ロコモーションの話 ー カメのロコモーションN |
||
2021年5月20日 KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 カピバラと他の水棲齧歯類との運動特性の比較をこれまで行ってきました。最終的にビーバーの尻尾の扁平化の持つ機能的意義について考察しようと思いますが、その前に途中追加的にロコモーション関連の話をまた〜りと採り上げます。その第35回目です。運動性に関することですので、youtube からの動画資料を多くお借りしての解説です。 爬虫類についてのお話の31回目です。引き続きウミガメのロコモーションについて扱います。 以下本コラム作成の為の参考サイト:https://ja.wikipedia.org/wiki/カメhttps://en.wikipedia.org/wiki/Turtlehttps://ja.wikipedia.org/wiki/ウミガメhttps://en.wikipedia.org/wiki/Sea_turtlehttps://ja.wikipedia.org/wiki/ヒメウミガメhttps://en.wikipedia.org/wiki/Olive_ridley_sea_turtlehttps://en.wikipedia.org/wiki/Loggerhead_sea_turtlehttps://ja.wikipedia.org/wiki/アカウミガメhttps://ja.wikipedia.org/wiki/オサガメhttps://en.wikipedia.org/wiki/Leatherback_sea_turtle |
||
ウミガメのロコモーション 羽ばたき型の意義 ウミガメの形態、繁殖戦略、保護と、直接のロコモーションとは離れるお話が続きましたが、ぼちぼちウミガメの遊泳ロコモーションの本題に入りましょう。 他の爬虫類、いや一般的な哺乳類に於いても、<体幹を左右に振ったり、背腹方向に曲げ伸ばしたりしたの動作>+<四肢の動作>−全ては反復回転運動から成立する−で前方推進力を産生しているのですが、カメは甲羅で覆われていて体幹(胴体)の動作が出来ず、推進力は主に四肢の動きで得る他にありません。この様に体幹運動性がほぼ完全に封じられた脊椎動物は珍しく、その特性を踏まえてロコモーションを考察する必要があります。尤も、ナガクビガメの様に頸部が伸張しているカメの場合は、首を左右に振ってウミヘビの様な推進力を得ることも考えられますが、実際には推進力を産生するのがメインでは無く、四肢の動作の反力で甲羅部分が左右にブレるのを打ち消して、まっすぐ効率的に前進するのを助ける効果を得るものではと推測します。また舵取りに利用する時はあっても、尻尾が長大化してこれを左右に振り推進力を得るカメは存在しません。折角甲羅を設けたのに甲羅に仕舞いきれない尻尾があればそこを的に噛みつかれてしまい進化した意味がありませんね。この様な事から、カメに於いては矢張り前方推進力パワーは専ら四肢の漕ぎ動作によって得られると考えるべきでしょう。 四肢の漕ぎ進めは、純粋に前方に進む運動成分と側方また上下に、或いは体長軸回りに回転する成分とから成り、これはカメの運動特性、生息環境にも密接に関与してきますし、甲羅の形態や手足のヒレの大きさ、構造、更には水の粘性を考えるとボディサイズにも当然関連して来る筈です。まぁ、水中を「飛翔」していることから航空機の運動を理解することにも通じるところがありそうです。但し、飛行機やトリの飛翔との大きな違いは、カメには−水棲脊椎動物は皆そうですが−水中で浮力が働き、重力に抗する力成分を産生する必要が無いことです。 |
||
単にウミガメの遊泳を見ていても、のんびりしていていいなぁ、で終わってしまいますので、他のカメや生き物の遊泳動作と比較する事、即ち比較運動学の考え方を通じてその特性を浮かび上がらせる手法を採りましょう。まずはさっと遊泳動作を見て行きましょうか。 アオウミガメは海底の砂地に生えた植物を食べますが、海底に接しながらそろりと這い進む時に前肢を左右交互に漕ぎ進める動作を行います。浮力も利いていますので、左右交互の軽度の力でも前進出来る訳ですが、これは地表での他の爬虫類のロコモーション動作と同じです。但し、アオウミガメの成体が産卵の為に浜に上陸して前進する時には、前肢を左右同時に漕ぎ進めますが、これは片腕では重い体重を動かせないからでしょう。小型のヒメウミガメの上陸の際には、左右交互に前肢を動かして這い進めもします。左右交互の<漕ぎ進め>でも、腹甲と砂面との間に摩擦力が働き、無駄な左右方向への甲羅の回転を抑えてくれますね。 海中を遊泳する場合は左右同時に羽ばたきますが、仮に左右交互に前肢で漕ぎ進めるとなると、体幹がその都度左右方向に大きくブレてしまい推進効率は低下してしまうでしょう。以前のコラムで紹介したアカミミガメなどは水中でも地表と同じく左右交互に前肢で漕ぎ進めますが、手のサイズも小さく、一漕ぎしても反動で体幹が大きく回転することもありません。これを考えると、ボディサイズの大型化と海流に抗して推進する必要性が強大な前方推進力を得るための手のヒレサイズを大型化させた、それと同時に、発生する左右の回転力を相殺する為に左右対称的な前肢動作で遊泳する必要が生じたことが理解出来ます。 海中をまっすぐ前進する場合には、後肢は足の平面を腹甲とほぼ同一平面上に置きますが、平たい甲羅を含めて、前肢の羽ばたきが生じる背腹方向への揺れを抑制するのに役立ってもいそうです。まぁ、目的とする前方推進以外の身体の動きを如何に封じて滑らかに推進するかの姿勢並びに形態的な適応でしょう。これは、ロコモーションする際に、距離と速度に応じて、どの様にして無駄なエネルギーを消費せずに効率よく進むのかへの各動物の工夫でもあります。 海棲への遊泳適応には、体幹を左右に曲げて(一般魚類、ウミヘビ、ウミイグアナ等)或いは背腹に曲げて反復回転を起こす方法(海棲哺乳類)、体幹の運動性を捨て四肢やヒレを動作させて推進する方法(カメ型)、両者をミックスする方法に大別できそうですが、カメ型は、更に左右非対称的にパドリングさせる方法(アカミミガメ型)と左右対象的に羽ばたき型で推進力を得る方法(ウミガメ型)に分けて理解する事が出来そうです。これを頭に入れた上で、周辺の生き物を含めてウミガメの遊泳性の進化の流れを次回から考えてみましょう。 |
||