ロコモーションの話 ー ヘビの rectilinear locomotion @ |
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2021年2月25日 KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 カピバラと他の水棲齧歯類との運動特性の比較をこれまで行ってきました。最終的にビーバーの尻尾の扁平化の持つ機能的意義について考察しようと思いますが、その前に途中追加的にロコモーション関連の話をまた〜りと採り上げます。その第18回目です。運動性に関することですので、youtube からの動画資料を多くお借りしての解説です。 爬虫類についてのお話の14回目です。 以下本コラム作成の為の参考サイト:https://ja.wikipedia.org/wiki/ヘビhttps://en.wikipedia.org/wiki/Snakehttps://ja.wikipedia.org/wiki/ボールニシキヘビhttps://en.wikipedia.org/wiki/Ball_pythonhttps://ja.wikipedia.org/wiki/ヤスデhttps://en.wikipedia.org/wiki/Millipedehttps://ja.wikipedia.org/wiki/有爪動物https://en.wikipedia.org/wiki/Onychophora |
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rectilinear locomotion 直線型ロコモーションとは ヘビのもう一つのロコモーションとしては、 rectilinear locomotion 直線型ロコモーションと言う、身体をまっすぐにしたまま筋収縮の一種の粗密波を体幹の表層に沿って発生させて前進する方法があります。体幹を左右にくねらせること無く、腹鱗を次々と立てて波として送る、要はギャロップ時のウマの前肢後肢の役割を、多数の分節的運動として鱗に行わせる方法です。この方法であれば進行方向の左右幅が自分の身体の幅以上に必要なく、一本のパイプの中もスムーズに進める筈です。2018年に Newman らがこのロコモーションに付いての詳細な機能形態学的解析を行っています。興味の有る方は以下をご参照下さい: Newman, Steven J., and Bruce C. Jayne. “Crawling without Wiggling:Muscular Mechanisms and Kinematics of Rectilinear Locomotion inBoa Constrictors.” Journal of Experimental Biology,The Company of Biologists Ltd, 15 Feb. 2018,jeb.biologists.org/content/221/4/jeb166199.https://jeb.biologists.org/content/221/4/jeb166199ここから無料で読めます 節足動物の多足類の中にヤスデが居ますが、長い体幹の下に配置した多数の各脚(各体節ごとに左右2本ずつ)を遊脚させて前方に送り、媒体に着地してから着地点をアンカーポーイントにして脚を後方に送り前方推進力を得ます。この遊脚の波が体幹の後方から波動として前方に伝わります。また節足動物に近い仲間に有爪(ゆうそう)動物なる聞き慣れない仲間が存在し、カギムシがこれに該当するのですが、長い体幹の下に伸びたイボ脚を利用して波動を起こして前進します。 直線型ロコモーションのヘビも似た様な神経制御機構で体幹筋に伸縮の波動を送り、浮かせた鱗(遊鱗?)の波が後方から前方へと伝わる様に見えます。まぁ、鱗をヤスデやカギムシの脚の様に地面に接触させて利用している訳です。脊椎骨同士の間の距離を大きくは伸び縮みはさせられない筈ですので、基本は脊椎骨間の距離をほほ保ったまま、体幹の筋肉+肋間の距離を伸ばしたり縮めたりの伸縮波を送りながら進むことになる筈です。これに異なり、ヤスデやカギムシは体幹自体に疎密波は発生させずに、脚のみで前進する動きであることです。ヘビが直線的に滑らかに前進する姿は、機構は全く異なりますが、カタツムリが前進する姿を彷彿とさせ面白いです。 |
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但し、ヘビのこの方法ではS字蛇行型と異なり、水中で推進力を得ることが理論的に期待出来ませんので、これを専ら地上で行うヘビを水中に投げ込んだ時にどの様な反応を示すのか興味深いです。左右に体幹をくねらせた蛇行型ロコモーションに<戻って>泳ぐのかどうかですね。或いはひょっとしてそのまま溺れてしまったり・・・。因みにヤスデとカギムシは地上性が強く、これらの仲間には水中生活者はひとつも見られません。水中ではこのロコモーションのメリットは無さそうで、矢張りヘビ同様地表表面を這うのに特化した体型+ロコモーションと言えそうです。水中ではこの方法では空回りしてしまい、推進力をとても得られそうにはありません・・・。 |
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爬虫類の脊椎骨並びにその周囲の筋の配置は、体幹を左右方向にくねらせる関節機構 (joint mechanism) が基本ですので、脊椎骨を背腹方向に屈伸するシャクトリムシの様なロコモーションが執れずに筋肉のみでの動きとせざるを得なかった可能性もあるでしょう。 以前、20年程前の話になりますが、付き合いのあったペット店から飼育中のヘビが死んだので学術標本として寄贈したいとの申し出を受けました。貰ったヘビはボールニシキヘビでしたが、これは性質も大人しくペットとして一般的に飼育される種です。死体に触れて驚きましたが、体幹が左右にくねくねとしなる一方、背腹方向には僅かにしか動かせず、脊椎骨の関節構造が左右方向の動きしか許容しない構造となっている事に改めて気が付きました。基本は二次元平面上を這い進む構造と言う訳です。骨格構造からしてS字型の運動に特化していることになりますが、昔から伝わる竹細工のヘビそのものでした。この様な事から、直線型ロコモーションのヘビの椎骨の関節構造がどの様なものなのか、機能形態学的に興味があります。と言うか実物を手にして観察すればすぐに結果は分かりそうですが。 |
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