Ken's Veterinary Clinic Tokyo

相談専門 動物クリニック

                               


























https://ja.wikipedia.org/wiki/ネズミ


https://en.wikipedia.org/wiki/Dipodidae







https://en.wikipedia.org/wiki/Caviidae

https://ja.wikipedia.org/wiki/テンジクネズミ科


https://ja.wikipedia.org/wiki/カピバラ

https://en.wikipedia.org/wiki/Capybara


https://en.wikipedia.org/wiki/Hydrochoerus

https://en.wikipedia.org/wiki/Lesser_capybara












 院長のコラム 2021年4月15日


 ロコモーションの話 ー カメのロコモーションG








ロコモーションの話 ー カメのロコモーションG




2021年4月15日

 KVC Tokyo 院長 藤野 健です。

 カピバラと他の水棲齧歯類との運動特性の比較をこれまで行ってきました。最終的にビーバーの尻尾の扁平化の持つ機能的意義について考察しようと思いますが、その前に途中追加的にロコモーション関連の話をまた〜りと採り上げます。その第28回目です。運動性に関することですので、youtube からの動画資料を多くお借りしての解説です。

 爬虫類についてのお話の24回目です。引き続きオサガメのロコモーションについて扱います。



以下本コラム作成の為の参考サイト:


https://ja.wikipedia.org/wiki/カメ

https://en.wikipedia.org/wiki/Turtle


https://ja.wikipedia.org/wiki/ウミガメ

https://en.wikipedia.org/wiki/Sea_turtle


https://ja.wikipedia.org/wiki/オサガメ

https://en.wikipedia.org/wiki/Leatherback_sea_turtle


https://en.wikipedia.org/wiki/Short-faced_bear


https://ja.wikipedia.org/wiki/ハヤブサ


https://ja.wikipedia.org/wiki/ダチョウ

https://en.wikipedia.org/wiki/Common_ostrich


https://ja.wikipedia.org/wiki/ベルクマンの法則

https://en.wikipedia.org/wiki/Bergmann%27s_rule


https://www.jstage.jst.go.jp/article/abm/52/2/52_98/_pdf

 分類群ごとにみた飼育動物の体重と摂取エネルギー量の関係

 三好智子ら、Animal Behaviour and Management, 52 (2): 98-105, 2016

 (全文無料で読めます)







https://www.deviantart.com/serchio25/art/bear-species-73640712

Copyright (C) serchio25 sergiodlarosa@hotmail.com


ベルクマンの法則に拠れば、内温性動物(=温血動物)のボディサイズは、赤道から

北極に向かうにつれてより増大します。図の左から、赤道直下に住む体重50kgの

マレーグマから体重720kgのホッキョクグマ、そして11000年前に絶滅した推定

体重975kg の short-faced bear まで大方ベルクマンの法則に従い配列します。


オサガメが大型化したのは、筋運動に拠り産生される体熱を外部に逃がさない為に

有利だったと考えられており、皮下脂肪、熱交換対抗流システムにと相俟って、爬

虫類にしては唯一の内温性化を得ていた動物と考えられます。まぁ、ベルクマンの

法則に外れない訳です。





https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/b/bd/ArctodusSimusReconstruct.jpg

Dantheman9758, CC BY-SA 3.0

<http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/>, via Wikimedia Commons


short-faced bear Arctodus simus 短面熊の復元図。体重は 1t 近くあります。

北米に広く分布していましたが11000年前に絶滅しました。






オサガメの寒冷適応戦略




 ボディサイズを大型化すると、体重当たりの体表面積を減らすことが出来、これは体熱が冷水により奪い取られる率を減らし寒冷環境では有利になります。生物学の教科書にはベルクマンの法則なる用語が必ず出て来ますが、これは、恒温動物に於いては寒冷地に棲息するものほどボディサイズが大型化するとの法則です。オサガメは恒温動物ではありませんが、酸素を取り入れて呼吸している以上、必ず体熱は産生されますので、矢張り大型化することは寒冷水域を遊泳する際には有利になります。

 ボディサイズの大型化以外にも、オサガメの寒冷水適応と考えられる幾つかの特徴があります。これには、広範囲に亘る皮下褐色脂肪細胞の分布、海水温に左右されずに作動する遊泳筋群、前肢のヒレと体幹部との間の熱交換血液対抗流の存在、それと気管を取り巻く熱交換血液対流網の存在です。

 オサガメは、現生の爬虫類の中では、熱代謝制御システム、即ち内温性に拠る高体温維持能力を持つ唯一の動物であると考えられて来ています。初期の研究は、オサガメが同ボディサイズの他の爬虫類に比べて基礎代謝が凡そ3倍であることを発見しました。しかしながら、個体発生中の全てのサイズのオサガメを使った最近の研究では、大型サイズの基礎代謝量は、アロメトリーの考えから事前に予測計算されていた値とは有意差が無い、即ち一致する事を発見しています。まぁ、基礎代謝が高い訳では無かった訳です。

 哺乳類や鳥類は爬虫類に比較すると格段に基礎代謝が高いですが、これは恒温性を維持すべく、酸素を多く吸い込んでエネルギー源を燃やし、特に肝臓や、筋肉、大脳で熱を産生し、それを血流を介して身体の各部に<配熱>する仕組みを採るからです。まぁ、エネルギー高消費型の生き物ですが、その分、活発な運動性が可能であり、脳での情報処理能力も向上しています。呼吸を効率化する為に、肺の組織構造が密になって表面積を増やし空気中の酸素を効率的にキャッチできる他、横隔膜を備えて胸郭内の肺に対して効率よくフイゴ運動をさせる事が出来ます。何よりも、筋肉中の酸素呼吸のカナメとなるミトコンドリア数を大幅に増大し、筋収縮の活動性を高めています。この様な、組織レベルまた肉眼解剖レベルでの改変を成し遂げていますので、これとは異なるオサガメの基礎代謝が基本的に高いものでは無かろうと最初から予想はされます。





図3  from 分類群ごとにみた飼育動物の体重と摂取エネルギー量の関係

三好智子ら、Animal Behaviour and Management, 52 (2): 98-105, 2016


体重当たりの食物採取量、体重当たりのエネルギー摂取量を比較した図。哺乳類と鳥類

(左側2つ)では行動様式やボディサイズに拠ると思われるばらつきが観察されますが、こ

れらに比較すると爬虫類、両棲類、魚類、頭足類(右側4つ)では格段に値が下がります。

即ち、これらの動物群は内温性(恒温性)を獲得して居らず、代謝的には極めて活性が低

いタイプの動物群であることが歴然としています。ボールニシキヘビPython regiusや、

ハスオビアオジタトカゲTiliqua scincoides に比べると、エミスムツアシガメ(陸ガメ)

Manouria emys並びにアオウミガメ Chelonia mydas の値はまだ幾らか高いですが、

哺乳類、鳥類と比較すると矢張り相当に値が低い動物です。オサガメの値は、もう少し

高い値が出そうにも思いますが、<壁>は超えていないと予想します






 実際のところ、オサガメは高い基礎代謝システムでは無く、高い活動性を上手く利用しています。野生下のオサガメの研究の結果、1日の内の休息している時間は僅か0.1% であり、詰まり前方に漕ぎ進める為の筋肉は始終熱を産生していることになります。筋肉に拠るこの熱産生とオサガメの熱交換対流システム、皮下脂肪、大型サイズとの組み合わせで、オサガメは周囲の海水よりも高い体温差を維持出来る訳です。成体のオサガメは周囲の海水温を超えて体中心部が18℃を示したことが知られています。まぁ、中身はホカホカですね。

 哺乳類が祖先の爬虫類から<改造>を受けて、如何に恒温性を獲得するに至ったのかについては、爬虫類と哺乳類とを繋ぐ哺乳類様爬虫類の解析が鍵を握るのですが、これに関しては後日扱います。ボディサイズが大型化して、内温性への進化を進めて来たオサガメの姿は、哺乳類や鳥類の恒温性獲得の道がどのようなものであったか、その1つのヒントを与えるのは確かだろうと院長は考えて居ます。

 オサガメは最も深海域に遊泳する脊椎動物の一つであり、海面下 1280m迄潜水したことが記録されています。通常は3−8分に一度呼吸しますが、時に、30−70分間無呼吸で潜水します。非鳥類型爬虫類 (トリを含めない爬虫類)の中では最速で移動する動物です (トリではダチョウが地上走行で最高時速 70km、平均時速 60km、ハヤブサで垂直降下時に時速 390kmが記録されています)。1992年のギネスブックに拠れば、オサガメは水中では時速 35kmで移動したと記録されますが、通常は時速 1.8−11km程度で泳ぎます。筋肉中のミトコンドリア数が他の爬虫類と大差ないとすれば、高速遊泳は短時間で不可能になると想像され、長時間での遊泳は期待出来ないでしょう。