ロコモーションの話 ー カメのロコモーションK |
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2021年5月5日 KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 カピバラと他の水棲齧歯類との運動特性の比較をこれまで行ってきました。最終的にビーバーの尻尾の扁平化の持つ機能的意義について考察しようと思いますが、その前に途中追加的にロコモーション関連の話をまた〜りと採り上げます。その第32回目です。運動性に関することですので、youtube からの動画資料を多くお借りしての解説です。 爬虫類についてのお話の28回目です。引き続きウミガメのロコモーションについて扱います。 以下本コラム作成の為の参考サイト:https://ja.wikipedia.org/wiki/カメhttps://en.wikipedia.org/wiki/Turtlehttps://ja.wikipedia.org/wiki/ウミガメhttps://en.wikipedia.org/wiki/Sea_turtlehttps://ja.wikipedia.org/wiki/ヒメウミガメhttps://en.wikipedia.org/wiki/Olive_ridley_sea_turtleヒメウミガメの Arribada アリバダ現象https://ocean.si.edu/ocean-life/reptiles/kemps-ridley-nesting-arribadahttps://ja.wikipedia.org/wiki/アカウミガメhttps://en.wikipedia.org/wiki/Loggerhead_sea_turtlehttps://ja.wikipedia.org/wiki/アオウミガメhttps://en.wikipedia.org/wiki/Green_sea_turtlehttps://ja.wikipedia.org/wiki/タイマイhttps://en.wikipedia.org/wiki/Hawksbill_sea_turtlehttps://ja.wikipedia.org/wiki/オサガメhttps://en.wikipedia.org/wiki/Leatherback_sea_turtle |
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ウミガメの産卵と生殖戦略卵生 vs. 卵胎生 vs, 胎生 ウミガメは、絶滅種含めて他の全ての爬虫類と同様、一旦地上に進出してから二次的に水棲化した爬虫類であり、卵胎生も獲得していませんので、雌個体は産卵の為に必ず上陸する必要があり (雄個体は終生海中で過ごす)、これまで触れた様に、そこを捕食者に狙われるのが最大の泣き所になります。雌は砂浜に上陸後、満ち潮のラインより上のところ (潮上帯)の、砂浜と海浜植物が生えている境目付近の柔らかな砂に、まず前肢で地ならしを行って平らにしてから次いで後肢で直径 30〜40cm程度のやや深めの穴を掘り、ピンポン玉大のまん丸の卵を一度に 100個程度産み落とします。発育中の砂の温度が高いと卵が雌となり、逆に低いと雄になりますので、雌は本能的に丁度良い深さに穴を掘り雌雄比を整える訳です。砂中の卵は約 2ヶ月で自然孵化しますが、砂から脱出した子ガメが安全を求め本能的に一目散と外洋に達するまでの歩行及び遊泳の間に、海鳥や魚類等に拠り、その大方が捕食されてしまいます。 卵を100個も生むのは生存の歩留まりが悪い事への対応ですね。雌の腹に、甲羅で囲まれた制限がある中、100個もの卵を抱える容積的な余裕があるならば、卵胎生化して少ない数の幼体をそのまま外洋に生み出す方が安全に思えますが、ウミガメではその方向への進化が行われませんでした。 海洋に進出した他の爬虫類である、魚竜、首長竜、海トカゲが卵胎生化する中、ウミガメは卵生を続けて来ましたが、魚竜、首長竜、海トカゲが全て絶滅してしまい、ウミガメが1億1千万年間生きながらえて来たことを鑑みると、卵胎生にすれば勝ち組だ、万歳!とも言えません。水棲に特化し、浜への産卵のための上陸が不可能な身体では、海中に産卵する訳にも行きませんので、水棲オンリーへの特殊化と卵胎生化獲得は同時に起きたと考えざるを得ませんが、別段、僅かに地上性を残すウミガメであっても先に卵胎生化しても不都合は無かった筈です。ウミガメは生殖生理機構の改変ではなく産卵数で対応する戦略ですが、どうして卵胎生化せずに推移して来たのか、その<頑迷さ>を考えると面白い様にも見えます。ヘビに関しては例えばニホンマムシは卵胎生ですが、ウミヘビは全て陸上 (洞窟など)で産卵します。こちらは卵胎生化すると細長い体幹の腹部が膨れ、蛇行遊泳に支障が出るからなのかもしれません・・・。 |
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換言すれば、海洋性爬虫類が腹の中で幼体を育てる事が、一見すると進んだ生き物へと進化したかの様に見えますが、実は母体側或いは幼体側の生存に不利となり易い状態を招く可能性、詰まりは卵胎生は海洋性爬虫類には脆弱性をもたらした<歪んだ>進化、<背伸びをした>進化であった可能性、を考えるべきかもしれませんね。逆に言えば、爬虫類は高度に水中適応して魚の様になってはマズい生き物であると言えるかもしれません。環境に合わせて運動性、ロコモーション性で最適応化すれば、その適応形態が進化的に未熟な生殖、或いは幼体の成長システムに対して適応し切れない無理をもたらし、(カメでは平気だった?)環境変動その他がその動物の絶滅への引き金を引くとの図式です。地上にて真の胎生を獲得した哺乳類が海棲哺乳類化したのとは異なり、海棲に由来する環境圧の重みが爬虫類の生殖生理には重くのし掛かる可能性です。1つには、或る程度に成長した少ない数の幼体を直接海中に産んでも捕食されてしまい、数多くの卵を地表に産んだ方がまだ個体数を維持し得た可能性もあるでしょう。また1つには、海水温の低下が<胎児>の発育にダイレクトに大きな悪影響を与えた可能性も考えられます。− この様な事を考えると、ウミガメは海中では無く砂浜を選んで正しかったと言える様にも思えてきます。まぁ、海水温の低下は、南国の楽園でこの世の春と裸で過ごして来た人間が、急に冬を迎えてセーターの存在を知らずに風邪を引くような塩梅でしょうか。 或る動物の系統が環境に適応して、その環境に特化して進化してきた動物に似たような形態や習性を持つ事がよく知られており、これは適応放散ゆえの収斂(しゅうれん)現象と呼ばれることをこれまで何度も繰り返し述べて来ました。カラダの生理機構(中枢神経系に拠る制御も含めて)の完成度が高くないと、環境変動が生じた時にその枝先(モドキ動物)が枯れてしまうと表現すれば分かり易いかもしれません。ちなみに<劣った>哺乳類である有袋類には海棲種は存在しませんが、未熟な赤ん坊を産み袋の中で乳首に吸い付いて成長させる生殖戦略では水中生活は不可能です。母親は子供が独立するまで地表生活を余儀なくされますが、それでは水中生活への適応はストップしてしまいます。<更に下>のカモノハシの場合、卵生であり巣は水面より上に設営し、親が時々戻って授乳するとの何とも不思議な方法で子供も育てます。親の活動域と子育ての場(地表)を別とする点で、トリの生殖戦略にも類似します。卵生であることに合理性がある訳ですね。卵生−卵胎生−胎生の進化的変遷については別項でまた詳細に検討する予定です。 本邦では、アカウミガメが本州南域に、アオウミガメ -が南西諸島、小笠原諸島に、またタイマイ が南西諸島各地で産卵を行うことが知られています。オサガメが奄美諸島で産卵したことも過去に観察されています。 |
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