羽ばたきロコモーション 海鳥C |
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2021年7月5日 KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 カピバラと他の水棲齧歯類との運動特性の比較をこれまで行ってきました。最終的にビーバーの尻尾の扁平化の持つ機能的意義について考察しようと思いますが、その前に途中追加的にロコモーション関連の話をまた〜りと採り上げます。運動性に関することですので、youtube からの動画資料を多くお借りしての解説です。 ウミガメの様な水中羽ばたき型の遊泳ロコモーションを示す各種の動物を引き続き見て行きましょう。 以下本コラム作成の為の参考サイト:https://en.wikipedia.org/wiki/Aukhttps://ja.wikipedia.org/wiki/ウミスズメ科https://en.wikipedia.org/wiki/Ancient_murrelethttps://ja.wikipedia.org/wiki/ウミスズメhttps://en.wikipedia.org/wiki/Crested_auklethttps://ja.wikipedia.org/wiki/エトロフウミスズメhttps://en.wikipedia.org/wiki/Pigeon_guillemothttps://ja.wikipedia.org/wiki/ウミバトhttps://en.wikipedia.org/wiki/Cepphushttps://en.wikipedia.org/wiki/Parakeet_auklethttps://ja.wikipedia.org/wiki/ウミオウムttps://en.wikipedia.org/wiki/Common_murrehttps://ja.wikipedia.org/wiki/ウミガラスhttps://en.wikipedia.org/wiki/Tufted_puffinhttps://ja.wikipedia.org/wiki/エトピリカhttps://en.wikipedia.org/wiki/Horned_puffinhttps://ja.wikipedia.org/wiki/ツノメドリ |
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その他のウミスズメ科A 前回のウトウに続き、この際?ですので同じウミスズメ科のトリを幾つか紹介しましょう。実はウミスズメ科の仲間には、ウミスズメを始め、ウミオオム、ウミバト、ウミガラスなど、他のトリの名前にウミを冠した種が数多く含まれます。ウミバトは英名が Pigeon guillemot とハトの名前が付き、実際、ハトに似た外観ですが、これ以外のトリは和名のみの話であり、スズメ、オウム、カラスなどには似ていません。なぜその様な和名にしたのかは不明ですが、おそらく博物館等に勤務している少数の者等がこの様な<お気楽>な命名をしたのでしょうね。 ウミスズメの仲間はエトピリカやウトウなども含め、大半が北太平洋の千島列島やアリューシャン列島、カムチャッカ半島、北米大陸西岸に重なり合って棲息しています。サイズに或る程度の大小は見られますが、まぁ、寒い海域で潜水して小魚を捕らえ(潜水捕食者 diving predator)、規模は異なりますが離れ小島で集団営巣するトリ、とのイメージで間違いではありません。 いずれも、翼を拓いたときの左右幅か大きくも無く、これではアホウドリと全く異なり、気流に乗って空中を悠然と滑空することなど不可能で、羽ばたきの単位時間当たりの回数を増やして飛翔するしかありません。飛翔中の羽ばたき動作を見ると、いずれもハトのそれに類似する様に感じます。一方、この小さめの翼は潜水して水中飛翔する強力なプロペラとして適応的に見えます。アホウドリの翼では水鳥では水の抵抗で撓(しな)ってしまい、推進力を得る以前に折れてしまいそうですが、短めの翼で剛性を高め、強力な胸筋群を利用してダイビングするには向いていそうです。空中飛翔を止めてしまったトリの1つにペンギンが居ますが、ウミスズメの仲間の様な祖先型のトリが、更に潜水性を強める一方空中飛翔性を廃止してペンギンに進化したのでしょう。因みに、この様な<飛べなくなったトリ>については纏めてコラム化する予定です。 |
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ウミスズメ Ancient murrelet Synthliboramphus antiquus全長 20-24cm, 体重 153-250g, 開いた翼長幅 45-46cm。属名Synthliboramphus の由来は sunthlibo + rhamphos = compress + bill で偏圧されたクチバシの意。antiquus = ancient 古老の意だが、これは本種の背中の色が灰色であり、老人がまとうショールを思わせることに由来します。「英名の"ancient"は「古代の」「年老いた」という形容詞だが、この名は後頭部の模様を老人の白髪に例えたものである。」との日本語のwikipedia の記述は誤りでしょう。後頭部に老人を思わせるその様な模様は見られませんので。他のウミスズメ科と分布域は重なります。黄海からロシアの太平洋沿岸域、アリューシャン列島、カナダのブリティッシュコロンビア沿岸に棲息しますが、冬期にはカナダから黄海、日本沿岸へと8000kmを渡る個体も見られ、北太平洋を横断する唯一のトリです。2月にはまた元のカナダの海域に戻ります。この際の1日の飛翔時間は4,5時間程度です。遺伝学的な解析の結果、本種の原産地はアジアにあり、北米に進出したのは極く最近であることが判明しています。詰まり、渡りをするのは古里に舞い戻る訳ですね。冬期にカリフォルニアまで南下する個体も見られます。非繁殖期は10羽ほどの小さな群れで行動し、羽ばたいて潜水し、時には水深40mまで潜ります。ウミバト Pigeon guillemot Cepphus columb全長 30 - 37 cm で体重は 450- 550 g 程度です。属名 Cepphus は古代ギリシア語の kepphos 即ち白い海鳥を意味する言葉です。Cepphus columb で、ハトの様な白い海鳥の意味ですね。英名の guillemot の方は英語のWilliam に相当するフランス語の人名 Guillaume (ギヨームと発音する)に由来すると考えられています。まぁ、ウィリアムのハトの意味ですね。繁殖期の羽毛は、虹色の光沢感のある焦げ茶色で、焦げ茶色のクサビを打ち込まれたような翼の斑文が目立ちます。非繁殖期の羽毛は表層は黒く下層は白で薄い灰色を呈します。長いクチバシと爪は黒、足と口の内側は赤です。非繁殖期即ち冬毛への換毛は8-10月に起きますが、この間の約1ヶ月は全く飛ぶことが出来なくなります。Cepphus 属は3種類が棲息しますが、いずれも北太平洋或いはアラスカから北大西洋に掛けて分布しています。個体数が多く絶滅の危惧はありません。夏場には普段の生息域から幾らか南下する程度で大きな渡りは行いません。長期に亘り同じ雌雄で番を作る習性が有り海辺の岩場に小さなサイズのコロニーを作り繁殖します。1,2個の卵を生み雌雄で孵化させます。水面或いは水中で追いかけ合う<水遊び>として知られる行動が観察されますが、これが番いを維持させまた前交尾行動として機能している可能性があります。口内の赤色も同様に性的な信号として機能するかも知れません。特に繁殖期には鳴き声を発しますが、これはテリトリーを守り、番の絆を強めたり近づく敵を威嚇するのに役立ちます。ウミバトはも6-45m 程度の深さに潜水しますが、通常は15-20m 程度が好まれます。潜水時間は 10-144 鋲ですが通常の平均時間は87 秒程度で、次の潜水までの時間は 98 秒程度です。良く歩行し直立姿勢を習慣的に取ります。他のウミスズメの仲間よりも翼が短く丸味を帯びています。これは飛翔よりも潜水に大きく適応していることを反映しています。飛翔時には助走無しでは離陸出来ませんが一旦飛ぶと77km/s で飛んだとの記録があります。潜水時には2.1 回/秒の割で翼を羽ばたき、またウミスズメとは異なり足でも推進力を得ます。潜水時に水平に75m進んだことが記録されています。 |
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ウミオウム Parakeet auklet Aethia psittacula北太平洋海域に棲息しますが冬季には幾らか南下します。全長25cm 程度の小型の海鳥でオレンジ色の短いクチバシを持ちますが、下のクチバシが上に曲がって特有の外観を示します。これを持ってウミオウムの和名を命名した模様ですが。本種全体としては全くオウムに似ても似つきません。このクチバシは海底から小さな獲物をつまみ上げるのに役立つ他、大きな食物をバラバラにするのにも役立つことが観察されています。ウミバト同様、特に繁殖期に様々な鳴き声を発しますが同様の機能を果たすと考えられています。水深30mほどまで潜り、沿岸からかなり離れた外洋で餌を捕ることが知られています。北太平洋域に約100万羽が棲息すると推定され、絶滅の危惧はありません。ウミガラス Common murre or Common guillemot Uria aalgeウミスズメの仲間の内では大型の種類です。全長 38-46 cm, 翼を開いた幅は 61-73 cm, 雌雄に外観上の区別は着けがたく、体重は南方域では1044g, 北方域では 1250g に及びますが、75-1,250 g 程度と報告されています。 属名のUria はギリシア語のouriaa 即ち水鳥に由来します。種小名aalgea はオランダ語のaalge に一致しますが、auk ウミスズメに相当する古ゲルマン語由来です。北極を中心とする海域、即ち北太平洋と北大西洋、北極海に広く分布します。冬期には本州北部まで南下します。生涯の殆どを海上で過ごし、冬期には巣に戻る事も見受けられるものの、基本的に繁殖期のみ孤島や捕食者の到達出来ない崖などに、他個体との間に隙間が無い場合もあるほどに個体密度の非常に高いコロニーを作ります。1平米に20ペアが営巣していた例が知られています。相互に毛繕いをしますが、これは繁殖の成功率を高めストレスを軽減するのに役立ちます。巣を作らず剥き出しの岩や土の上に1個産卵します。卵は一端が尖ったセイヨウナシ型を呈し転がって断崖からは落ちにくい形状にも見えます。しかしながらこの特有の卵の形状については様々な仮説が提示されていますが確定的なものはありません。棲息域を異にする幾つかの亜種に分類され、少しずつ羽毛の色が異なります。直線的な高速飛翔が可能ですがあまり機敏な飛翔は出来ません。潜水時の方が操作性が良く、通常は30-60m 程度潜水し記録では最深180m の記録があります。非繁殖個体や繁殖に失敗した個体が他個体の雛に強い関心を抱き給餌などの世話をすることが良く観察されます。雛は孵化後16−30日程度で巣を離れ、まともに飛べない中、翼をばたばたさせながら時には457mの高さから滑空して海面に降ります。その後最長2ヶ月間雄が雛の近くに居て世話を焼きます。巣立ち後約2週間で雛は飛翔可能になりますが雄が餌を食べさせ世話をする訳です。雛は海面に降下後すぐに潜水が出来ます。雛は1000km も南に移動します。一方雌は雛の巣立ち後最長36日間(平均1日間)巣に留まります。ウミガラスは番を作りますが繁殖に失敗すると解消されます。ウミガラスは素速く翼を羽ばたたかせて時速80km で飛翔可能です。一列の群れになって海面すれすれに飛ぶのが良く目撃されます。しかしながら、翼の平方センチ当たり 2g の負荷が掛かることから、細やかな飛翔は苦手であり離陸するのも容易ではないことを意味します。換毛期には45-60 日飛ぶことが出来ません。ウミガラスの羽ばたき音はヘリコプターの音にとても似ているとしばしば描写されます。海中では獲物を追跡して潜水飛翔します。通常は1分以下ですが30m程度は進みます。潜水深度は180mに達したことが記録されており数分間水中に留まることが可能です。体長20cm 程度の魚を好んで捕食しますが巣から100kmも餌を求めて離れることがあります。冬期には海面上で休みますが、この時の代謝率は空中を飛翔している時より 40% も増大します。原油流出の影響で繁殖可能な成体の冬期の死亡率が2倍になりますが、これは3歳以下の個体には殆ど影響しません。その個体が4−6歳になり繁殖することでこの死亡率が補填される訳です。ロッククライミングやバードウォッチングでウミガラスの繁殖が脅かされています。人数を制限する試みが為されています。ニューファウンドランドなどでは他のウミガラスの仲間と共に消費されています。肉色は暗く非常に脂ぎっていますがこれは餌の関係です。19世紀半ばにはサンフランスシコからの業者がファロン諸島に遣って来て毎年50万個の卵を獲りサンフランシスコ市民の食べ物に供していました。個体数は多く、繁殖ペアが730万頭、または個体数1800万頭と推定され絶滅の怖れはありません。 次のコラムからはウミスズメの仲間のロコモーションを詳しく見て行きます。 |
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