羽ばたきロコモーション 海鳥@ |
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2021年6月20日 KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 カピバラと他の水棲齧歯類との運動特性の比較をこれまで行ってきました。最終的にビーバーの尻尾の扁平化の持つ機能的意義について考察しようと思いますが、その前に途中追加的にロコモーション関連の話をまた〜りと採り上げます。その第41回目です。運動性に関することですので、youtube からの動画資料を多くお借りしての解説です。 ウミガメの様な水中羽ばたき型の遊泳ロコモーションを示す各種の動物を引き続き見て行きましょう。 以下本コラム作成の為の参考サイト:https://en.wikipedia.org/wiki/Aukhttps://ja.wikipedia.org/wiki/ウミスズメ科https://en.wikipedia.org/wiki/Tufted_puffinhttps://ja.wikipedia.org/wiki/エトピリカhttps://en.wikipedia.org/wiki/Horned_puffinhttps://ja.wikipedia.org/wiki/ツノメドリhttps://en.wikipedia.org/wiki/Common_murrehttps://ja.wikipedia.org/wiki/ウミガラス |
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海鳥の水中羽ばたき遊泳 概論 トリが空中を飛翔する際には翼を左右対称式に羽ばたたかせて、前方への推進力を得ると同時に空気中の揚力(反重力方向の運動成分)を得る必要があります。空気は水や土に比較すると格段に軽く、大きな力で打ち付けないとそれに対する反作用としての移動力を得ることは不可能です。まぁ、人間が両腕で羽ばたいたところで、暖簾に腕押し状態のサマで悔しいながらも 1mmも身体は浮上もしませんね。斯くしてトリは翼に変化した前肢に面積拡大のための羽根を備えると同時にそれを羽ばたかせるための強大な胸筋群を発達させています。 しかし、一度空中飛翔の能力を得た動物であれば、水の抵抗性−粘性−は高いものの、基本的に空中飛翔と同様のロコモーション機構のもとで、水中を<飛ぶ>ことが出来なくもありません。空気中を飛翔するには重力に抗して身体を浮上させる成分が必須ですが、一方水中ではそれは不要となる反面、媒体としての重たい水の中で進む為の前方推進力成分への要求度が格段に高まるとの違いは出ますが。皆様、始祖鳥などの化石標本で良くご存じと思いますが、トリは水中で進化を遂げた生き物ではなく、地上で進化した爬虫類の1つ (ワニや恐竜に近縁な仲間)の枝が進化した生き物です(如何にしてトリとして進化したのかに関しては後日詳しくコラム化す予定です)。即ち、水中を遊泳するのは二次的に得られた適応形態になります。一度地表ロコモーションに進化した、即ち地面を媒体として体幹や四肢を進化させてきた動物が二次的に水中に進化する様式、とは根本的に異なった遣り方で水中に進出した話になりますね。 この水中飛翔は、よく知られているペンギンの他にも幾つかの海鳥で観察されています。以下、エトピリカをスタートとして主な水中遊泳性のトリを採り上げて、その動物学的特徴並びにロコモーションをじっくりと見て行きましょうか。 |
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エトピリカとは エトピリカ Tufted puffin Fratercula cirrhata は、鳥綱チドリ目ウミスズメ科ツノメドリ属に分類される鳥類ですが、この和名は元々はアイヌ語であり、エト (くちばし)+ピリカ (美しい)の意味になります。一年の多くを外洋で過ごし、4月から8月にかけての繁殖期のみ、天敵の寄り付かない険しい断崖で営巣します。太平洋の北の端の領域に広く棲息し、絶滅危惧のレベルにまではまだまだ至りませんが少しずつ数を減らしており、日本の北海道周囲の孤島の営巣地では数が非常に減ってきています。同属の大変似た姿のツノメドリ (角目鳥、Horned puffin Fraterculacorniculata はカムチャッカ半島並びにアリューシャン列島の島沿いに、またニシツノメドリ 西角目鳥 Atlantic puffin Fratercula arctica は、これらとは異なり、北大西洋から北海域に掛けて棲息します。これらを判別するには、例えばエトピリカでしたら、頭部の左右の各々の目の上から房 tuft の羽毛が後ろに伸びます。顔面部を除き、全身が黒い羽毛で覆われます。ニシツノメドリは tuft が見られず、体幹の腹側半分が白色です。いずれも左右から偏圧された形の大きなクチバシを持ち、足はアヒルのようなヒレを備えてオレンジ色に塗られています。とても印象的なトリです。 web 上の投稿動画にはこの仲間のトリがペットとして飼育されている例も見られ、特に北米の北太平洋岸の人々には馴染みの強い海鳥である様に見えます。今から10年程前ですが、オークションサイトにこの仲間のトリの剥製が出品され、院長も学術標本として落札しようかと思いましたが、状態が非常に悪く、また日本以外では入手が比較的容易なトリであることから入手は止めた経緯があります。漁網に外道 (目的外の獲物)として混獲され、年間に相当数が死亡していると報告されていますが、例えばイカ漁の刺し網に絡まって死亡した個体がそのまま海中に放棄されているなどしているのでしょう。推測に過ぎませんが、近年、北海道の離島で個体数が減少して来ているのは、日本海側で盛んなイカ漁が原因である可能性もあるかもしれません。近代の大がかりな商業的漁業はターゲットとする魚以外の海鳥、ウミガメを巻き込む例が非常に多く、少しずつ漁法の改善も加えられて来ていますが、まだけして万全なものではありません。 ウミスズメ科はウミガラス、ウミスズメ、ウミバト、ウトウなどの仲間から構成されますが、いずれも海鳥として普段は海洋上で棲息し、繁殖期のみ崖の上で営巣する特徴があります。エトピリカの属するツノメドリ属はウトウの仲間に属し、ウトウ属とは一番の近縁です。 |
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