ロコモーションの話 ー カメのロコモーションA |
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2021年3月15日 KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 カピバラと他の水棲齧歯類との運動特性の比較をこれまで行ってきました。最終的にビーバーの尻尾の扁平化の持つ機能的意義について考察しようと思いますが、その前に途中追加的にロコモーション関連の話をまた〜りと採り上げます。その第22回目です。運動性に関することですので、youtube からの動画資料を多くお借りしての解説です。 爬虫類についてのお話の18回目です。 以下、本コラム作成の為の一部参考サイト:ttps://ja.wikipedia.org/wiki/爬虫類https://en.wikipedia.org/wiki/Reptilehttps://ja.wikipedia.org/wiki/カメhttps://en.wikipedia.org/wiki/Turtlehttps://ja.wikipedia.org/wiki/主竜類https://en.wikipedia.org/wiki/Archosaurhttps://ja.wikipedia.org/wiki/主竜様類https://en.wikipedia.org/wiki/Archosauromorphahttps://ja.wikipedia.org/wiki/鱗竜形類https://en.wikipedia.org/wiki/Lepidosauromorphahttps://ja.wikipedia.org/wiki/ガラパゴスゾウガメhttps://en.wikipedia.org/wiki/Gal%C3%A1pagos_tortoisehttps://ja.wikipedia.org/wiki/板歯目https://en.wikipedia.org/wiki/Placodontiahttps://ja.wikipedia.org/wiki/モササウルス科https://en.wikipedia.org/wiki/Mosasaur |
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カメの進化 他の爬虫類との関係を見ると、昔の分類とは異なって、現在のところ、カメは、主竜類の仲間とされ、詰まりは恐竜、ワニ、トリに幾らか近い仲間であって、ヘビやトカゲを含む有隣目−こちらは鱗竜類−とは系統的に離れるとされています。爬虫類の系統分類は、1つには頭蓋骨の構造の違いに拠り従来より行われて来ていますが、これに拠ればカメの頭蓋骨の構造は眼窩以外に穴が無く(無弓類 Anapsida)、原始的な特徴の爬虫類とも考えられて来ました。遺伝子の解析の結果は主竜類−頭蓋骨に眼窩以に2つの窓が開いている(双弓類 Diapsida)−に近いとの結果をもたらしましたが、これからカメの頭蓋骨が二次的に特殊化した、詰まり2つの穴が閉じたのだろうとの結論に達した訳です。尤も、カメの系統分類的な位置に関してはこれで確定した訳では無く、個体発生の研究からは、現生の他の爬虫類とは異なった系統であるとの仮説も提出されています。カメの系統に関しては、まだ、謎を孕んでいる訳です。形態学徒である院長としては、二次的に頭蓋骨が別の爬虫類に近似したとの説はまだ納得が行かず、寧ろ、遺伝子の比較の方に問題があったのではとも考えてしまいます。因みに<弓>とは穴と穴との間のブリッジ状の構造を言い、哺乳類の頭蓋骨の場合は眼窩以外に穴が1つ開いていますので、詰まりは弓が1つの単弓類 Synapsida と呼称する事になります。 ロコモーション的には、鱗竜類が爬虫類の基本形である這いつくばりの蛇行方式で進むのに対し、主竜類の方は、四肢は体幹の下方に保ち、哺乳類に接近した動かし型でロコモーションする傾向が強いので、この分類が正しいので有ればカメの祖先もその様な歩容だったのかもしれませんね。 実際のところ、蛇行方式がメインのロコモーションである鱗竜類では、胴体を左右にくねらせる必要性から、そのままでは、<カメの甲羅の様な一体構造+それからはみ出した四肢での推進力産生>のスタイルへは進化しにくかった様にも思います。少なくとも途中の段階に、体幹をくねらせる蛇行方式では無く、四肢を主たる<漕ぎ手>として利用する祖先が介在し、それが次第に体幹を重武装化して行ったと考える方が自然です。 即ち、S字蛇行方式を軽減し、四肢を利用してのロコモーションに傾いた系統がカメの進化を考えるに祖先として妥当性がある事から、カメが主竜類の仲間であると考えるのはロコモーションの観点からは合理性がある訳です。 |
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カメの水中起源説 ところで、板歯類なるグループが存在するのですが、系統的にトカゲなどに近い鱗竜類に含める者も居れば、主竜類に属するカメに近いとの説も提唱されています。まぁ、分類は兎も角として、この仲間にはカメの様な甲羅構造を持つものが一部存在していました。板歯類は全て水棲であり、体幹を細長く伸ばして肋骨を発達させて胸郭を堅固化した化石種 Placodus プラコドゥスが得られています。これの復元交連骨格標本(交連骨格標本とはバラバラの標本では無く組み立てた標本のこと)は、プラコドゥスが四肢の骨格構造を随分と哺乳類に近いものとしているとの感想を抱かせるに十分です。長大な尻尾の存在を考えると体幹の蛇行運動性は残しつつも、四肢を櫂にして水中を遊泳する大きなパワーを得ていた動物である事が理解出来るものです。この様な種が、更に肋骨を強化し幅を拡大化して胴体を紡錘形に固め、飛行機の胴体 fuselage フュースラージ化し、カメと似た様な一体化した構造、即ち甲羅を得たのではないかと考えます。即ち、胴体の蛇行方式を捨て、ロコモーション的には四肢を櫂として専ら利用するのがメインとなる様に進化し、更にその一部がカメもどき化したのではないかとの可能性を院長は想像します。有隣目はおしなべて体幹が細長いのですが、海洋に進出して巨大化したトカゲであるモササウルスでは水中生活性への適応として体幹が飛行船のように<胴体化>していますが、板歯類も同様の進化を遂げ、更には一部は甲羅を背負うに至ったのでしょう。体幹即ち甲羅が偏平化したのは遊泳時の安定化に有利だった可能性はありそうです。まぁ、哺乳類ですらアルマジロの様に甲羅(但しダンゴムシの様に背腹に可動性を持つ)を背負い込む種が出てますので、爬虫類にカメぐらい居ても悪くはないかと・・・。 カメの祖先も板歯類と同様の進化を遂げ、甲羅を背負い込むに至ったと考えて良いだろうと考えます。即ち、、カメの水中起源説です。尤も、最初に肋骨の幅の拡張が起きて互いに癒着し始めたのは穴掘り性への適応であり、それが後に自身を守るための甲羅となったとの説もあります。穴掘りして進むには抵抗を減らすべく、体幹は出来るだけ円筒形に近い紡錘形である方が有利ですので、その様な形態の内に肋骨の癒合が開始した筈ですが、体幹の柔軟性を失い、<弾丸構造>化することが真に穴掘りに適応的で有ったのか更に説明が欲しいところです。 カメは全て左右方向に幅を広げて偏平化した甲羅を持って居ますが、この様な形態では地中に穴を掘り進めるのは困難となります。これは水中遊泳時の安定性が得られるなどの機能的合理性に向けての改変だったと考えるのは合理性があります。何よりも四肢の基部を胸郭の内側に引っ込めていますので、上腕骨と大腿骨は水平化し、体重を支えるには不利な配置ですが、水中で浮力を得ながら四肢の先の方でパドリングするには悪くありません。以上から院長はカメ形態の水中起源説を提唱します。 僅か数名の古生物学関与研究者が思いつきレベルのことを述べて論文化する様を見ていつも苦々しく感じていますが、カメの進化に関しても運動性の進化の視点を持たずして場当たり的な解釈を加えているものと感じ、疑義を抱いています。カメの系統分類、形態学、生理学などに細分化した研究者が殆どですが、ロコモーションから進化説の妥当性を論じる者は大変少ない様に見え、残念に思います。 |
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