ロコモーションの話 ー カメのロコモーションB |
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2021年3月20日 KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 カピバラと他の水棲齧歯類との運動特性の比較をこれまで行ってきました。最終的にビーバーの尻尾の扁平化の持つ機能的意義について考察しようと思いますが、その前に途中追加的にロコモーション関連の話をまた〜りと採り上げます。その第23回目です。運動性に関することですので、youtube からの動画資料を多くお借りしての解説です。 爬虫類についてのお話の19回目です。 以下本コラム作成の為の参考サイト:https://ja.wikipedia.org/wiki/爬虫類https://en.wikipedia.org/wiki/Reptilehttps://ja.wikipedia.org/wiki/カメhttps://en.wikipedia.org/wiki/Turtlehttps://ja.wikipedia.org/wiki/アカミミガメhttps://en.wikipedia.org/wiki/Pond_sliderhttps://ja.wikipedia.org/wiki/ナガクビガメ属https://en.wikipedia.org/wiki/Chelodinahttps://ja.wikipedia.org/wiki/セマルハコガメhttps://en.wikipedia.org/wiki/Chinese_box_turtlehttps://ja.wikipedia.org/wiki/源実朝https://ja.wikipedia.org/wiki/イチョウ |
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水棲カメのロコモーション 現生のカメは、生活様式からは、完全に陸生で一生を地表で過ごす種、淡水或いは海洋に棲息して雌個体が産卵時のみ浜辺に上陸する種、水辺を好むが地表生活性も示す水陸両棲の種の3種に大別されます。当然乍ら、生息環境に応じたロコモーションスタイルを採っていることになりますが、全てが甲羅を抱えているとの形態的な制約の中で、おのおのがどの様なロコモーション上の<工夫>をしているのか、そしてそれがどの様な基本形から派生したのかを理解する姿勢が鍵となります。 まず最初に、幾つかの実際の水棲のカメのロコモーション、詰まりは遊泳の方法を見ていきましょう。 |
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アカミミガメ Pond slider Trachemys scripta 数十年前に幼体の甲羅模様の美しさから、アマゾンのミドリガメなる名前で大量に輸入されていたのがアカミミガメの仲間ですが、現在では本邦のみならず世界各地で野生化して生態系に悪影響を与えるまでに至っています。以前、三代将軍の源実朝 (1192−1219) を暗殺した甥っ子の公暁 (くぎょう)が隠れていたとされる大イチョウが倒れる (2010年に倒れた) 前の話になりますが、 鎌倉の鶴岡八幡宮に詣でた時に藤棚近くの小池を覗いたところ、大半が成体のアカミミガメで驚いた記憶があります。ここはタイワンリスが人に馴れて出没するなど外来勢に浸食されている場所に見えますが、実はイチョウ自体が13世紀に中国から渡来した<外来樹>とされており、当時に公暁が隠れるほどの大きさに成長していたのか、或いはそもそも植えられていたのかどうか疑わしいところもあります。院長が出掛けた当時、既に鎌倉は観光客で溢れており、裏道などでも住民の方が車を出せない程の混雑ぶりでした。こちらは<外来歩行者>と言う按配です。 本種は、実際はメキシコから米国南部のミシシッピ川流域などに極く普通に棲息しているカメであり、アマゾンとは関係がありません。ミシシッピアカミミガメ、カンバーランドキミミガメ、キバラガメの3亜種から構成されます。成体になると甲羅が灰緑色〜黒褐色の地味な色彩になるに加え、甲羅の縦方向の長さが30cm程度に達し、飼育するに持てあまして勝手に河川や池・沼に放たれた個体が増えている訳です。 ペットとして飼育する以上、どんな種であっても一生面倒を見る覚悟と経済力が必要ですが、長命なカメの場合は大人を交えたチームとして飼育する態勢を構築出来ない場合は手を出すべきではないと院長は考えます。子供が好奇心から手を出すのは止めるのが正解です。水棲のカメの場合、大量に餌を食べ、大量に排泄しますので、水が汚濁し易く、水替えを含めた管理を厭わない者−子供はこれが出来ません−が飼育する必要があります。また、水棲のカメ一般に当てはまることなのですが、腸内細菌として病原性の有るサルモネラ菌を持つ事例が多く (これは相当の昔に家畜伝染病学の講義で習いました)、小さな子供の居る家庭、免疫力の低下した者や調理人の家族を持つ家庭での飼育は止めるべきです。冬場の水温管理も必要になり、そこそこの設備が無いとカメの健康を保つことが出来ません。まぁ、水族館に出掛けて眺めるだけにするのをお勧めします。 院長宅では国内繁殖ものの セマルハコガメ Cuora flavomarginata と ジーベンロックナガクビガメ Chelodina siebenrocki を飼育して20年弱経過しますが、ワイヤーラックを組み立てて周囲を断熱材で囲い、ヒーター、温度調節器、照明、タイマーなどを完備して飼育しています。最初の設備投資に万単位を要しましたが、一旦システムが出来上がると維持費は余り掛かりません。水替えする時にさすがに重さが腰に来ますが、まだ堪えられます!年間でラック内の気温を25℃程度に保ち(水槽内にはヒーターは入れず、ラン育成用のヒーターを空いた棚に設置します)、カメは元気そのものです。もし飼育出来なくなった場合は、ペット店に依頼して次の飼育者を探しバトンタッチする積もりですが、特にセマルハコガメの方は家人に懐いており子供達が手放さないかも知れません。 |
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前置きが長くなりましたが!ロコモーションの話に入ります。アカミミガメは殆どを水中で過ごし、時々甲羅干しに石の上などに上がるだけで、地表を歩いて探検する習性は持って居ません。まぁ、相当に水棲の強いカメになります。 アカミミガメの水中遊泳ですが、時々左右の前肢を合わせてから左右同時に開くような動きを示すものの、基本的には、左右の前肢を交互に<漕ぎ>、その時前肢と同じ側の後肢を前後反対方向に動かします。詰まり、前肢を前方に伸ばす時に同側の後肢を後ろに伸ばし、前肢を後ろに引く時には後肢を前に突き出します。この動作をほぼ左右逆位相で行います。この動作は実はトカゲ、ワニなど他の爬虫類、はたまた哺乳類の一部の歩容としての地表ロコモーションで示される手足の繰り出しと基本的に同じ仕組みです。カメはトカゲやワニなどと異なって胴体自体を左右に折り曲げて蛇行させる事が出来ませんが、この手足の漕ぎ出し動作により、甲羅全体が軽度に左右に振れ、典型的な水棲カメのちょこまかした遊泳動作となります。院長宅のナガクビガメを改めて観察しましたが、アカミミガメの泳法と同じ遣り方でした。四肢の漕ぎ出しに伴い甲羅が左右に揺れますが、ナガクビガメでは首を左右にくねらせて甲羅の左右のブレを緩和し、まっすぐに水中を進むのに役立てている様にも見えます。水棲齧歯類のマスクラットが水面を遊泳中に、小刻みに尻尾を左右に振り、体幹に発生する左右方向のブレを抑えるだろう仕組みを想い起こさせ、面白く感じます。 マスクラットの遊泳ロコモーションに関しては、 https://www.kensvettokyo.net/column/202011/20201115/をご参照下さい。 |
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