ロコモーションの話 ー カメのロコモーションE |
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2021年4月5日 KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 カピバラと他の水棲齧歯類との運動特性の比較をこれまで行ってきました。最終的にビーバーの尻尾の扁平化の持つ機能的意義について考察しようと思いますが、その前に途中追加的にロコモーション関連の話をまた〜りと採り上げます。その第26回目です。運動性に関することですので、youtube からの動画資料を多くお借りしての解説です。 爬虫類についてのお話の22回目です。引き続き水棲カメのロコモーションについて扱います。 以下本コラム作成の為の参考サイト:https://ja.wikipedia.org/wiki/カメhttps://en.wikipedia.org/wiki/Turtlehttps://ja.wikipedia.org/wiki/ウミガメhttps://en.wikipedia.org/wiki/Sea_turtlehttps://ja.wikipedia.org/wiki/アボリジニhttps://en.wikipedia.org/wiki/Aboriginal_Australianshttps://ja.wikipedia.org/wiki/アーケロンhttps://en.wikipedia.org/wiki/Archelonhttps://ja.wikipedia.org/wiki/モササウルスhttps://en.wikipedia.org/wiki/Mosasaurushttps://ja.wikipedia.org/wiki/首長竜https://en.wikipedia.org/wiki/Plesiosauriaオートスラリア農業、水及び環境局https://www.environment.gov.au/marine/marine-species/marine-turtlesIndigenous culture and marine turtles"Marine turtles have important cultural and social values for Aboriginal and Torres Strait Islander people living in coastal areas of northern Australia. Hunting these species is important for maintaining family relations (kinship) and social structure, has important ceremonial and community purposes and also provides valuable protein in regions where fresh food is expensive and difficult to obtain."...先住民族文化とウミガメウミガメはオーストラリア北岸に居住するアボリジナル及びトレス海峡諸島民(パプア・ニューギニア人)にとって文化的、社会的に重要な存在です。これらの種(オサガメ以外の6種が棲息)を捕獲する事は家族関係並びに社会構造を維持するのに重要であり、集団に於ける儀礼上の目的を持つと同時に、生鮮食料が高価で入手するのが困難な地域に於ける貴重なタンパク源ともなります。 |
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ウミガメとは ウミガメとは文字通り海洋生活を送るカメの総称ですが、全種がカメ目ウミガメ上科 Chelonioidea に属し、現生種はウミガメ科とオサガメ科の 2科・ 6属・ 7種のみとなります。白亜紀には各地で多数種に分化、繁栄していましたが、その多くは絶滅し現在の種数に絞り込まれています。他の系統のカメの仲間で海洋性の種は存在せず、棲息域と系統が一致している訳ですが、元々は地表生活性であったカメの祖先が水圏に進出し、その中の単独系統が海洋に進出して水中生活性に向けての高度な進化、分化を遂げたと考えて妥当であり、事実、皆似た様な外観を呈しています。お互いに親戚と言う訳です。前回のコラムで触れたスッポンやスッポンモドキは海洋では無く、淡水、汽水域での水中生活への高度な適応形態を示しますが、ウミガメの仲間とは系統が違っています。まぁ、幾らかは他人のそら似と言いますか、似た様な環境に棲息すると進化圧を受けて似た様な形態機能を持つとの話です(収斂 しゅうれん 現象と言う)。 現生 7種の全てが絶滅の危機に瀕していると考えて良く、これはウミガメの産卵場所へのヒトの進出に拠る環境悪化、減少に加え、食用用途の捕獲などが主な原因ですが、核実験や海洋汚染などの原因で脳内のセンサーが攪乱され親ガメが産卵場所に戻ることが出来なくなるからだなどとも院長はだいぶ昔に聞いたことがあります。魚竜の様に卵胎生化し、上陸せずとも出産出来る様に進化すれば、産仔数が減っても子供の生き残る歩留まりが増え、個体数が維持出来る様にも思えますが、水棲カメの仲間は皆浜辺の砂浜などに穴を掘って産卵し、後は自然に任せたよと生み捨てするに留まり、幼体が敵から簡単に狙われてしまうとの一見不器用な生き方をしています。これではより進化した生き物の知恵の前には太刀打ちできません。卵胎生化に進化し得ないのは、1つには硬い甲羅で覆われている為、肥育する胎児を入れる十分な空間が確保出来ないこと、また肥育した幼体を出産する産道を確保出来ないなどからですが、硬い甲羅で外敵から身を守る選択が、産卵以外の道を塞いでしまったことになります。実は、これはトリなども同様で、飛翔する道を選んだために腹に重い胎児を抱えるわけには行かず、産卵するのみです。尤も、トリは敵の手の届かない場所に営巣し卵を守り、雛が成長するまで世話をするとの高度な解決法を見つけましたが。他の卵胎生の海棲爬虫類が滅びてしまった中で、ウミガメは何故かしっかりと現代に至るまで長らえていますが、これに関しては後のコラムでもう少し考察を加える予定です。 浜辺を備えた南洋の絶海の孤島は最早殆ど存在せず、必ずヒトなる霊長類が流入し、これブラス引き連れてきた哺乳類が住み着きますので、カメとその卵は彼らの格好の栄養源としてホイホイと捕獲されてしまう訳です。詰まり、ヒトと隔絶して生きた来たからこそ、ウミガメはこれまで命脈を保って来れた訳で、これが崩れるとすぐさま絶滅に向かう生き物の1つでしょう。と言う次第で、ヒトが立ち入り禁止の保護区を積極的に設ける以外にウミガメを絶滅から救う方途は無い様に見えます。 現在でも、オーストラリア北岸に居住するアボリジナル及び トレス海峡諸島民(パプア・ニューギニア人)に対しては、彼らの伝統漁法並びに食文化を維持するとの名目でオーストラリア政府がウミガメやマナティの一定数の捕獲を許可していますし、法制度は不明ですが、本邦も東京都管轄の小笠原諸島などの様にカメ肉が伝統食として食べ続けられている場所があります。特にカメ肉食に禁忌を設けていない地域であれば現在でも世界中で広く食べられているでしょう。この様な事よりも、浜辺などの生息環境の破壊、或いは大規模な換金・商業目的でのカメの卵の採取などが絶滅への最大の要因でしょう。以前動画で見たことがあるのですが、さるカリブ海の小島で、繁殖期のウミガメが一斉に浜への上陸を開始すると、現地民がワッと押し寄せ、数百等頭のカメを捕殺し、解体して取りだした卵を一斗缶に詰めていました。特に産業も無く貧しい彼らにとっては年に一度の換金性のあるボーナスが降って湧く訳ですが、この様な事を続けていれば短期間に絶滅するしかありません。残念ながら、数の維持の為に少しは残そうとの考えを持つ者が皆無であり、全てを捕り尽くします。まぁ、これでは浦島太郎の話などそれこそ夢物語で終わります。 |
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昔のウミガメ アーケロン 上でも触れましたが、現生種はウミガメ科とオサガメ科の2科・6属・7種しか棲息しません。嘗ては、世界各地に多数種が棲息しており、例えば古生物学の教科書や子供向け図鑑には必ず掲載されるアーケロンは、現生ウミガメに近縁な仲間ですが、7500万年前−これは恐竜絶滅の凡そ1000万年前−の、現在の米国のサウスダコタ付近に位置する内海に棲息していた最大種であり、全長約 4m、甲長 2.2m、頭骨長約 80cm、全幅 5メートル弱。体重は 2t に達したろうと推定されます。この内海周辺でのみしか発掘されないところから、外洋を回遊する習性或いはそこまでのは能力を持たなかった可能性が示唆されています。外洋の荒波に抗して遊泳する力が無かった可能性もありそうです。化石には手足を欠損した個体が多く、これは同時代に生きていた海洋性の大型トカゲのモササウルスに襲われたからだろうと考えられています。因みに、海洋に進出して高度に水中性に進化した恐竜は存在せず、彼らは基本的に陸生です。と言う次第で、一時は大トカゲが海洋での捕食者としての頂点に君臨していたのでしょう。同じくトカゲに近い仲間の大型爬虫類に首長竜−モササウルス同様に卵胎生と判明しています−も棲息しており、こちらもモササウルスと同じく恐竜絶滅時まで棲息していましたが、頭が小さく魚食がメインだったろうと考えられています。これでは当時のカメを襲うことは困難だった筈です。と言いますか、首長竜自体がモササウルスに補食されていた存在です。 アーケロンの背甲の肋間には隙間があり、少ない材料で機械的強度を維持した可能性が考えられ、また腹甲は各板の分離傾向が強いです。アーケロンも産卵時には浜に上陸した筈ですが、この時に重い甲羅を背負っていると砂浜を這い進む事も出来ず、軽量化に向かったのかもしれませんね。興味深い話ですが、巨体のクジラが丘に引き揚げられると自身の重みで肺呼吸が困難となり死ぬと言われています。甲羅が有れば肺は潰れずに済みますので、逆にこの点から、浜辺に上陸しても呼吸自体は確保出来ます。アーケロンの甲羅はこれに役立っていたのかもしれませんね。アーケロンの背甲はケラチン質の爪の様な板では無く、現生種のオサガメの様な革質様のもので覆われていた可能性があります。 次回コラムではウミガメの現生種について概観します。 |
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