ロコモーションの話 ー カメのロコモーションJ |
||
2021年5月1日 KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 カピバラと他の水棲齧歯類との運動特性の比較をこれまで行ってきました。最終的にビーバーの尻尾の扁平化の持つ機能的意義について考察しようと思いますが、その前に途中追加的にロコモーション関連の話をまた〜りと採り上げます。その第31回目です。運動性に関することですので、youtube からの動画資料を多くお借りしての解説です。 爬虫類についてのお話の27回目です。引き続きウミガメのロコモーションについて扱います。 以下本コラム作成の為の参考サイト:https://ja.wikipedia.org/wiki/カメhttps://en.wikipedia.org/wiki/Turtlehttps://ja.wikipedia.org/wiki/ウミガメhttps://en.wikipedia.org/wiki/Sea_turtlehttps://ja.wikipedia.org/wiki/ケンプヒメウミガメhttps://en.wikipedia.org/wiki/Kemp%27s_ridley_sea_turtlehttps://ja.wikipedia.org/wiki/アカウミガメhttps://en.wikipedia.org/wiki/Loggerhead_sea_turtlehttps://ja.wikipedia.org/wiki/アオウミガメhttps://en.wikipedia.org/wiki/Green_sea_turtlehttps://ja.wikipedia.org/wiki/オサガメhttps://en.wikipedia.org/wiki/Leatherback_sea_turtlehttp://ibimm.org.br/wp-content/uploads/2017/05/Wyneken-2001-The-anatomy-of-sea-turtles.pdfNOAA Technical Memorandum NMFS-SEFSC-470THE ANATOMY OF SEA TURTLESJeanette Wyneken, Ph.D. December 2001(後半にウミガメ内部を解剖した写真が掲載されていますので閲覧にご注意下さい。)https://www.researchgate.net/publication/250218759Do leatherback turtles Dermochelys coriacea forage during the breeding season? A combinationof data-logging devices provide new insights,Andrew Myers, September 2006, Marine Ecology Progress Series 322:259-267, DOI:10.3354/meps322259(全文無料で読めます)https://www.nationthailand.com/news/30378468The Nation ThailandJoy as leatherback turtle lays eggs on Phang-nga beach |
||
ウミガメ科の形態A 頭部形態 引き続き、以下、2001年に出版されたウミガメの解剖に関する網羅的な論文がありますので、それを参考にしながらお話を進めて行きます。 http://ibimm.org.br/wp-content/uploads/2017/05/Wyneken-2001-The-anatomy-of-sea-turtles.pdfNOAA Technical Memorandum NMFS-SEFSC-470THE ANATOMY OF SEA TURTLES by Jeanette Wyneken, Ph.D. December 2001 頭蓋骨形態ですが、これは特にウミガメに特徴的なものではなく、爬虫類一般に観察されることなのですが、鼻腔から入った空気が直ぐに口腔の上の壁の開孔部から口腔内に入ります。人間の場合はどうかと言うと、鼻から吸った空気は舌の収まる口腔とは別のルート(口腔の上の<2階>)を通って奥に向かい、喉で口腔と初めて繋がります。まぁ、呼吸のルートと食べ物のルートが別になっていて2つの間に薄い骨の隔壁((硬口蓋)が存在する訳です。爬虫類は呼吸する事と飲食する事が同時に出来ず、時間的に交互に切り替えて行います。食道と肺に向かう弁をその都度スイッチングして切り替え、肺への誤嚥を防止する方法です。仮に人間がこの構造だとすると大きな問題が生じてしまうのですがお判りでしょうか?−答えですが、赤ん坊が授乳されている時に乳を呑みながら呼吸する事が出来ずに困ってしまう訳です。腹は満ちても顔が真っ青になりますね。口腔に乳を貯めて、肺呼吸する時は肺への通路を弁で開き、次に乳を呑み込む時は食道への通路を開きます。仮に鼻からの空気が口腔の乳と混じれば肺の方に乳が入り命取りになりかねません。口にモノ(特に液体)を貯めながら呼吸する事が出来ない訳です。この構造は哺乳類以降に得られた形質で、文字通りの哺乳する動物の特徴です。爬虫類は口にモノを貯めながら呼吸は出来ませんが、元々呼吸頻度と呼吸量は少なく、食べている間に呼吸しなくとも問題にならないカラダ!ともいえるのですが。或いは歯牙の機能分化が低く、獲物を時間を掛けて咀嚼すること無く、丸呑みにして一瞬で呑み込む作戦でもありますね。哺乳類では、餌を口に詰めて咀嚼しながら(喉でスイッチを切り替えて)呼吸も出来る仕組みで便利に出来ています。成体でも効率的に餌を食べ消化することが可能になり、活発なエネルギー産生が可能になります。但し、この切り替えスイッチが誤動作したり、動きが悪くなったりすると、飲食物が肺に入り、大変に苦しい思いを味わうことになりますね。この様な、哺乳類化に向かう過程で得られた形質とその意義については後日、哺乳類様爬虫類の進化を交え詳述する予定です。 |
||
前回コラムにて、頭部の鱗の配列、数、形態や大きさの違いがウミガメを判別するのに役に立つ、と触れました。実は互いに似ている形態的特徴が頭部にありますが、お気づきでしょうか?− 他の爬虫類いや脊椎動物の全てを含め、眼裂−目を閉じた時のライン−はその動物の水平移動時の水平ラインに平行に位置していますが、ウミガメでは眼劣が皆斜めに位置しています。角度は45度程度に達しています。目は口ほどにモノを謂いますので、それがヒトには強烈な記憶と成って残ることになります。ウミガメ特有の容貌、ウミガメは皆同じ顔をしているとの塩梅です。どうしてその様な配置になっているのかですが、ウミガメの遊泳時に目を守る為では無いかと院長は想像しています。眼裂が水平だと遊泳時に涙が流されてしまい、また前方からの小さな障害物に対して防御するのが不利になりますが、瞼が斜めに配置していればこれらが一定程度−少ないかも知れません−は防止出来るのではないかと考えます。因みに、オサガメではこの眼裂の角度が更に垂直方に傾いています。これはオサガメの外洋性が強く、遊泳力も強大と考えられることに符合していることかもしれません。 |
||
ウミガメの腹甲を外して内部を観察すると、強大に発達した胸筋群が先ず目に入ります。それを除去すれば内臓を観察出来ますが、横隔膜が存在しませんので肺も消化管も一緒くたに詰まっていて、初学者には<わけわからん>となるのではないでしょうか?横隔膜に拠って胸腔を独立させ、肺のフイゴとしての機能を先鋭化させているのが哺乳類ですが、酸素を活発に効率よく取り入れて常に身体の火を燃やす戦略です。体重当たりの体熱産生量が哺乳類に比べて格段に低い爬虫類では、肺呼吸の要求度も高くは無く、胸腔を独立させる要求度は弱いと考えられます。横隔膜なんぞ要らないという訳です。尤も、トリや恐竜に近い、進化の進んで居ると考えられるワニでは、薄い組織構造ながらも横隔膜もどきが存在しています。 以前にも触れましたが、ウミガメの食道内部には逆流防止用の胃の方向に向かうトゲがびっしりと配列しています。この構造で一度呑み込んだ餌は腹圧が掛かろうとも口に戻らずに確実に胃に下すことが可能になります。これは特にクラゲなどのツルツルする獲物を食べる際に有効と考えられますが、間違って海中に浮遊するビニール袋を呑み込んだ場合に吐き戻すことが困難となり、生命の危険に晒されます。この様な、ウミガメの生物学的特性を踏まえてウミガメ保護の為の啓蒙活動を展開することが今後ますます重要になるでしょう。 |
||