ロコモーションの話 ー ミミズトカゲのロコモーション |
||
2021年3月5日 KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 カピバラと他の水棲齧歯類との運動特性の比較をこれまで行ってきました。最終的にビーバーの尻尾の扁平化の持つ機能的意義について考察しようと思いますが、その前に途中追加的にロコモーション関連の話をまた〜りと採り上げます。その第20回目です。運動性に関することですので、youtube からの動画資料を多くお借りしての解説です。 爬虫類についてのお話の16回目です。 本コラム作成の為の参考サイト:https://ja.wikipedia.org/wiki/有鱗目_(爬虫類)https://en.wikipedia.org/wiki/Squamatahttps://ja.wikipedia.org/wiki/ヘビhttps://en.wikipedia.org/wiki/Snakeミミズトカゲ亜目https://ja.wikipedia.org/wiki/ミミズトカゲhttps://en.wikipedia.org/wiki/Amphisbaeniaアカミミズトカゲhttps://en.wikipedia.org/wiki/Amphisbaena_albaアカミミズトカゲの生態https://www.researchgate.net/publication/271803270_Ecology_of_the_Worm-Lizard_Amphisbaena_alba_in_the_Cerrado_of_Central_Brazil/link/55845a6208ae71f6ba8c46c5/download誰でも無料で全文が読めますフタアシミミズトカゲ科https://en.wikipedia.org/wiki/Bipedidaehttps://ja.wikipedia.org/wiki/ミミズhttps://en.wikipedia.org/wiki/Earthwormhttps://ja.wikipedia.org/wiki/反復説https://en.wikipedia.org/wiki/Recapitulation_theoryhttps://ja.wikipedia.org/wiki/エルンスト・ヘッケルhttps://en.wikipedia.org/wiki/Ernst_Haeckel |
||
ミミズトカゲとは 爬虫類の仲間の内、トカゲ(トカゲ亜目)とヘビ(ヘビ亜目)は有隣目なるグループに分類されます。ミミズトカゲの仲間は以前はこの中のトカゲ亜目に分類されていたのですが、現在ではトカゲとは別のグループの動物(ミミズトカゲ亜目)として分離・独立して扱われます。外見的にも、輪ゴム(環節)を積み重ねたような特異な形態を呈し、環形動物のミミズの外見に類似します。しかも前肢2本のみが遺る種(腰の骨は痕跡的に存在する)、四肢を完全に欠く種、など四肢の本数も変異を示します。ちょっと奇妙な生き物であるのは間違いがありません。特に、前肢2本だけ遺る種は現生種として3種存在するのですが、これは素人を驚かすに十分なインパクトがあります。 トカゲがヘビ化したアシナシトカゲの仲間は、トカゲと同じくトカゲ亜目に分類されますが、これと比べても全く異なる外見であり、トカゲの仲間に加えるのには意義が申し立てられて当然だ、と感じます。 地中生活性に高度に特異化した進化を遂げており、四肢の退化傾向に加え、地面に穴を掘削するに適した尖った頭部形態、視覚と聴覚の退化傾向、体表の環節様構造の発達、皮膚色素の消失傾向が見られます。化石記録に乏しく、どのようにしてミミズトカゲがトカゲから分岐・進化したのかはまだ不明です。 まぁ、ここで強調しておきますが、ヘビ型動物ではあっても真のヘビではありません!似て非なるものです。有隣目にはアシナシトカゲ、ヘビ、ミミズトカゲと、<足無し系>の三兄弟が揃う訳です。 |
||
ミミズトカゲのロコモーション ミミズトカゲは地表では軽度にS字蛇行して進む事も出来ますし、水中でも同様に軽度にS字蛇行します。何もミミズの様に体幹の各部分を伸縮させて進む遣り方のみに限定されることはありませんが、矢張り地表でもS字蛇行よりは直進で進むのが本分の様に見えます。当然乍ら地中のトンネルを移動する際には、体幹の背面、側面、腹面の全てを取り巻く環節様の皮膚を伸縮させ、縮めて直径が太くなった部位をトンネル壁面に接触させ、そこをアンカーポイントにして隣接する部位を伸ばして前進する機構で進みます。これは地表型の直線型ロコモーションを示すヘビの方法を、腹面に限定せずに体幹の全ての表面を用いて行う点で、確かに地中生活性への強い適応を窺わせる形質です。違う点は、地表型の直線ロコモーションのヘビが、腹鱗−屋根瓦状に配列し方向性を持ちます−を立てて地面に食い込ませて進む関係上、バックには進めないのですが、ミミズトカゲの場合は環節様の皮膚隆起で接触するゆえ後進が出来る分、優れています。直進型ロコモーション関しては、ヘビのそれよりはミミズトカゲの方が完成度がずっと高い様に見えてしまいます。 因みにミミズトカゲ亜目の学名 amphisbaena ですが、 https://www.etymonline.com/word/amphisbaenafabled serpent of ancient times, with a head at either end, late 14c., amphibena, from Medieval Latin, from Greekamphisbaena, from amphis "both ways" (see amphi-) + stem of bainein " to go, walk, step," from PIE root *gwa-"to go, come." ギリシア語の amphisbaena (amphis "both ways" + stem of bainein "to go, walk, step,"、即ち、前後両方向に進む、に発し、14世紀後期に amphibena (前後に頭を持つ寓話上のヘビ)の言葉が現われた、とあります。上手い学名を付けたものと感心します。 ミミズと異なり背骨を持ち、体幹の真の長さを変動させる事は不可能です。従って脊椎骨を取り巻く筋肉+皮膚のみを伸縮させて推進の為の波動を作り、それを前後に送ることで前進、後進をするしかありません。勿論、肋骨も前後に動かしている筈です。外見的には似た様なロコモーションですが、実際にはミミズよりは遙かに高等な機構で制御されている様に見えます。 |
||
前回のコラムで、ヘビの直線型ロコモーションの詳細な機構を解明したとの論文をご紹介しましたが、どうせならミミズトカゲで行っても良かったのにと院長は思います。尤も、その論文はヘビの第四のロコモーションを解明したとの触れ込みゆえ、ヘビでは無い生き物を扱う訳には行かなかったのかと、斜めに考えてしまいました。ヘビに限定されず、何故ヘビ型動物にまで視野を広げないのか多少訝しくも感じてしまうのです。その内、ミミズトカゲ、アシナシトカゲ、ヘビの間の比較機能形態学を実証のベースにした進化の仕事を誰かが遣ってくれる事を期待します。院長は仮説までは構築し得てはいるのですが・・・。 因みに2本の前肢の遺るミミズトカゲのロコモーションも、四肢の無いものと大差なく、前肢は補助的に利用する程度に留まります。地中生活でトンネルを進むには前肢は寧ろ邪魔になりますので、裏を返せば、フタアシミミズトカゲは地中生活性への適応度からは幾らか劣る生き物だ、との解釈で間違っていないと思います。 系統発生は個体発生を繰り返す、とのエルンスト・ヘッケルの反復説に拠れば、ヘビや、アシナシトカゲ、ミミズトカゲの発生途中の胚を<卵の殻割り>して観察すれば、魚に似た段階から次に四肢が芽生え、それが再び失われる過程が観察されるのかも知れません。研究方法的には古典的に近い手法ですが、実際に計画を組む手間が大変そうです。院長はこの辺の発生学に関する知識を欠いていますが、ご存知の方がおられましたらご連絡戴ければと思います。 ヘビ並びにヘビ型動物のロコモーションの話は今回で終わり、次回からは再び手足のある爬虫類のロコモーションに戻しますね。次はゴツい甲羅の奴にしましょうか。 |
||