エイのロコモーションA シノノメサカタザメ |
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2021年6月15日 KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 カピバラと他の水棲齧歯類との運動特性の比較をこれまで行ってきました。最終的にビーバーの尻尾の扁平化の持つ機能的意義について考察しようと思いますが、その前に途中追加的にロコモーション関連の話をまた〜りと採り上げます。その第40回目です。運動性に関することですので、youtube からの動画資料を多くお借りしての解説です。 ウミガメの様な羽ばたき型の遊泳ロコモーションを示す各種の動物を引き続き見て行きましょう。 以下本コラム作成の為の参考サイト:https://ja.wikipedia.org/wiki/板鰓亜綱https://en.wikipedia.org/wiki/Elasmobranchiihttps://ja.wikipedia.org/wiki/エイhttps://en.wikipedia.org/wiki/Batoideaノコギリバナ目https://en.wikipedia.org/wiki/Rhinopristiformesrhino + pristi = nose + scie 鼻がノコギリノコギリエイhttps://en.wikipedia.org/wiki/Sawfishギターフィッシュhttps://en.wikipedia.org/wiki/Guitarfishhttps://en.wikipedia.org/wiki/Rhinopristiformeshttps://ja.wikipedia.org/wiki/シノノメサカタザメhttps://en.wikipedia.org/wiki/Rhina_ancylostomahttps://www.georgiaaquarium.org/米国アトランタに在るジョージア水族館。シノノメサカタザメが飼育されています。Bibliography Database of living/fossil sharks, rays and chimaeras(Chondrichthyes: Elasmobranchii, Holocephali)https://shark-references.com/Development and Evolution of Dentition Pattern and Tooth Orderin the Skates And Rays (Batoidea; Chondrichthyes), L. Viriot, et al.April 2015 PLoS ONE 10(4)https://www.researchgate.net/publication/294582924_Development_and_Evolution_of_Dentition_Pattern_and_Tooth_Order_in_the_Skates_And_Rays_Batoidea_Chondrichthyeshttps://en.wikipedia.org/wiki/Great_white_sharkhttps://ja.wikipedia.org/wiki/ホホジロザメ |
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本当のサメ vs. サメ型エイ サメは硬骨魚類などの一般的な形態と類似して、泳法も体幹を左右にくねらす方式を採っています。これに対し、広義のエイの仲間には、アカエイの様に体幹側面に連続して配列するヒレに前方から後方に向けて波動を起こして前進するもの、エイ型だが海底を尻尾の付け根にあるトゲ(これは pelvic fin 即ち腹びれです)を用いて歩行するもの、身体の前半はエイ型で偏平化しているが後半がサメ型を呈し、推進力を体幹後半を左右にくねらせてえるもの、また、トビエイの様に体幹左右に三角形の頂点のように突き出た大きなヒレを左右対称的に羽ばたかせて前方推進するもの、など様々な遊泳スタイルを持ち多様性に富んでいます。今回は、<前半エイ型+後半サメ型>の仲間の遊泳方法を見て行きます。 再び二次的にサメ型化したエイの仲間の泳法を考えるに当たり、<本家>のサメの泳法と比較してみましょう。 サメの泳法肉食サメとしては最大サイズを示すホホジロザメ Great white shark Carcharodon carcharias は、man-eater 即ち人食い鮫として最も有名ですが、瞬間最高時速 25-35km程度を出すと言われ、海面から体が完全に飛び出す高さまで跳躍することも出来るとされています。マグロの様に時速50km程度で遊泳する事は出来ませんが、体長 4〜5m、体重1〜1.5t 程度のボディサイズでこの速度が出せ、しかも海面上に跳躍出来ることは、相当の前方推進力を産生出来ることを意味するものでしょう。胸びれは体幹の左右に水平に突きだし、肉厚で頑丈です。遊泳動作のビデオを見ると、胸びれは殆ど動かさず、航空機の水平翼として遊泳中の水平安定性を生んでいる事が判ります。但し主翼の断面が揚力を生む形状をしている航空機と同様の機能形態を持って居るのかは院長は知識を持ちません。形状的にはイルカの胸びれ(これは前肢です)に非常によく似ています。頭部は円錐形様で尖り、水中を進む弾丸詰まりは魚雷を思わせる形状です。前方推進力は体幹を左右にくねらせる方式で得ますが、これは硬骨魚類を含めた一般的な魚と同じ方式です。体幹は左右に平たくは無く、断面は円筒形に近いですが、マグロなどが円筒形に近いものの幾分左右の偏平性を示すのに対して、左右の偏平性は見て取れません。尻尾を左右に振ればその反作用で体幹は左右にブレてしまい、前方推進には無駄な動作となりますが、左右に平たい硬骨魚類では、体幹構造自体がそれを打ち消す大きな機能的意義を持ちますし、背びれなどもその効果を発揮します。ホホジロザメは、体幹全長のほぼ中央に三角形の大型の背びれ(尾びれと共にフカヒレの原料)を1つ突き出し、他に小さな背びれを持つのみで、これらは体幹の左右のブレを抑制する機能はそれほど強くは無さそうです。尤も、体幹形状が魚雷様ですので、一度推進力を得ると流体力学的に左右のブレを起こさずに直進する為に、背びれはこれで足りている、とも考えられなくもありません。遊泳して新鮮な海水を開けっ放しにした口から主に取り入れ、体幹側面の鰓穴から排出する受動的な呼吸を行いますので、生涯海中を休み無く泳ぎ続ける必要があります。他方、同じ真性サメであっても底生型のネコザメなどでは、能動的な水流を起こすことが出来、遊泳せずとも呼吸が可能です。 |
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サメ型エイの泳法シノノメサカタザメ Bowmouth guitarfish Rhina ancylostoma は、ノコギリエイに近い仲間ですが、2.7m、135kg に達します。本邦周辺海域でも稀に見られますが、東南アジア海域からインド洋の沿岸寄りの海底域を遊泳します。一見サメを思わせる姿ですが、エイの仲間であり、歯が臼状で人間が噛みつかれる危険性が無く、面白い形でアピールすることから水族館では良く飼育されています。頭部は上下に扁平で半円形を呈し、そのすぐ後方、左右に巨大な三角形の胸びれを左右に突き出します、これは偏平な頭部とほぼ一続きの構造と言え、ガンギエイなどの形態に類似しています。これらの前方の<平たい>部分以降はサメの身体を接ぎ木した様な姿を示します。前方推進力は専ら後半部分のサメ型体幹を左右にくねらせる事により産生しますが、ホホジロザメとは大きく異なり、複数の大きな背びれを持ちます。一番前方の背びれは大きくて体幹のほぼ中央に突き出ますが、他のものはややサイズが小さくこれより後方に配列します。小さい方の背びれは体幹の後方に配列する事から、体幹の左右のブレを抑制する為のものと言うよりは、尾びれを助けて推進力を産生する機能を持つように見えます。シノノメサカタザメの遊泳中には、頭部の左右のブレがホホジロザメよりは大きく見えますが、上下に偏平ゆえ、作用のブレを抑制する抵抗成分が少なくブレてしまい易いのでしょう。頭部のブレを抑制したいのであれば、背びれ様の垂直翼は頭部そのもの、或いは体幹のもっと前方に備えるのが合理的ですがそれは見られません。水中を高速に直進して獲物を目指すホホジロザメと異なり、底生の動きの少ない餌を探すには、高度な直進性の元でスピードを出す必要は無く、ブレも特に問題にはならない、いやひょっとして寧ろ餌の捕獲に役立っている可能性も考えられます。 以上から、シノノメサカタザメでは、真性サメほどの高度勝つ強力な遊泳ロコモーションを獲得するまでには至っておらず、サメもどきに留まる生き物であると考えられそうですね。底生の生き物として高度に適応進化したエイが、後世になり海底から<卒業>し、1つはサメ型の推進力を復活させるべく進化し、もう1つは前コラムにて触れたトビエイの仲間の様に羽ばたき型水中遊泳を洗練させ、硬骨魚類にも全く真似の出来ない革新的な遊泳法を獲得した事が判ります。ロコモーションの進化とは、必ずしも中枢神経系−大脳−の高度な発達レベルとは比例しないことを示す恒例です。まぁ、人間などロクに泳ぎも出来ず、昆虫の様に飛翔する事も出来ません。山に入れば遭難事故を多発したりで・・・。 次のコラムでは、水中羽ばたき遊泳を見せる脊椎動物についてももう少し見て行きましょうか。 |
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