方向の力成分の差に拠り、砂なる媒体の上で横方向に身体が押し出され、滑りを惹き起こすと原理的には単純に考えられそうです。 この方式では、体幹の前半が作ったネジの溝の上を後半がなぞる様なことは出来ず、S字カーブ付近のアンカーポイント自体がヘビがS字波を後方に送る過程で側方にずれて進む事になります。従って砂の上には横方向への連続的なアンカーポイントの軌跡が描かれるでしょう。この点で、大げさな表現かもしれませんが、一般的なS字型のヘビのロコモーションとは一線を画する異なるロコモーションと言えるかと思います。即ち、ここにスケートモデルは成立しません。静かに身体をくねらせて悠然と進むヘビの神秘性は消え、騒がしい機械の様なロコモーションになります。身体の前方が描いた軌跡上をなぞりながら前方推進力を産生する一般型のヘビのロコモーション機構とはまた異なった複雑な制御性に基づく訳です。エッジを効かせて踏ん張る時のみ腹鱗横のウロコを立たせ、横滑りするときはウロコを寝かせるなどを迅速に切り替えを行っている可能性もありそうです。横滑りしますので、砂漠のような粒子の細かい滑らかな地表以外では行うのは困難でしょう。即ち、エッジを効かせる事が出来、且つ滑りやすい地表面である必要があります。もしかするとガラガラヘビは雪上でもサイドワインディングが可能かもしれません。寒さで動作不能になる可能性もありそうですが。凸凹の大小の岩が散在する様な場所では身体が引っかかってしまいますので sidewiding は出来ませんね。 |
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進化的には、左右非対称性の運動が先に起きたと考えるのは<不自然>であり、S字カーブで前に進む左右均衡ロコモーションからの派生としての sidewiding と考えるべきでしょうね。 ヒトの二足歩行性の傍流と言えるかと思いますが。マダガスカル島に棲息するシファカと言う原猿 (キツネザルの仲間)がいます。因みにマダガスカル島は、原始的な哺乳類が生存した時期にそれぞれ大陸から切り離され、新たに進化した競争相手が侵入しないが故に古いタイプの動物が独自の発展と現在に至るまでの生存を迎えた点で、オーストラリアに似ています。シファカは樹木の垂直の幹の間をしがみつきながら跳躍して移動するのですが、地面に下りると、体幹のいずれかのサイド方向に二足でスキップして進みます(side-ways bipedal hopping サイドウェイズ バイペダル ホッピングと呼ぶ)。時々左右を交替してスキップしますが、ガラガラヘビの sidewiding が同じ様に進行方向を左右に切り替えるのかどうか知りたいですね。或いはヒトの利き手の問題と同じく、個体または種としてどちらに進むのかが決まっている、好みがあるのとか? さて、S字蛇行の前方推進力が体幹各部の円滑な協調性を持ち集積され、ヘビの一本の体幹長軸に沿う推進力を生むのに対し、サイドワインディングでは体幹の各節が産生するパワーを複数箇所纏めて推進力として(横方向に)一気に纏めて発動出来る点で、滑らかな地表があればですが、速度も稼げ、1つの進化した這いつくばり式ロコモーションと言えると思います。まぁ、電車がところどころに動力車を挟んでそれらの協調的な出力和で線路を進む場合は、各動力車が最大パワーを出力するに至るのは制御が容易ではないと思いますが、各動力車が横方向を向いて緩く連結し、各々最大パワーを最初からフル出力して進む様な感じでしょうか。ガラガラヘビの場合砂上を時速33kmで sidewinding 出来ると報告されています。ウマの高速ロコモーション即ちギャロップになぞらえてヘビのギャロップと呼ぶ例も見られますが、機構は全く異なっています。この横滑り方式のロコモーション映像を見ている限り、動きが速すぎて混乱してしまい、一般の方はどの様な機構で進むのか全く理解が出来ないのではないでしょうか?上から二次元的に俯瞰して機構を考えようとしても判らないままで、3D的なデータ、特に腹側からの挙動を観察してデータを得て、初めて理解が可能になるでしょう。 |
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ガラガラヘビ(本邦のハブとマムシにやや近い)の sidewiding の機構の詳細並びにその進化的獲得について再検討すると面白そうに思います。院長も圧力センサーの板を敷き詰めた上にヒトを歩行させてパターンを解析した経験が有りますが、より高感度な感圧センサーを床に敷き詰め(滑らか且つウロコのエッジが効く素材)、ガラガラヘビを歩行させたらと思います。四方からから3D運動性を記録し、電波式の筋電センサーを体幹の各部に複数植え込み、筋骨格系の形態機能、更には神経系の制御機構まで解明出来れば大論文の大方の出来上がりとなりそうです。・・・只一つ老婆心ながら申し添えますが、マーカーや電極の取り付け中、或いはデータ収集中などに怒ったガラガラヘビに噛まれて殉職することの無きよう呉々もご注意の程を!麻酔を掛けたつもりが相手が寝た振りをしていていきなり噛み付いた、ではちょっと洒落になりません。 |
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因みに沖縄に棲息するハブProtobothrops flavoviridis は世界3大毒蛇の内の1つとされ、噛まれるとその血液毒に拠り、組織がぼろぼろになり壊死して脱落するとの惨状を呈します。結果として大方は切断を余儀なくされますが、早めに血清治療を受ければまだしも軽く済みますが、それでも1ヶ月程度の入院が必要になります。他方、ブラックマンバ Dendroaspis polylepis の方は神経毒であり、獲物が痺れて抵抗性を失っているところを丸呑みするとの作戦で、毒が解毒されれば後遺症なく終わりますが、無治療だと致死率100%になります。まぁ、呼吸筋麻痺か心臓麻痺でしょう。 因みにガラガラヘビは水中ではS字に身体をくねらしながら他のヘビと同様に前方に進みます。水中では左右非対称的に力の掛かるアンカーポイントを作ることが出来ずに空回りしてしまい、側方移動は実質困難と言うことなのでしょう。また水の横方向からの抵抗を大きく受けることに成りますので、進めたものでは無くなりそうです。ウミヘビ同様、魚スタイル、船の櫓漕ぎ方式に素直に戻る訳です。逆に考えれば、サイドワインディングロコモーションは、ヘビの地上(地表)生活性、特に砂漠生活性への高度な適応と工夫!に拠って二次的に獲得されたロコモーションと言えるでしょう。 次回にて別の方式のヘビ型動物のロコモーションに触れます。ヒントは、身体全体としてS字カーブを次第に小さくしていったらどの様なロコモーションに切り替わるのか、です。ちょっとカタツムリのロコモーションに似ています。 |
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