軟骨魚類の羽ばたきロコモーション@ ギンザメ |
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2021年6月1日 KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 カピバラと他の水棲齧歯類との運動特性の比較をこれまで行ってきました。最終的にビーバーの尻尾の扁平化の持つ機能的意義について考察しようと思いますが、その前に途中追加的にロコモーション関連の話をまた〜りと採り上げます。その第37回目です。運動性に関することですので、youtube からの動画資料を多くお借りしての解説です。 ウミガメの様な羽ばたき型の遊泳ロコモーションを示す各種の動物をこれ以降見て行きましょう。 以下本コラム作成の為の参考サイト:https://ja.wikipedia.org/wiki/板鰓亜綱https://en.wikipedia.org/wiki/Elasmobranchiihttps://ja.wikipedia.org/wiki/全頭亜綱https://en.wikipedia.org/wiki/Holocephalihttps://en.wikipedia.org/wiki/Spotted_ratfishhttps://ja.wikipedia.org/wiki/ギンザメhttps://en.wikipedia.org/wiki/Silver_chimaerahttps://ja.wikipedia.org/wiki/エイhttps://en.wikipedia.org/wiki/BatoideaDevelopment and Evolution of Dentition Pattern and ToothOrderin the Skates And Rays (Batoidea; Chondrichthyes), L.Viriot, et al.April 2015 PLoS ONE 10(4)https://www.researchgate.net/publication/294582924_Development_and_Evolution_of_Dentition_Pattern_and_Tooth_Order_in_the_Skates_And_Rays_Batoidea_Chondrichthyes |
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羽ばたきロコモーションとは 羽ばたきとは、体幹を水平に位置させた動物に於いて、カラダを左右対称に分割する平面 (矢状平面と言う)に向かって対称的に四肢を接近させたり(内転と言う)、そこから遠ざけたりする(外転と言う)運動です。しかし、単に背腹方向に蝶番運動をさせてもカラダを前方に進ませることは出来ず、この様な往復的な反復運動の中に、必ず媒体(空気、水、土)を後方に押し出す運動成分−カラダを左右に通過する軸回りの回転運動成分−を発生させる必要があります。例えばボートに乗って左右対称的にオールで漕ぎ進める場合にも、必ずボート船体を左右に横切る横軸回りの運動を発生させているからこそ船を進めることが出来る訳です。まぁ、当たり前の事ですが、船体の真横にオールを突き出して上下させても船は全く前進しません。 羽ばたき運動する利点ですが、これまでにも述べて来ましたが、仮に片側の手足で漕ぎ進める場合、カヌーを片手でパドリングする時の様に、反作用で船体が右左へとブレますが(実際は鉛直軸回りの船体の回転運動になります)、両手で漕げば、互いの逆方向の力成分が相殺されて船体がぶれることなく、即ち前方推進に無駄な運動無くスムーズに進むことが出来るとの実に単純な理由からです。 この様なバイオメカニカルな視点を頭に input して、生き物の羽ばたきロコモーションついてざっと見て行きましょう。 |
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軟骨魚類の羽ばたきロコモーション 脊椎動物の一歩手前の進化段階にあるナメクジウオに類似してカラダが左右に平たく、或いはヘビ様に紐状になり、体幹を左右に振って推進力を産生するのが魚類の一般的なロコモーション方式です。しかし一方、同じ魚類とは言っても、硬骨魚類に比べて進化レベルの低いとされる軟骨魚類の仲間には、体幹運動性に乏しく胸びれ動作をメインとして遊泳する変わった魚も居ます (ギンザメの仲間)し、体幹を偏平化させて周囲のヒレに波動を起こして前進するもの (エイ)もいれば、左右対称的に大きく羽ばたいて進むもの (イトマキエイ)も存在します。因みに硬骨魚類のトビウオは空中を飛翔中に左右の胸びれを左右対称的に広げますが、羽ばたいて推進力を産生することなくグライダーの翼の様に飛行中のバランスを取り浮力を得るのに利用している様に見えます。前方推進の動力として利用していないならこちらは羽ばたき型ロコモーションとは言えず、翼竜、或いは哺乳類ではモモンガ、ムササビ、ヒヨケザルなどと同様に只の滑空ですね。 |
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ギンザメの羽ばたきロコモーション さて、まずは軟骨魚類の中の羽ばたき型遊泳を示す種類を見て行きます。軟骨魚類の仲間からまず4億年以上前に全頭亜綱 Holocephali (頭が身体の前半分を占める頭でっかちの魚で、現生種はギンザメの仲間のみ、鰓穴は1対のみ)と板鰓亜綱 Elasmobranchii (鰓穴は5対以上)とが分離し、次いでサメ(鰓穴が体幹の側方に開く)とエイ(鰓穴が体幹の腹側に開く)に分離し今日に至っています。 ギンザメの名を何となく耳にされた方もそこそこ居られるのではと思いますが、実は国内の一部の地域では漁獲されて食用とされるケースもあります。伊豆の戸田(へた)漁港は相模湾の深海に棲息するタカアシガニの水揚げ港としてよく知られています(院長もそこの民宿に泊まったことがあります、タカアシガニも料理として出ました)が、深海魚のギンザメも底引き網で漁獲されます。調理して食した方に拠ると、刺身は不味いが煮付けなどは食べられるとのことです。筋肉はロウソクの様に白く水っぽい様子ですが、海流のない静かな深海域をぬぅ〜っと滑る様に遊泳する魚ですので、体幹の筋力は弱くて足り、これでは肉にコクや旨味は期待出来ませんね。始終動かしている胸びれの付け根の筋肉はまだ美味いかも知れません。 |
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遊泳シーンに関しては、Spotted Ratfish や Chimaera の語で youtube を検索するとギンザメの仲間の遊泳シーンが見れますのでご覧下さい。軟骨魚類の仲間であるとは言っても、サメやエイとは雰囲気がだいぶ異なり、不気味なオーラ?を発している様に感じますが如何でしょうか?まぁ、工学者がこしらえた、無表情のロボット魚を思わせる姿形、顔付き並びに泳法です。こいつら何考えて生きてんだ?と思わず考えてしまいます・・・。 遊泳法ですが、体幹は不動のまま、大きな胸びれだけを用い推進力を得ています。一般的な魚の様な垂直方向に伸びた尾びれがなく、尻尾に向かって体幹が細っていますので、これでは体幹を左右にくねらせても推進力は殆ど得られない構造です。舵取りの際に体幹を左右に曲げる程度にとどまります。胸びれは薄く膜状で柔軟性があり、それ自体に波動を起こし、後方並びに下方へと押し出す力を産生している様に見えます。胸びれを背側に引き揚げる時はヒレを後方に回転させて傾け、次いでそれを前方に回転させながら腹方に引き下げつつその途中で今度は後方に回転させて尾腹側方に水を押し出す動作をしています。ヒレの上下動とヒレ中心軸回りの回転を組み合わせた複雑な運動ですね。実はヒトがクロールで泳ぐ際にも同様の背腹方向の上下動と腕の長軸周りの回転を組み合わせた複雑な運動を特に意識することなく行っている様にも見えます。バタフライ泳法では体幹の背腹方向の屈伸で大きな推進力を得ていますが、体幹の運動無しで前肢のみでクロール型の左右対象動作を行うとギンザメの泳法(気持?)に近づくでしょう。但し、他人からは不気味な奴だと思われかねませんのでご注意のほどを。 ヤワな膜状のヒレを用いたこの様な泳法では潮流に抗してダイナミックに泳ぎ進める事は期待出来ず、言わば静かな深海を泳ぐ蝶と言ったところでしょうか?軟骨魚類の仲間から早期に分離し、深海域に生き残った特殊化した生き物であると考えるのが妥当にも思います。従ってギンザメの仲間の泳法が、軟骨魚類の祖先系の泳法であったと考えるのはおそらく正しくはないでしょう。 尚、硬骨魚類のホウボウも胸びれが発達し頭でっかちであり、一見ギンザメに類似しますが、垂直な尾びれの発達から予想される通り、体幹を左右に振って推進力を得ます。胸びれは推進力産生には関与せず、身体の左右の安定性を保持する為のものであり、海底歩行時のバランサーとして機能する様に見えます。目立つ色彩模様ですので、仲間同士に信号を送る、或いは疑似目玉模様として敵を遠ざける効果もあるやも知れません。院長はホウボウ並びにこの仲間のハッカク (鱗の鎧で覆われた魚)の刺身を数回食べたことがありますが、季節によっては採食する餌の関係か、ツーンとする特有の臭みを感じる時があります。一部で珍重する向きもありますが市場価格は特に高くはありません。ホウボウもハッカクも頭でっかちでサイズの割りには身が少ないです。 |
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